File No.116Chic Fさん work:建築デザイン

暮らしを設計する。建築デザイナーがつくる、自分だけの居場所

図面の先にあった、REISMとの出会い



建物を設計する人は、どんな部屋に暮らしているのだろう。

図面を描き、空間を考え、形のないアイデアを現実へ落とし込んでいく仕事。その思考は、仕事が終わったあとも途切れることはない。



今回訪ねたのは、建築デザインの仕事に携わるFさん。部屋の中には、自ら設計し手を動かしてつくった家具や棚、集めてきた写真集やアートブックが並ぶ。

けれど、それらは決して見せるための装飾ではなく、使いやすさと心地よさを考えながら、自分の好きなものが自然と収まる場所をつくる。その積み重ねによって、この空間は形づくられていた。

仕事の思考と私生活がゆるやかにつながる住まい。

その暮らしを覗いてみた。

街の余白に出会う

駅からのアクセスは良く、都心へも出やすい。一方で少し歩けば大きな公園や川沿いの景色が広がり、休日にはゆったりとした時間が流れている。

それまで馴染みのなかった街だったが、暮らし始めてから見える景色は想像以上に豊かだったとFさん。



「今まで全く来たことないエリアだったんですけど、歩いてみると結構大きい公園があって。洗濯だけ家でやって、乾燥している間に公園へ行ったりして。そういうふうに時間を過ごせるようになったのが結構大きいですね。前よりゆとりのある生活になった気がします」

スーパーも近く、生活に必要なものはひと通り揃う。利便性と穏やかさ。その両方が無理なく共存していることが、この街の魅力なのかもしれない。

休日には川沿いを散歩し、美術館へ足を運ぶ。

建築デザイナーとして忙しい日々を送りながらも、街そのものが呼吸を整えてくれる場所になっているようだ。

偶然見つけたREISMとの出会い

住まい探しのきっかけは、勤務先へのアクセスだった。もともとは別のエリアで物件を探していたという。



「最初は通勤しやすそうな場所を探していて、住みたいエリアも決めていたんです。ただそのエリアにいい物件がなくて、たまたま見つけたのがREISMでした。住みたいエリア以外はそこまでこだわっていなかったので、物件を見てみたらどこも雰囲気が良くて。その中で、この部屋がすごく気になったんです」

内見は夜だった。

日当たりも分からないまま訪れた部屋だったが、不思議と迷いはなかったという。

図面を見た段階で、家具の配置や暮らし方までイメージできていたからだ。



「冷蔵庫はここに置けるな、とか。なんとなく生活のイメージができていたので、実際に来た時はその確認をしに来た感覚でした。ほぼ即決でしたね(笑)」

空間を読む力。

それは建築を仕事にする彼ならではの視点なのかもしれない。

収めることから始まる空間づくり

部屋を見渡すと、まず目に入るのはキッチンと連動する大きなテーブルだ。



食事をする場所であり、考えごとをする場所であり、本を読む場所でもある。

暮らしの中心がそこに集約されている。

「ずっとここにいますね」

そう笑う姿が印象的なFさん。

テーブルに寄りかかれば背もたれにもなる。

キッチンに手を伸ばせばコーヒーを淹れられる。

その小さな動作の積み重ねが居心地をつくっている。

そして部屋の随所に並ぶ家具の多くは、自ら設計し手を動かして作ったものだ。

「こっちの面がカーブしているんですけどこのテーブルも自分で切って丸くして‥それに合わせて下のカーペットを切ったり。ちょっと手間を加えるだけで部屋の印象も変わりますよね」

建築やアート、写真集。

大型本が収まるよう設計された本棚には、彼の興味関心そのものが並んでいる。



「本が多かったので、市販品だとちょうどいいサイズがなかったんですよね。だったら自分で作った方が早いかなと思って。ホームセンターで角材とベニヤを買ってきて作りました」

空間を埋めるための家具ではなく、自分の好きなものを収めるための家具。

そこに、この部屋らしさがある。

手を動かすことで見えてくるもの



建築デザインの道を歩み始めたのは高校時代だった。

工業高校で建築を学び、そのまま大学、大学院へ。

現在は設計事務所で建築デザインに携わっている。

繁忙期には始発で出勤し、終電で帰宅する日も珍しくない。

それでも建築を続ける理由は、考えることそのものが好きだからだ。

ただし、その考え方には少し特徴がある。

「ずっと頭の中で考えるというよりは、とりあえず手を動かします。紙を切ったり貼ったり、模型を作ったり。何かしているうちに形が見えてくるんですよ」

部屋に置かれた模型も、その思考の痕跡だ。

大学院時代に設計した公園の模型。

引っ越しで壊れてしまったため、現在も作り直している最中だという。

最初に考えていた形から少しずつ変化し、より良い形へ更新されていく。

それは建築のプロセスであり、暮らしのプロセスでもある。

家具づくりも同じ。

ホームセンターで木材を買い、自転車で運び、部屋で切り出す。



完成形を完璧に決めるのではなく、その時々の暮らしに合わせて形を変えていく。

「ホームセンターは近くはないんですけど、自転車飛ばして買いに行って(笑)。特別なことをしている感覚はないんです。あるものをどう収めるか。それを考えているだけですね」

その言葉が、この部屋をよく表している。

写真とアートが教えてくれる視点

本棚には建築書だけでなく、数多くの写真集が並んでいる。

休日には美術館へ足を運び、自ら写真を撮ることもある。

最近のお気に入りは、ギャラリーで額装した一枚の写真。

そして写真家たちの作品集だ。



作品そのものだけでなく、紙の質感や印刷の美しさにも惹かれるという。

「正直、写真のことを詳しく理解しているわけじゃないんです。でも好きなんですよね。理由を全部説明できなくても、惹かれるものってあるじゃないですか」

一方で、部屋に置くものについてはひとつの基準を持っている。

「なるべく自分で説明できるものに囲まれたくて。なんで好きなのか、自分なりに話せるものを置きたいというか。そういうものの方が長く残る気がしています」

建築も写真も、物選びも同じ。

彼にとって大切なのは、自分の感覚に正直であることなのだろう。

好きを収めるために



建築デザイナーの部屋だからといって、特別な仕掛けがあるわけではない。

けれど、その空間には確かな思想があった。

好きな本が収まる棚をつくること。

使いやすいテーブルを考えること。

写真を飾り、植物を置き、コーヒーを淹れること。

その一つひとつが、暮らしを設計する行為になっている。



「親が使っていた焙煎機をそのまま持ってきて、自分でコーヒー豆を焙煎したり。手を動かして考えることも好きですけど、こういうふうに何も考えずに手を動かす時間も好きです」

キッチンを中心に据えた空間もまた、自分らしく過ごすための答えだった。

仕事で培った思考は、家に帰っても消えない。

むしろ暮らしの中で育ち、また仕事へと還っていく。



好きなものを集めるのではなく、好きなものが自然と収まる場所をつくる。

その積み重ねこそが、この部屋のいちばん美しい設計図なのかもしれない。

Text: Taichi Kodama
Photograph: Hiroshi Yahata