File No.120Brick S.Fさんさん work:フリーランス/イベント運営•企画職

旅の続きを、部屋で暮らす。北欧家具とフィンランドの記憶が息づく、ひとりの住まい

好きな街には、ちょうどいい余白がある

駅を降りて、少し歩く。

大きな通りから一本入ると、街の表情が少しずつ変わっていく。昔ながらの建物や小さな店が残る一方で、カフェやショップなど、今の暮らしに寄り添う場所も点在している。

そんな新旧がほどよく混ざり合った街に、今回訪れた部屋はある。



「めっちゃいいです。飲食店もいいし。下町といい感じのミックス具合というか。水辺も近くてすぐ歩いていけますし」

そう話すのは、この街で暮らしはじめて約1年半になるFさん。

以前は湘南のほうに住んでいたという。転職をきっかけに東京へ戻り、仕事場からの距離を考えてこのエリアに住むことを決めた。特別に縁のあった土地だったわけではない。

ただ、「職場に近い」という、ごくシンプルな理由から始まった新しい暮らしだった。

暮らす場所を選ぶとき、何か特別な理由が必要なわけではないのかもしれない。

毎日の中で無理なく使えること。仕事と家を行き来する時間が短いこと。ふと思い立ったときに、散歩に出られること。



「カフェ巡りにも最適です。なんか美味しいところとか、ふらふら歩いてるのに、あんまりお店の名前ちゃんと見てないんですけど(笑)」

そんな小さな「ちょうどいい」が積み重なって、いつの間にか、その街が好きになっている。

彼女にとって、この街はそんな場所なのだろう。そして、その感覚は部屋にもどこか通じている。

必要以上にものを持たず、暮らしの中に余白を残す。

けれど、ただ何もないわけではない。

街にも、部屋にも。彼女は「余白」を上手に楽しんでいる。

偶然見つけた、ちょうどいい部屋

今の部屋を見つけたきっかけは、物件情報を探していたときに見つけた一つの掲載だった。

「公開日が直近だったんで。すぐ見に来ますって言って内見して、決めたんです」

迷っている時間は、あまり長くなかった。

物件探しでは、条件を比較して、何件も内見して、悩んだ末に決めることも多い。

けれど、ときには「見た瞬間にわかる」ということもある。部屋の間取りや内装を見て、「ここなら暮らせそう」と思えた。

その直感に近い感覚が、決め手になった。

もともとこの街に土地勘があったわけではない。

以前暮らしていた場所からも少し距離がある。それでも、職場が近いという条件と、部屋そのものの雰囲気が気に入り、すぐに内見へ向かった。

そして出会ったのが、REISMの部屋だった。

「そうですね。速攻でしたね」

短い言葉の中に、そのときの決断の早さが伝わってくる。部屋選びで重視したのは、まず内装だった。



「あんまりゆかりのない土地だったんですけど。内装が結構決め手かなあと。日当たりもそうですけど。この木と白い壁とコンクリートのバランスがいいなと思って」

無垢の床、木の質感、白い壁。そして、素材感のある特徴的な壁。REISMらしいデザイン性がありながら、家具を置いたときに主張しすぎない。

その絶妙なバランスが、彼女の感性に合っていた。

けれど、いわゆる「モデルルーム」のような無機質さはない。

家具や植物、雑貨が置かれていることで、そこにはきちんと生活の気配がある。

部屋を見渡すと、ものの「住所」が見えてくる



まず感じるのは、そのすっきりとした印象だ。一人暮らしの部屋として決して大きな空間ではない。

だからこそ、ものの置き方には自然と工夫が生まれる。彼女自身も、暮らしながら家具の配置を何度も変えてきた。

ソファを置いてみたこともある。

けれど、実際に暮らしてみると少し狭く感じて、手放した。ラグも買ったけれど、しばらく使ってから売った。



「途中ソファーとか買ったりしたんですけど。狭くなっちゃってすぐ売ったりとか」

ものを買わないのではない。むしろ、気になったものは試してみる。

ただ、暮らしてみて違うと思ったら、手放す。その判断がとても軽やかだ。

ものを所有することそのものに執着するのではなく、「今の自分の暮らしに必要かどうか」で考える。

だから部屋には、必要なものだけが残っている。キッチンの収納も驚くほどすっきりしている。



鍋や食器、家電など、一人暮らしに必要なものはきちんと揃っている。それでも、視界に入るものは少ない。

「家電とかもあんまり増やさないように。ケトルとかも買おうかなと思ったんですけど、コンセントから常に挿してあげてドンってなっちゃうから、そのポットで」

収納の中だけではなく、部屋全体をひとつの景色として捉えているのだろう。



