File No.77Teida K.Uさん work:営業代行会社代表/アーティスト

アートとアメリカン雑貨で彩る、
琉球ノスタルジー。

「めんそ~れ」

扉を開けた瞬間、そんな言葉が頭をよぎった。沖縄特有の花ブロックに、表面の凸凹を残した「浮造り仕上げ」の無垢のパイン材フローリング。そして、その周りを埋め尽くすように置かれた、カラフルなアメリカン雑貨たち——。まるで沖縄のショップに迷い込んだよう。

沖縄方言で「太陽」を意味する「てぃーだ(Teida)」シリーズ。南国リゾートを思わせるこの部屋に、異国情緒溢れる雑貨が良く似合う。それもそのはず、この部屋の住人であるUさんは、26歳まで沖縄で育ったウチナーっ子。沖縄文化とアメリカ文化のちゃんぷるーは、Uさんにとってお手の物なのだ。

「この部屋を見た時、花ブロックが懐かしくて。沖縄を思い出しましたね。部屋の感じもすごく良くて、ここに住もうって決めました。あ、でも実はガレージシリーズと迷ったんですけどね(笑)」

南国の気候のように温かく、ゆっくりと語るUさん。昨年の8月にこの部屋に越してきたそうだが、言わずもがな、この部屋での暮らしを満喫している。



「ここに越してくるまでは築30年くらいのアパートに住んでいて。下北で駅近で家賃が安かったんですけど、狭くて壁が薄くて。寝に帰るだけの家でした(笑)。次に住むなら好きな物だけを置いて、雑貨屋みたいにしようって決めていたんです。この部屋は、1年かけて作り上げたMAXな状態。居心地が良くて、家にいることが多くなりましたね」

アメリカンな雑貨に、古着や観葉植物。ヴィンテージテイストのソファにこだわりの家具。どれを見ても好きで溢れている。

「服のラックは業務用なんです。このゴツさが部屋に合うと思って、サイトで調べて取り寄せました。ショップみたいにしたくて。テーブルとテレビ台は、丁度良い大きさがなかったんで自分で作りました。肝心のテレビは壊れたんでプロジェクターなんですけど(笑)。トイレのラックも手作りなんですよ」

ブラウンのオイルで仕上げたウッドデッキのような風合いのフリーリングに、ナチュラルな色味を使用した天板のテーブルとテレビ台。色に溢れた部屋なのに、色が喧嘩していないのは、どことなく懐かしさを感じる温かみのある部屋にまとめあげたからなのだろう。カラーセンスの良さが際立っている。

「色々自分仕様にしたくて。この部屋の家具はほとんど新調したものなんですけど、タイルを貼った冷蔵庫は前の家から持ってきたもので。ここに合うと思ったんです」

沖縄とアメリカのちゃんぷるーだけじゃなく、新旧のフュージョンもなんなくこなすUさん。この部屋は思いがけない素敵な発見に満ちていた。



(上)タイルを貼った冷蔵庫の横で、よくお酒を作るというUさん。「こっちに来てから泡盛を飲む習慣がなくなったから、全然飲めなくなりましたね。今はハイボールを良く飲んでます」 (左下)部屋のあちこちにある多肉植物たち。コロンとした可愛らしいシルエットは、まるで雑貨の一部のよう。Uさんが施したという鉢のペイントとも良く合っている。(右下)シューズラックの上にもカラフルな雑貨が。ショップのような配置とカラーバランスは流石。

小さな相棒たちと過ごす
心地の良い共同生活

部屋を自分色に染め、「Teida」での暮らしを存分に満喫しているUさん。実はこの部屋に引っ越すにあたり、共同生活をともにする仲間ができたそう。

「前からトカゲモドキを飼いたいって思っていて。次に引っ越すときは、絶対に飼おうって決めていたんです。チラッと顔を出しているのがヒョウモントカゲモドキの坂本。女の子なんですけど暴れん坊で。おとなしくしているときは可愛いんですけどね(笑)。臆病者で普段からおとなしいのがニシアフリカトカゲモドキのたいぞうです。この子は男の子なんですけど、物静かで手に乗せてもジーッとしていますね。まったく違ったタイプだけど、見ていて飽きないんですよ。毎日癒されてます」

