File No.76Doma A.Mさん work:製薬会社営業

小上がりのある癒し空間で
和みの日々を満喫。

もしも願いが叶うなら…。年端のいかない少女は、可愛いお人形さんでも人気のキャラクターがついた洋服でもなく、思いもよらない願いを口にした。

「小上がりのあるお家に住めますように…」

これは、小学生の頃のMさんの夢である。幼い頃から自宅リフォーム番組が大好きで、その時に見た『小上がり』に恋心のような想いを馳せたのだ。

あれから20年。少女は素敵な女性へと育ち、この願いを叶えることになる――。

「小学生が小上がりのある家に住みたいって、渋すぎますよね(笑)。でも、子どもの時に見た小上がりのある家が本当に素敵で。いつか住みたいって思っていたんです。だから、この物件を見つけた時はもう運命かと思いました!」



会社の転勤がきっかけで、広島から東京へと引っ越しをすることになったMさん。東京の物件を探しているときに出会ったのが、この「Doma」シリーズ。ほっと和める小上がりの畳スペースを中心に、長屋の通り土間のようなモルタル仕上げの床、3口コンロに木目調のモダンなキッチン、小上がり下は大容量の引き出しを備えた収納。まさに“理想の小上がり空間”だったそう。

「小上がりがあるだけでも最高なのに、大好きなリノベーション物件。そして、昔ながらの風情もありつつお洒落な私好みの街。三拍子揃ったんですよね。もう決めないわけにはいかないなって(笑)。私の転勤がきっかけでこの部屋を決めたんですけど、旦那も喜んで了承してくれました」

おや? 旦那さん? 失礼ながら、旦那さんの物が一つも見当たらないような…。

「旦那の物は全部隠してます(笑)。私が先にこの部屋に引っ越してきて、その後に旦那も神奈川への転勤が決まってこの部屋に越してきたんです。仕事柄、家を空けることが多くて物が少なかったのもあるんですけど、あまり物にこだわりがない人で。この部屋にある物も、私が独身の時に使っていたものがほとんどなんです」

見れば、和を感じる空間に、ヴィンテージテイストの椅子やテーブル、テレビボードなどがセンス良く並んでいる。

「昔から古いものが大好きで、広島では北欧系でまとめていたんですけど、小上がりのある部屋にもはまったんですよね。家具が一緒でもこうまとまるんだって。すごく愛着のあるものばかりだから、すごく嬉しかったです。新しく家具を買い足す時は、ユーズドを扱っているHYSTに行くこともあって。家具だけじゃなく小物も可愛いんです。週1回、土曜日しかやっていないから、欲しいものがあるときは朝から並ぶんですよ」



「旦那は1ヵ月近く家を空けることもあって、その間に卓袱台を買ったり玄関付近にタイル敷いたりして自由に変えたりしてるんです。そのたびに間違い探しをするみたいに喜んでくれて。それが嬉しくて、帰ってきたときに喜ばせたいなって思うようになって。今では、旦那が家を空けるときはインテリアを変えるようにしてます(笑)」

大好きな小上がりに、自分好みのリノベーション空間。下町ながらお洒落なお店が立ち並ぶ小粋な街。そして、日に日に変わっていくインテリアを、宝物を探すように楽しんでくれる優しい旦那さん。三拍子以上揃ったこの部屋での暮らしは、少女の頃のMさんの夢をはるかに超え、かけがえのないものになった。

(左)最近買ったという卓袱台。「実はこれ、こたつにもなるんですよ。今年の冬は、この卓袱台のこたつでみかんを食べてまったり過ごしたいですね」(右)「旦那が家を空けている間に玄関に敷いたタイルです(笑)。このタイルを敷くことで、土間に玄関が生まれるんですよ」レトロな柄のタイルが、この部屋のアクセントになっている。

変わらないものと
変わりゆくものが心地よく共存

広島から持ってきたという家具も然り、昔から物を大事にしてきたMさん。子どもの頃は周りの子がキャラクターものに目を輝かせていた横で、リネンやレース生地に胸を躍らせ、お小遣いでインテリアにもなる籠を買っていたという。

「子どもの頃から生活道具が大好きで、細々したものを買っては将来使いたいものを『いつの日か箱』に入れてずっととっていたんです。大人になったらいつか使おう!って思ってて。この部屋にある小物やインテリアは、小さいときに集めたものがたくさんあるんですよ」