そのため、家具や雑貨にはそれぞれ「住所」がある。

置くべきものが、置くべき場所に収まっている。

だから、部屋がすっきりして見える。

「一人で持てるもの」が、暮らしを軽くする

家具の選び方にも、彼女らしい基準がある。

「一人で持てる物みたいな感じで買ってるかもしれない」

大きな家具をたくさん置くのではなく、自分ひとりで動かせるくらいのサイズ感のものを選ぶ。



その考え方は、今の部屋にとてもよく似合っている。必要になれば動かせる。

気分が変われば配置を変えられる。季節が変われば、植物や小物の場所も変えられる。

固定された部屋ではなく、そのときの自分に合わせて変化していく部屋。

REISMの空間そのものがシンプルだからこそ、そうした自由が生まれる。

「いろんな配置で楽しみやすいなって思いました。シンプルだから。ここに何を置いても絵になるなみたいな」

これは、この部屋を選んだ理由をもっとも端的に表している言葉かもしれない。



デザインされた空間でありながら、住む人の個性を邪魔しない。家具を置いても、植物を増やしても、絵を飾ってもいい。

反対に、何も置かずに余白を楽しんでもいい。

その自由さが、この部屋の魅力なのだ。

木と白。その先にある、北欧への憧れ

そんな彼女の部屋を見ていると、ひとつの共通点に気づく。

木の家具。白やアイボリーを基調にした色。そして、古いものを大切に使う感覚。

そこには、彼女が長く好きだという「北欧」の空気が流れている。



「去年はフィンランドに一人で2週間ぐらいゆっくり行きました。やっぱ家具の本場というか、北欧家具と建築とサウナを楽しみました。湖ダイブを一度してみたくて(笑)」

北欧に惹かれるようになったのは、もともとインテリアが好きだったことがきっかけだった。

大学ではインテリアを専攻。その後もインテリアコーディネーターの資格を取得するなど、暮らしや空間への興味を持ち続けてきた。

「インテリアが好きになって、そこでお勉強していったのが、北欧にハマったきっかけかもしれないです」

家具を知れば知るほど、北欧の家具にも惹かれていったという。



「北欧家具いいなと思って。おじいちゃんとかおばあちゃんとか受け継いで、みんなずっと使って、リペアみたいにしながら。いいなと思って」

新しいものを買って終わりではなく、長く使い、傷がつけば直し、また使う。

時間が経つことで、ものの価値が少しずつ変わっていく。



「大学の時にインテリアの専攻の延長で油絵みたいなのをやって。もともと学生の時に描いてた裸婦像みたいなのがあったんですけど、白で塗りつぶして。これもフィンランドの地図をイメージして描きました。まだ途中ですけどね(笑)」

その考え方は、彼女が部屋のものと向き合う姿勢にもつながっている。

ヴィンテージの家具を選ぶこと。古いものをきれいに手入れして使うこと。

「新品だからいい」という価値観だけではなく、時間を重ねたからこそ出る表情や、そのものが持つ背景まで含めて好きになる。

それは、北欧家具への憧れから始まった彼女の「ものとの付き合い方」なのかもしれない。

思い出まで、家具の一部になる

部屋の中には、彼女自身がつくった家具もある。

目を凝らさなければ気づかないほど自然に馴染んでいるデスク。



実はこれは、大学時代に制作したものをリメイクしたものだという。

「大学でインテリア専攻してて。その時に卒業制作で一回作った机をリメイクして、持ってきました」

板をつなぎ、色を塗り、今の一人暮らしに合うサイズへと姿を変えた。学生時代につくったものが、時間を経て今の部屋に残っている。

家具としてだけではなく、自分の時間そのものを持ち込んでいるようにも見える。ほかにも、長く使っている棚や、ヴィンテージの家具がある。

それらが集まって、部屋全体の雰囲気をつくっている。

暮らしとは、家具を置くことだけではなく、過去の自分が選んだものと、今の自分が選んだものが、同じ空間に並んでいくこと。

そうやって部屋は、少しずつその人の時間を纏っていく。彼女の部屋にあるのは、整然とした「完成形」ではない。

買って、使って、動かして、ときには手放して。それでも残ったものを大切に使う。その繰り返しの先に、今の空間がある。

忙しいときこそ立ち止まって、
Hug Again を。



彼女にとっての暮らしは、ものを増やして完成させるものではない。

むしろ、余計なものを少しずつ削ぎ落としながら、「自分にとって心地いいもの」を残していくことなのだろう。

その部屋には、そんな彼女の美意識が静かに表れている。

Text: Taichi Kodama
Photograph: Hiroshi Yahata