File No.118Rough A.Iさん work:製造業

人にも、モノにも、味わいを。 “時間がつくる味”を愛す暮らし。

新品のものにはない魅力がある。

色褪せたTシャツ、錆の浮いた車、誰かの手を渡ってきた雑貨たち。時間を重ねることでしか生まれない表情に惹かれ、少しずつ集めてきたものたちは、この部屋で静かに暮らしの景色になっている。

好きなものを並べているだけなのに、不思議と統一感がある。それはきっと、選んできたものの奥に一本の価値観が通っているからだ。

ヴィンテージの服も、アメリカの雑貨も、クラシックカーも。そして、人も。

「時間がつくる味」を愛する32歳の暮らしを訪ねた。

帰りたくなる街と家



朝早くベランダで外の空気を吸うことから始まる。移ろう季節の空気を肌に感じ、動き出す一日。

その忙しない毎日のなかでも、この街には自然と肩の力を抜いてくれる空気が流れている。

駅までのアクセスは良く、仕事へ向かうにも不便はない。それでいて、大通りを一本入れば穏やかな住宅街が広がり、少し歩けば川沿いの景色や公園、昔ながらの商店が日常の中に溶け込んでいる。

忙しいからこそ、暮らす場所には心が休まる余白が欲しい。

それでも、この街へ帰ってくると肩の力がふっと抜けるという。



「帰りたくなる家なんですよね。この建物が見えた瞬間に『帰ってきたな』って思うんです。
夜に歩いて帰ってきても安心感があるし、なんだかワクワクするんですよ。」

「本当に気に入っています。駅にも出やすいし、のどかだし。仕事が忙しいからこそ、帰ってきたときの空気感がすごく大事なんですよね」

落ち着いた下町は、毎日を心地よく積み重ねていくには十分すぎる魅力がある。

この街を歩く速度が、そのまま今の彼の暮らしのリズムになっている。

紹介がつないだREISMとの出会い

この部屋との出会いは、不動産サイトの検索結果からではなかった。

住む場所を決めるうえで譲れなかったのは、「少し変わった部屋」であること。新築のように整いすぎた空間よりも、どこか個性が感じられるリノベーション物件に惹かれていた。

さまざまな物件サイトを見比べながら探していた頃、知人から紹介されたのがREISMだった。



「リノベーション物件で探していたんですけど、知人から『自分も住んでいる物件の不動産会社なんだけど、合うと思うよ』って教えてもらったんです。問い合わせもしていましたけど、紹介でつないでもらって。それでちょうどこの部屋が空くタイミングだったんですよ」

実際に部屋を見て驚いたのは、デザインだけではない。
リノベーション物件にありがちな「雰囲気はいいけれど設備は古い」という印象がなく、水まわりまで丁寧に整えられていたこと。そして、WEB上で見られる3Dビューやレイアウトサンプルのおかげで、住んだ後の暮らしまで具体的に想像できた。

「ここなら、自分の好きなものが似合う。」

その直感は、暮らし始めてから確信へと変わっていく。

玄関を開けた瞬間から、棚には服や雑貨、古い車にまつわるアイテムが自然と並び、この部屋そのものが、一つのショップのような空気を纏い始めた。

けれど、その景色は決して”飾るため”につくられたものではない。

好きなものが、暮らしの景色になる

部屋を見渡すと、最初に目に飛び込んでくるのは、整然と並んだヴィンテージウェアや雑貨たち。

小さな鳥のオブジェ、古い車のホイール、友人が手掛けたアート、デンデン太鼓、昔のアメリカのパッケージ─。

それぞれに違う背景を持ちながら、不思議と一つの空間としてまとまっている。

単に”物が多い部屋”ではない。



ひとつひとつが選ばれ、理由を持ってそこに置かれているからこそ、雑多でありながら心地よい秩序が生まれている。

「ここに何を置こう」と考えて並べたというより、「気づけばこうなっていた」と本人は笑う。

「本当にパパパッと置いただけなんですよ。考えて並べたわけじゃないんです。でも、自然とうまくまとまってくれて。好きなものを置いたら、今の部屋になったっていう感じですね」

部屋づくりのルーツを辿ると、以前勤めていたファッション業界での経験に行き着く。

VMD(ビジュアルマーチャンダイザー)として、商品の魅力をどう見せるかを考え続けてきた時間。その経験は、今でも暮らしの中に自然と息づいている。

「物を並べる」というより、「物語を見せる」。

そんな感覚なのだろう。



「ファッションの仕事では、VMDとしてお店の空間づくりをしていました。もちろん売上や数字もあるんですけど、それ以上に『どう見せたら、その物が一番魅力的に見えるか』を考える仕事だったんです。だから今でも、家の中でも好きなものはしまい込まずに見える場所へ置きたい。毎日目に入ることで、その物をもっと好きになれる気がするんですよね」