籐でできた思い出の詰まった『いつの日か箱』の中には、小さい頃に集めたというリネンの布やカトラリーが。ふと目線を落とした先には、クリップを入れた小さな籠も。それらは、幼かったMさんと希望に溢れる日々を一緒に過ごしてきた、いわば友達みたいなものなのだろう。思い出とともに小物について語るMさんの目は、優しさで満ちていた。



「古いものが好きっていうのもあって、最近はヴィンテージの着物を集めるようになったんです。この辺は着物を着ている人も多くて、あんな風に着こなせたら素敵だなって。たまたま実家に帰ってその話をしたら、おばあちゃんとお母さんが昔着ていた着物を譲ってくれたんです。今の着物にはない味わいがあって、すごく良いんですよ。気付いたら、一式揃ってました(笑)。少し前から着付けにも通っているので、いつか着物を着てこの街を歩きたいですね」

下町情緒あふれるこの街を着物で歩くMさん。優しい旦那さんとともに、カフェ巡りをしている姿が目に浮かぶ。

「この部屋に越してきてから、色々やりたいことが溢れてくるんです。着付けもそうなんですけど、実は盆栽もはじめて。この部屋に合いそう!って軽い気持ちではじめたんですけど、奥が深くて。今ではすっかりはまってます。盆栽の横に置いている卓上ランプも自分で作ったんですよ。ランプ作りたいって急に思い立って。あらかじめ決めてたことじゃなく、“今やりたい”って気持ちを大切にしていますね」

日々変わっていく自分の気持ちを素直に聞き、その想いを形に変える。今と昔がほどよく合わさったこの部屋は、Mさんのモチベーションも高みへと引き上げるのだ。



(上)実家から譲ってもらったという着物。鏡台の上には作ったというランプも。「盆栽の下に敷いている飾り台は父から譲ってもらいました。これもお気に入りです」(左下)「ラックの下に置いているトランクは高校生の時に買ったもの。今は部屋のインテリア兼収納として使ってます」(右下)旅行に行って、その土地土地で気に入った物を買うこともよくあるそう。「このライトは島根に行ったときに買いました。妹も一緒に買ったんですけど、部屋の造りが違うからか、まったく違って見えるんですよ」

日々進化するこの部屋は
下町のサグラダファミリア

憧れの小上がりのある部屋で、日々を満喫しているMさん。そんな部屋での暮らしを見た友達は、口々にこう言ったのだとか。

「っぽいわ~って(笑)。私っぽいって言うんですよ。なんかホッとするみたいです」

部屋はその人を表すと言うように、この部屋は周りを和ますMさんのような優しい雰囲気を醸し出している。それはきっと、Mさんが愛情を込めてこの部屋を大事に育てているからなのだろう。

「この部屋で過ごす時間が本当に楽しくて。姿見の前で服やバッグ、靴を合わせてたら平気で2時間経ってたなんてことあります。時間をかけてコーヒーを淹れて、本を読みながらゆっくり飲むのもいいんですよ。もう全部が楽しいんです」

とめどなく溢れるこの部屋への想い。全てがMさんにとって唯一無二の時間なのだ。

「でも、この部屋に満足するってことはない気がして。色々な物を買い足したり、処分したり…その時々に合った部屋にしていくんですけど、また新しい形にしたいって思って。正解がないんですよね。ずっと形を変えて進化するサグラダファミリアみたいな(笑)。でもそれも楽しいんです」

なんとサグラダファミリアとは! きっとMさんの頭の中には、壮大なヴィジョンがあるのだろう。

小上がりがある部屋での暮らしを夢見ていたあの時の少女は、小上がりのある空間を存分に楽しみ、それ以上の喜びを手にしていた。



(上)「この姿見の前で洋服を選んでいる時間が好きなんです。あれを合わせてみようか、こっちの方がいいかも、って考えてる時間が本当に楽しくて」(左下)過去にカフェで働いていた経験があり、コーヒーを淹れる時間も大切にしているというMさん。「カフェで働いていた時は、ラテアートもしていたんですよ。今はゆっくり時間をかけてコーヒーを淹れて飲んでいます」(右下)肌の手入れは窓際のデスクで。「陽の光がたっぷり入るから、昼間だったら電気をつけなくてもいいんですよ」

Text: Tomomi Okudaira
Photograph: Hiroshi Yahata