こんなに可愛らしいルームメイトがこの部屋に! これはUさんだけじゃなく、家に訪れた人はみんなメロメロになるに違いない。

「遊びに来た友達もジーッと見て癒されてますね。でも、ご飯をあげるときはみんな引いてます。餌が冷凍コオロギなんですよ。脚はないから胴体だけでコロンとしてるんですけど(笑)。ゆっくりと解凍してあげています。ただ、餌の頻度は4日に1回なんで、面倒くさいってことはないですね。パネルヒーターを敷けば室温を調整してくれるので、ほんと飼いやすいと思います」

可愛くて騒ぐこともなく、手間がかからない。こんな最高の相棒たちと一緒にいたら、部屋にいることが楽しくて外に出なくなってしまいそうだが…。

「下北や高円寺の古着屋に行ったり、友達と飲みに行ったりしてますよ。この前も、21時から朝方まで友達と飲んでました。最近はあまり行かなくなったけど、釣りにも行くことも。たまに競馬に行ったりもしますね。正直惨敗ですけど(笑)。でも部屋にいることの方が圧倒的に増えました。本当に居心地が良いんですよ」

ゆったりとした独自のリズムを刻むUさん。同じく、ゆっくりとした動きでこの部屋での暮らしを堪能するトカゲモドキたち。同じペースで時を刻む相棒だからこそ、心地の良さはひとしおなのだ。



(上)ロールカーテンを下ろして間接照明を点けるとまた違った印象に。柔らかな光の中に浮かび上がる植物の影が、幻想的な世界を創り出している。(左下)トカゲモドキたちのお家は二階建て。上の階が暴れん坊の女の子、坂本さんの家。下の階が、おとなしい男の子たいぞう君の家。Uさんがペイントしたシェルターは、それぞれの憩いの場になっている。(右下)テレビ台の横にはインパクト十分なサボテン。その周りにも多種多様な緑が。

大好きなおばあちゃんといつも一緒。
アーティスト名に込めた想い

好きな物に囲まれ、側には可愛い相棒たち。この部屋での暮らしは、Uさんにとってかけがえのないものになった。

「ほんと、十分過ぎるくらい満足してます。満足はしてるんですけど、できれば絵を描くための作業場が欲しいなって思ってて。2.5~3畳くらいでいいから、作業に集中できる部屋が欲しいんですよね」

聞けばUさんは、営業代行会社代表とは別にアーティスト活動をしているという。

「SZNARD(@SznardGallery)って名前で絵を描いていて。これ、実はおばあちゃんとレオナルド・ダ・ヴィンチを組み合わせた名前なんです。子どものときにおばあちゃんに『レオナルド・ダ・ヴィンチって知ってる?』って聞かれたのがすごく印象に残ってて。夏休みに描いた絵が金賞に選ばれたときに言われたんですけど、当然知らなかったんです。自分で調べたときに衝撃を受けたんですよね。あまりの凄さに。だから、自分のアーティスト名は、大好きなおばあちゃんのシズコって名前と、レオナルド・ダ・ヴィンチの両方を掛け合わせたんです」

今はカウンターで絵を描いているUさん。下描きに約20分、本画の仕上げまでがだいたい3時間くらいかかるという。頭の中でイメージし、構図を組み立て一気に描きあげる。



「趣味で描いているんですけど、たまにオーダーを受けることもあって。最近もショップのトイレに飾りたいって、年配の男性からオーダーを受けたんです。ベスパにちなんだ絵のオーダーを受けたんですけど、直接持って行って見せたらすごく喜んでくれて。その後にもう1枚オーダーをもらったんです。それがすごく嬉しくて、描いて良かったなぁって思いますね」

今は、営業代行会社代表とアーティストSZNARDの二刀流。でも、才能溢れるUさんは、こんなもので留まらないだろう。レオナルド・ダ・ヴィンチのように、芸術家、画家、実業家…など、いくつもの顔を見せるに違いない。

たとえ大変な思いをしようとも、「なんくるないさ」と飄々と突き進むUさんの未来が目に浮かぶ。



(上)趣味で描いたという絵の数々。マイケル・ジャクソンのような有名なアーティストをモチーフにすることもあれば、ちょっと毒のあるモチーフも。「特に何を描くかは決めていなくて。その時に描きたいものを描いてます」(左下)カウンターには自身のアーティスト名を記したライトが。(右下)コーヒーに浸した紙に描いたという絵。「絵を描いた後に、焦げ目をつけました。経年変化のような風合いがでるんです」

Text: Tomomi Okudaira
Photograph: Hiroshi Yahata