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新品のものにはない魅力がある。
色褪せたTシャツ、錆の浮いた車、誰かの手を渡ってきた雑貨たち。時間を重ねることでしか生まれない表情に惹かれ、少しずつ集めてきたものたちは、この部屋で静かに暮らしの景色になっている。
好きなものを並べているだけなのに、不思議と統一感がある。それはきっと、選んできたものの奥に一本の価値観が通っているからだ。
ヴィンテージの服も、アメリカの雑貨も、クラシックカーも。そして、人も。
「時間がつくる味」を愛する32歳の暮らしを訪ねた。

朝早くベランダで外の空気を吸うことから始まる。移ろう季節の空気を肌に感じ、動き出す一日。
その忙しない毎日のなかでも、この街には自然と肩の力を抜いてくれる空気が流れている。
駅までのアクセスは良く、仕事へ向かうにも不便はない。それでいて、大通りを一本入れば穏やかな住宅街が広がり、少し歩けば川沿いの景色や公園、昔ながらの商店が日常の中に溶け込んでいる。
忙しいからこそ、暮らす場所には心が休まる余白が欲しい。
それでも、この街へ帰ってくると肩の力がふっと抜けるという。

「帰りたくなる家なんですよね。この建物が見えた瞬間に『帰ってきたな』って思うんです。
夜に歩いて帰ってきても安心感があるし、なんだかワクワクするんですよ。」
「本当に気に入っています。駅にも出やすいし、のどかだし。仕事が忙しいからこそ、帰ってきたときの空気感がすごく大事なんですよね」
落ち着いた下町は、毎日を心地よく積み重ねていくには十分すぎる魅力がある。
この街を歩く速度が、そのまま今の彼の暮らしのリズムになっている。
この部屋との出会いは、不動産サイトの検索結果からではなかった。
住む場所を決めるうえで譲れなかったのは、「少し変わった部屋」であること。新築のように整いすぎた空間よりも、どこか個性が感じられるリノベーション物件に惹かれていた。
さまざまな物件サイトを見比べながら探していた頃、知人から紹介されたのがREISMだった。

「リノベーション物件で探していたんですけど、知人から『自分も住んでいる物件の不動産会社なんだけど、合うと思うよ』って教えてもらったんです。問い合わせもしていましたけど、紹介でつないでもらって。それでちょうどこの部屋が空くタイミングだったんですよ」
実際に部屋を見て驚いたのは、デザインだけではない。
リノベーション物件にありがちな「雰囲気はいいけれど設備は古い」という印象がなく、水まわりまで丁寧に整えられていたこと。そして、WEB上で見られる3Dビューやレイアウトサンプルのおかげで、住んだ後の暮らしまで具体的に想像できた。
「ここなら、自分の好きなものが似合う。」
その直感は、暮らし始めてから確信へと変わっていく。
玄関を開けた瞬間から、棚には服や雑貨、古い車にまつわるアイテムが自然と並び、この部屋そのものが、一つのショップのような空気を纏い始めた。
けれど、その景色は決して”飾るため”につくられたものではない。
部屋を見渡すと、最初に目に飛び込んでくるのは、整然と並んだヴィンテージウェアや雑貨たち。



小さな鳥のオブジェ、古い車のホイール、友人が手掛けたアート、デンデン太鼓、昔のアメリカのパッケージ─。
それぞれに違う背景を持ちながら、不思議と一つの空間としてまとまっている。
単に”物が多い部屋”ではない。

ひとつひとつが選ばれ、理由を持ってそこに置かれているからこそ、雑多でありながら心地よい秩序が生まれている。
「ここに何を置こう」と考えて並べたというより、「気づけばこうなっていた」と本人は笑う。
「本当にパパパッと置いただけなんですよ。考えて並べたわけじゃないんです。でも、自然とうまくまとまってくれて。好きなものを置いたら、今の部屋になったっていう感じですね」
部屋づくりのルーツを辿ると、以前勤めていたファッション業界での経験に行き着く。
VMD(ビジュアルマーチャンダイザー)として、商品の魅力をどう見せるかを考え続けてきた時間。その経験は、今でも暮らしの中に自然と息づいている。
「物を並べる」というより、「物語を見せる」。
そんな感覚なのだろう。

「ファッションの仕事では、VMDとしてお店の空間づくりをしていました。もちろん売上や数字もあるんですけど、それ以上に『どう見せたら、その物が一番魅力的に見えるか』を考える仕事だったんです。だから今でも、家の中でも好きなものはしまい込まずに見える場所へ置きたい。毎日目に入ることで、その物をもっと好きになれる気がするんですよね」
「見せること」が仕事だった経験は、今の暮らしにも自然と息づいている。
ハンガーがきれいに揃ったクローゼット。棚いっぱいに並ぶヴィンテージウェア。
ラフの可動棚いっぱいに並ぶ雑貨。余白を残しながら配置された家具。

