File No.84Plain Masafumi.Aritaさん work:図案作家

社交と居住が交差する、
創造ファクトリー。

南フランスのアルルに移住し、芸術家たちと共同アトリエとして借りた「黄色い家」で、代表作となる『ひまわり』を描いたフィンセント・ファン・ゴッホ。文豪、志賀直哉は療養として滞在し執筆活動に励んだ温泉旅館「三木屋」で名作『城の崎にて』を書きあげた。

芸術家や文豪は、インスピレーションを呼び覚ます場所を求める。それは、本能によるものなのかもしれない——。

図案作家であり大学芸術学部講師、グラフィック&ファブリックデザイナーとマルチに活躍するAritaさん。アート界を牽引する彼が、自身の“感覚”に従い創作地、そして居住地として決めたのが、アクセントカラーを居室の一部に取り入れた「Plain」だ。

「REISMの物件は4~5件見たかな。色々見た中で、ここが一番感性に合っていて。一部だけ異なる壁面の色に、ピクチャーレールや照明、ドアノブまで、すべてのディテールが心地よくて、細部にわたって手が込んでいて本当に気持ちの良い空間。住み始めて10ヵ月くらいになるけど大正解だったね」



爽やかなララバイブルーの壁面には、世界各国で集めたという小物が並ぶ。アイテムのチョイスに、色のバランスや配置、すべてこの部屋に合わせたのではと思わせるほどピタリとはまっている。

「この部屋に置いている物はほんの一部。実は、ここ以外に今まで集めた雑貨や家具の収納用に倉庫を借りていて。物が多くて古本屋みたいになっているけど、どれも思い入れのあるものたち。そこからこの部屋に合う、ストーリー性があるものを持ってきたんだよね」

ずっとそこにいたかのように納まる小物たち。生活空間というより、アート作品を展示するギャラリーのよう。

「いやいや、ちゃんとここで暮らしていますよ(笑)。人が来る時や作品を展示するときは、寝具や服を仕舞って生活感を出さないようにしているけど。居住空間、仕事場、打合せスペース、ギャラリー……どれも僕の生活には変わらなくあるもので、区切る必要はないと思っていて。その時々にカタチを変えればいいかなって」

服を着替えるように部屋を着替える。倉庫に眠る戦利品たちは、衣替えを待つ衣類といったところか。感性のままに部屋の存在を変えられるなんて、若造には至難のワザ。大人だからこそ、いやAritaさんだからこそできる贅の極みだ。

「昔から変わったところしか住みたくない。だから、ここって決めた場所は、自分の感性のままに暮らしたい。この部屋は、利便性が良いし、何より創作意欲が湧くの。やっぱり空間がそうさせるんだよね」

柔和な笑みたたえながら、ハングリーな一面を見せるAritaさん。とめどない創造力はこの部屋と共鳴し、新たな作品となって今日も私たちを楽しませるのだ。



(上)10年以上にわたり、理想科学工業の広報誌『理想の詩』の表紙制作を行うAritaさん。毎号、取り上げる人をイメージして制作しているという。シルクスクリーンを使用した色鮮やかな表紙は、どれも見るものを魅了する。(左下)部屋の一角にもデザインした布がずらり。「真ん中にあるおじさんの横顔の柄は30年くらい前に制作したもの。ミッドセンチュリーを意識してレトロみを持たせたんですよ」(右下)ピクチャーレールには、自身がデザインをした布のパターンの作品を飾る。白壁に馴染み、まるでギャラリーのよう。

人が集う空間で、
お酒と会話と星読みと

好きな物に囲まれ、自分のリズムで「Plain」での暮らしを満喫するAritaさん。この部屋に越してきたことで、生活にちょっとした変化があったのだとか。

「ここはすごく立地がいいの。だから散歩が増えたんだよね。美味しい飲食店やお洒落な雑貨屋さんがたくさんあるから、散歩がてら外に出てはご飯を食べたり、雑貨を見にふらっとお店に入ることがよくあって。ノスタルジックな雰囲気で落ち着けるヴィーガンカフェや、料理も美味しいワインバー、インテリアのセンスが良いチャイのお店……どれも感性に合って刺激を受けるんですよ」

