部屋の中にまた部屋。一般的賃貸ワンルームの概念を覆す、Calm(平穏)という名のこの物件。変形な部屋の形を最大限に利用し、ワンルームの中にツリーハウスをまるごと設置するという斬新かつ大胆な造りだ。
「じつは当初は他の部屋を申し込んでいたのですが、そんな時にたまたまこの部屋を見つけ、すぐに内見。ひとめ惚れして即決しちゃったんです。」
M.Mさんが惚れたのは、もちろんこの部屋のシンボルであるツリーハウス。最高にカッコイイ!という第一印象が決め手となった。コンクリート壁やスプリンクラーなどの躯体がむき出しになった無機質な空間に、大きな存在感を持って鎮座する、木のぬくもりあふれる小屋。中にはトイレ、バスルームなどの水周りと小さな書斎DEN、そしてクローゼットが機能的かつコンパクトに収まっている。
ウッディな小屋と高い天井という面白い条件が揃ったところで、インテリアに加えるものはもうハンモックしかない!そう判断したM.Mさんが自ら設置した一人用ハンモックも、ゆらゆらと心地よい癒しの宿り木に。
そう、ここは、誰にも邪魔されずに時間を楽しめる自分だけのテーマパークなのだ。
ここへ引っ越す際、家具はほとんどもともと住んでいた部屋から持ってきた長年の愛用品。だが同じ家具でもこの部屋の持つ力に助長され、より魅力的になったと言う。そしてこの部屋全体をさらにセンス良く見せているのは、何よりもM.Mさん自身の感性で構成された家具配置と、小物使いの巧みさだ。
父親は内装業。M.Mさん自身も、かつて古着屋や家具屋などに勤務していた経験を持っている。
「インテリアを考えたり、工夫するのは大好きです。古着屋では店内ディスプレイも自分でどんどんアイディアを出していましたね。」
本来であれば違う用途で使われるモノを、あえて真逆の意味を持たせながらインテリアの一部として使用する。それはもはや、個人の部屋というよりパブリックな空間でもじゅうぶん通用する、プロのディスプレイ技術と言ってもいい。
リノベーションというスタイルと見事にマッチして、その技術はますます華やかに開花する。部屋と住人のベストなケミストリーは、今後もどんどん素敵なものになっていくことだろう。
これほどまでに居心地の良い空間にも関わらず、社交的で趣味の多いM.Mさんはずっと籠ることはなく、職場からまっすぐ部屋へ帰ることもほとんどない。けれども、ひとたびここへ帰ってくれば一気に心が解放され、包みこまれるような心地よさで芯から安心できると言う。
この部屋を訪れる友人たちもおおむね同じ感想を持つというから、万人がはっきり感じるほどに、ここは穏やかな雰囲気なのだろう。
部屋を見れば、住人の人となりや魅力、モチベーションの高さがよく分かるもの。M.Mさん本来のカラーやありのままが映し出されていることから、部屋と住人がお互いを高め合っていることがよくわかる。
DJ、バンド、ギター、草野球、ひとくち馬主…多岐にわたる趣味は、楽しい人生を送るための大切なパーツ。本気で楽しまないと意味はない。
「ずっと自分を表現することを続けて行きたい。だから遊ぶにも仕事をするにも、すべて全力で楽しむ。そこだけは絶対ブレたくないんです。」
未来を語るM.Mさんの目に迷いはなく、これからもこの部屋と、世にも素晴らしい共存共栄を続けて行くのだ。
Text: Yuzuka Matsumoto
Photograph: Yoshinori Tonari
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