「見せること」が仕事だった経験は、今の暮らしにも自然と息づいている。

ハンガーがきれいに揃ったクローゼット。棚いっぱいに並ぶヴィンテージウェア。

ラフの可動棚いっぱいに並ぶ雑貨。余白を残しながら配置された家具。



どれもショップのディスプレイのようでありながら、どこか生活の温度が感じられる。

忙しい日々のなかで、ぼんやりテレビを眺める一時間。何もせず、ただ好きなものに囲まれて過ごす時間。

それが、この部屋でいちばん贅沢な時間なのだろう。

“自分のルーツが”が反映された部屋

そんな価値観を形づくった出来事が、30歳を目前に決断した海外生活だった。



社会人になってからずっと心のどこかにあった、「海外で暮らしてみたい」という思い。

本当ならもっと早く挑戦するつもりだった。

しかし、コロナ禍によって計画は何度も延期になり、気づけば30歳を目前にしていた。

「今しかない。」と決意し、ワーキングホリデーでカナダ・トロントへ。

「本当はファッション関係の仕事がしたかったんです。でも言葉の壁もあって、現地では和食のお店で働いていました。働いている人は現地の人が多くて、日本にいるときとは全然違う環境でしたね」

異国での生活は、決して華やかなものばかりではなかった。

それでも、日本では出会えなかった価値観に数え切れないほど触れた。

長く使われ続ける家具。使い込まれた革靴。ヴィンテージショップに並ぶ古着。

誰かが長い時間をともにしたものが、また別の誰かの暮らしへ受け継がれていく。



新品であることよりも、”時間を重ねてきたこと”に価値を見出す文化が、彼にはどこか心地よく映ったという。

きれいだからではない。流行っているからでもない。

そのものが歩んできた時間に惹かれ、自然と手が伸びるようになっていた。

時間だけがつくれる価値



帰国後、家業を手伝うことになり、現在は平日を家業に、休日には友人が運営するクラシックカーコミュニティの活動をサポートする生活を送っている。

週末には撮影や車両の紹介、SNSの発信を手伝い、ときには朝早くから一日中車と向き合うこともある。

忙しい毎日だ。それでも車に関わる時間だけは、不思議と疲れを忘れる。

好きだから続けられる。その感覚は、部屋づくりにもどこか似ている。

棚に並ぶヴィンテージ雑貨も、壁に掛けられた服も、車にまつわる小物も、それぞれ別々に集めたものではない。「好き」という一本の線で、すべてがつながっている。



部屋の片隅には、以前乗っていた車のホイールが置かれている。普通なら収納にしまわれてもおかしくないものだ。

けれど彼にとっては、それも暮らしをつくる景色のひとつだった。

親の車で使われていたCDケースもそうだ。



幼い頃には何とも思わなかったものが、今になって見ると妙に愛おしい。

そこにはデザインだけではない、家族との時間が染み込んでいる。

「ルーツがあるもの」が自然と増えていくのは、偶然ではない。

物そのものではなく、その背景ごと受け取っているからなのだ。

完璧じゃないものに惹かれる理由



部屋に掛けられたヴィンテージTシャツを見せてもらう。

鮮やかな色ではなく、長い年月をかけて少しずつ褪せた色合い。新品では決してつくれない表情がそこにはあった。



「古着ってあんまりデザインだけで買わなくて。もちろんデザインもありますけど、きれいなものより色褪せてるものの方が好きなんです。汚れてるっていうより、それも味だと思っていて。車もそうなんですけど、古いものって全部汚いじゃないですか。でも、その感じが逆に良くない?って思うんですよ」

その感覚は服だけではない。クラシックカーも同じ。

ボディに浮いた小さなサビ。擦れたハンドル。使い込まれたシート。新品のようにレストアすることもできる。

けれど彼は、あえてそのまま残っている時間に価値を見出す。

「お金をかければ、古い車をきれいにすることはできます。でも、そのサビとか傷とか、その年月だけは買えないんですよ。時間だけがつくったものだから。そのまま残っている方が、自分は魅力を感じます」

その言葉を聞いて、この部屋の景色が腑に落ちた。

少し歪な雑貨。どこか抜けた表情の鳥の置物。古いパッケージ。友人の作品。完璧に整えられたインテリアではない。

だからこそ、この部屋には人の気配がある。どれも少し不完全で、少し不揃い。

けれど、それぞれが歩んできた時間をまとっている。

その積み重ねが、この空間にしかない空気をつくっていた。

好きなものは、人を映す



「好きなものを見ながら過ごせる配置にしたかったんです。ソファに座ると、自分が好きなものが全部見えるようにしていて。逆に白い壁だけ見てても何も考えないけど、好きなものが目の前にあると落ち着くんですよね」

「好きなものに囲まれて暮らす」言葉にすると、とてもシンプルだ。

けれど、その「好き」が何なのかを掘り下げていくと、一人ひとりまったく違う答えになる。

「アイテムって、使い込むほど味が出るじゃないですか」

取材の最後にそう話したあと、少し考えるように言葉を続けた。

「人も、きっと同じなんですよね」

積み重ねた時間は、その人だけの表情になっていく。完璧じゃなくてもいい。

少し傷があってもいい。年月を重ねることでしか生まれない魅力が、人にもある。



この部屋で暮らす彼自身もまた、好きなものと同じように、自分らしい時間を少しずつ積み重ねている。

帰ってきたくなる部屋とは、きっと「好きなもの」がある場所ではなく、時間をかけて、自分らしさを育ててきた場所なのだ。

今日もまた、その景色の中で、新しい一日が静かに積み重なっていく。

Text: Taichi Kodama
Photograph: Hiroshi Yahata