File No.85iCafe K.Mさん work:マーケティング会社マーケター

宝に埋もれて多幸感に浸る、
穴ぐらスローライフ。

未開拓の地を求め、人々がこぞって大海原へと舵を切った大航海時代。時を同じくして、ロマンと黄金を求め船上を生きた海賊たち。「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「宝島」に出てくる個性豊かな海賊たちは、盗んだ財宝をこぞって洞窟に隠した。

洞窟には宝が眠る——。Mさんが暮らす部屋に足を踏み入れた瞬間、そんな思いがふっと頭をよぎった。

「好きなものにびっしり囲まれた、洞窟みたいな部屋にしたかったんですよ。2年半くらい住んでるんですけど、自分のやりたい世界が作れたんじゃないかな」

Mさんが住むこの部屋は、カフェのような居心地のよさを味わえるリノベーションシリーズ「iCafe」。コンクリートのラフなニュアンスに、ランダムに貼られた足場板がラフな印象のカウンター、開放感が心地良い充分な天井高……、本来ならば名前をイメージしたカフェのような部屋づくりを想像するが、Mさんの発想はまったく異なる。

「この部屋は、天井の高さとお店みたいな雰囲気が気に入って決めました。もともと古着やミリタリー、アウトドアやキャンプ、ワークやヴィンテージが好きで、そういったアイテムがしっくりくる部屋にしたくて。本当は抜け感のある部屋だけど、色々飾りつけしていったらまるっきり抜け感ゼロに(笑)。まぁ、一人暮らしならこれで十分だし、完成度としては120%ですかね」



カフェのイメージとは異なるが、アイテム選びや配置のセンス、どれもがこの部屋にしっくりきて、iCafeの新たなカタチを創り出している。

「ここに越して来る前に住んでいた部屋は、好きな壁紙が選べてより洞窟チックで気に入っていたんですけど、取り壊しが決まって。慌てて部屋を探したときに、この部屋を見つけたんです。部屋にあるものは、その部屋で使っていたものをそのまま持ってきました」

個性的なアイテムに埋め尽くされた部屋の中でも存在感を発揮しているのが、シンボルともいえる舌と唇が印象的なザ・ローリング・ストーンズのネオン管と、アシンメトリーに吊るされた電球だろう。

「ネオン管は10年くらい前に友達がくれたんですよ。部屋にインパクトを与えるし、お店みたいな雰囲気が出て気に入ってます。4つの電球は、1つはもとから着いていたもので、あとの3つは部屋のイメージに合わせて付け足しました。それぞれ長さや電球の大きさを変えたり、滑車をつけたり自分流にアレンジ。実用性というより、インテリアとして存在感を出しました。人と同じが好きじゃないんですよね(笑)」

自分の感性を信じ、湧き出るアイデアを否応なく発揮。宝に埋もれた部屋は、いわばMさんの頭の中のイメージを具現化したものなのかもしれない。

(左)古着屋で購入したというTシャツも、この部屋に飾ればインテリアの一部に。イミテーションの植物とヴィンテージテイストの照明、奥に佇む地球儀が不思議とマッチする。(右)「車輪が付いたテーブルは自分で買ったもので、たしか10万円くらい。引っ越し業者に車輪が付いたトロリーテーブルって言ったら、車輪がついたものは運べませんって言われて、普通のテーブルですって言い直して(笑)。オレンジオイルでメンテしながら大事に使ってます」

この部屋のルールは、
“長く愛さないものは手に入れない”

年代ものの家具や雑貨、服に至るまで、すべてが宝物だというMさん。それもそのはず、Mさんが購入するこれらのアイテムは、並々ならぬ想いで手に入れたものたち。

「家具や雑貨、服も、買うまでにすごく時間がかかるんです。値が張るものだし、真剣に考えてから買いたくて。一生一緒にいたい子って想いで買っているんで、そうそう手放せない。長く愛さないものは手に入れないって決めてるんです」

愛されて購入されたものたちは、恩を返すようにこの部屋と馴染み、一部となっていくようだ。

「一生モノとして買ったものたちではあるけど、飾るだけで終わらせたくない。しまうんじゃなくガンガン使ってこそ本来の姿だと思ってて。ヴィンテージものの洋服も、普段着として着てますよ」

もしかして、年代ものだと思われるジーンズやデニムジャケットも……?

「もちろん(笑)。普通に着てるんで、洗濯もよくするし。だから、ほつれたり切れたりすることもよくあります。そんなときは、ミシンで縫うんです。自己流なんで失敗することもあるけど、糸をほどいてまた縫ってを繰り返す。味にもなるし、そういうものとして新しい形になるから良いんですよ」

一生モノとして選んだものだからこそ愛を持って接し、メンテナンスも怠らない。特別なものとして崇めるのではなく、日常に馴染んでこそ本当の“宝物”。生粋のトレジャーハンターは、今日も夜な夜なミシンの音色を響かせる。

アイデアが湧き出る
マイリノベルームの想い

ギターを弾いたりミシンをかけたり、何気ないひと時こそ至福の時間だというMさん。これだけの宝物に囲まれていたら、外に出ることも少ないのでは。

「キャンプも好きなんで、結構外に出ますよ。友達に誘われて行くことが多いから、手ぶらですけど(笑)。でも料理を作るのが好きなんで、道具を持っていかない代わりに料理を振る舞います。家でも結構キャンプ飯は作りますね」

イメージをカタチにすることが得意だというMさん、料理だけにとどまらず、自作でカーテンを縫い上げたのだとか。

「イメージはいくつもあって、アイデアがどんどん湧いてくるんです。だから、自分で作れるものは何でも作る。作りたいものの集大成としては、自分が納得する家を造りたいですね」



「庭のある中古の家を買って、自分でリノベーションしてみたい。自分で買った家なら、釘も刺せるし庭に穴だって掘れる。好き勝手できるなら、サウナも作りたいですね。REISMの物件のように、取っ手やスイッチカバー、電球にいたるまでこだわりたい。細かいところに手を抜くのってダサいから嫌なんですよ(笑)」

世界観を確立し、それをさらに未来へと発展させる。その場所は、都心なのだろうか。

「場所は特に決めてはいないんですけど、古着屋や雑貨屋、家具屋が歩ける距離にあったら最高ですよね。自分好みの家を造って、好きなものに囲まれる暮らしであれば、場所はどこでも良いんです」

ゆっくり時間をかけて一生モノを手にするMさんのことだ、きっと自身がイメージする家も、じっくりと吟味して決めるに違いない。

宝に埋もれ、喜々としてギターを弾きながら何気ない日々を過ごす——。Mさんのそんな未来が視えた気がした。



(上)ベッドの上にはアメリカ海軍が船で使っていた布で作ったというヴィンテージのハンモックが。「友達が家に来た時は、このハンモックで寝るんですよ。よく落ちないの?って聞かれるんですけど、まだ落ちたことはないです(笑)」(左下)玄関周りにはドライ植物を飾り、お洒落なカフェのような趣。ちょっとした小物ひとつとっても、妥協のないこだわりを感じる。(右下)家で作る食事は、キャンプ飯が多いという。「キャンプ飯って、ワンプレートで食べるものが多くて洗い物が少ないので良いんですよ。コンロじゃなくバーナーを使って料理することの方が多いですね」

Text: Tomomi Okudaira
Photograph: Hiroshi Yahata