Aritaさんが越してきたこのエリアは、洗練されたカフェやショップが並び、感度の高い人が集う。駅の周辺には 昔ながらの商店街 もあり、住みやすさとしても抜群。

「この街は面白い人も多いんです。たまたま入ったお店で意気投合して、家に呼んで家でお酒を飲んだことも(笑)。この部屋は人を呼びたくなるんですよね」



「教え子も良く来ますね。卒業生たちが自分たちの活動を報告しに来てくれたり、僕の作品を見に来てくれたりも。この部屋で星とタロットの講座もしているので、興味のある人たちが来たりと本当に様々で」

実はAritaさん、アートの仕事以外にも占星術師としても活動している。

「小学生の頃からギリシャ神話やケルト神話が好きで、その流れで占星術をはじめたんです。占いというよりは、アートと文学的な側面から気づきを得るって感じに近いかもしれない。星の流れを見て、またモードが流行るなとか、ロックテイストがくるなってことを読み解き、それを作品に反映させたり。インスピレーションの源にしているんです」

そう言いながら、大好きなタロットを並べるAritaさん。この部屋での心躍る暮らしを星は知っていて、導いてくれたに違いない。



(上)自身がデザインしたタロットを並べ、星読みの奥深さを語るAritaさん。感覚的に刺さる部分があり、人生に深くリンクするという。(左下)「タロットというとダークなイメージを持つ人も多いと思うけど、可愛いものやお洒落なものもたくさんあるんですよ」(右下)普段は服がラックに並んでいるというクローゼット。「人が来る時はイメージあったインテリアにしてて。今回はアート写真集や星読みの本を並べたんです」

感性によって導かれる
今後の居住地

生き様と表情は、リンクする。朗らかに笑い、物腰が柔らかなAritaさんを見ると、素敵な人生を歩んでいるのがわかる。

きっとこれからも、誰にも真似できない心躍るような生き方をするのだろう。自身の展望を聞いてみた。

「しばらくはこの部屋での暮らしを楽しみたいかな。この街も気に入っているしね。でもREISMの物件で面白いデザインが出たら住んでみたい。トラベラーズファクトリーみたいなお洒落な物件で、それが代官山とかにあったらいいよね。洋館に住んでみたいって思いもあるし、ヘルシンキに住むのもいいな。どこって決めてはいないけど、気に入ったところに好きに住んでいたいよね」



「ヴェーダ哲学や文学の勉強をするのも好きだから、その知識を深めていきたいって思いもあって。コンセプトを掘り進めて、自分なりに理解したい。音楽も好きだし、色々なことに興味を持っていたいよね」

住みたい部屋、やりたいこと、きっとすべて自分の感性に従って取り組んでいくのだろう。いくつになっても可能性が広がっているということを、自身の体験を持って教えてくれている。

図案作家、大学芸術学部講師、グラフィック&ファブリックデザイナー、占術師……、Aritaさんの仕事面はもちろんのこと、生き様からも目が離せない。



(上)「朝起きたらコーヒーを淹れるのが日課。パスチャライズ牛乳を入れてカフェオレにして飲むことも」何気なく置いているガラスの置物は、ガラス界の巨匠エリック・ホグラン。キッチンもアートが満載で抜かりがない。(左下)洗面台も自分好みに彩る。鏡に映る布は自身がデザインしたもの。生活とアートが自然と馴染み、暮らしを豊かにしてくれる。(右下)スイッチカバーもこの部屋に合わせて合うものに取り換えたという。デザインはもちろん、色味や素材、すべてがこの部屋とマッチしている。

Text: Tomomi Okudaira
Photograph: Hiroshi Yahata