どれもショップのディスプレイのようでありながら、どこか生活の温度が感じられる。
忙しい日々のなかで、ぼんやりテレビを眺める一時間。何もせず、ただ好きなものに囲まれて過ごす時間。
それが、この部屋でいちばん贅沢な時間なのだろう。
そんな価値観を形づくった出来事が、30歳を目前に決断した海外生活だった。

社会人になってからずっと心のどこかにあった、「海外で暮らしてみたい」という思い。
本当ならもっと早く挑戦するつもりだった。
しかし、コロナ禍によって計画は何度も延期になり、気づけば30歳を目前にしていた。
「今しかない。」と決意し、ワーキングホリデーでカナダ・トロントへ。
「本当はファッション関係の仕事がしたかったんです。でも言葉の壁もあって、現地では和食のお店で働いていました。働いている人は現地の人が多くて、日本にいるときとは全然違う環境でしたね」
異国での生活は、決して華やかなものばかりではなかった。
それでも、日本では出会えなかった価値観に数え切れないほど触れた。
長く使われ続ける家具。使い込まれた革靴。ヴィンテージショップに並ぶ古着。
誰かが長い時間をともにしたものが、また別の誰かの暮らしへ受け継がれていく。

新品であることよりも、”時間を重ねてきたこと”に価値を見出す文化が、彼にはどこか心地よく映ったという。
きれいだからではない。流行っているからでもない。
そのものが歩んできた時間に惹かれ、自然と手が伸びるようになっていた。

帰国後、家業を手伝うことになり、現在は平日を家業に、休日には友人が運営するクラシックカーコミュニティの活動をサポートする生活を送っている。
週末には撮影や車両の紹介、SNSの発信を手伝い、ときには朝早くから一日中車と向き合うこともある。
忙しい毎日だ。それでも車に関わる時間だけは、不思議と疲れを忘れる。
好きだから続けられる。その感覚は、部屋づくりにもどこか似ている。
棚に並ぶヴィンテージ雑貨も、壁に掛けられた服も、車にまつわる小物も、それぞれ別々に集めたものではない。「好き」という一本の線で、すべてがつながっている。

部屋の片隅には、以前乗っていた車のホイールが置かれている。普通なら収納にしまわれてもおかしくないものだ。
けれど彼にとっては、それも暮らしをつくる景色のひとつだった。
親の車で使われていたCDケースもそうだ。

幼い頃には何とも思わなかったものが、今になって見ると妙に愛おしい。
そこにはデザインだけではない、家族との時間が染み込んでいる。
「ルーツがあるもの」が自然と増えていくのは、偶然ではない。
物そのものではなく、その背景ごと受け取っているからなのだ。

部屋に掛けられたヴィンテージTシャツを見せてもらう。
鮮やかな色ではなく、長い年月をかけて少しずつ褪せた色合い。新品では決してつくれない表情がそこにはあった。

「古着ってあんまりデザインだけで買わなくて。もちろんデザインもありますけど、きれいなものより色褪せてるものの方が好きなんです。汚れてるっていうより、それも味だと思っていて。車もそうなんですけど、古いものって全部汚いじゃないですか。でも、その感じが逆に良くない?って思うんですよ」
その感覚は服だけではない。クラシックカーも同じ。
ボディに浮いた小さなサビ。擦れたハンドル。使い込まれたシート。新品のようにレストアすることもできる。
けれど彼は、あえてそのまま残っている時間に価値を見出す。
「お金をかければ、古い車をきれいにすることはできます。でも、そのサビとか傷とか、その年月だけは買えないんですよ。時間だけがつくったものだから。そのまま残っている方が、自分は魅力を感じます」
その言葉を聞いて、この部屋の景色が腑に落ちた。


少し歪な雑貨。どこか抜けた表情の鳥の置物。古いパッケージ。友人の作品。完璧に整えられたインテリアではない。
だからこそ、この部屋には人の気配がある。どれも少し不完全で、少し不揃い。
けれど、それぞれが歩んできた時間をまとっている。
その積み重ねが、この空間にしかない空気をつくっていた。

「好きなものを見ながら過ごせる配置にしたかったんです。ソファに座ると、自分が好きなものが全部見えるようにしていて。逆に白い壁だけ見てても何も考えないけど、好きなものが目の前にあると落ち着くんですよね」
「好きなものに囲まれて暮らす」言葉にすると、とてもシンプルだ。
けれど、その「好き」が何なのかを掘り下げていくと、一人ひとりまったく違う答えになる。
「アイテムって、使い込むほど味が出るじゃないですか」
取材の最後にそう話したあと、少し考えるように言葉を続けた。
「人も、きっと同じなんですよね」
積み重ねた時間は、その人だけの表情になっていく。完璧じゃなくてもいい。
少し傷があってもいい。年月を重ねることでしか生まれない魅力が、人にもある。

この部屋で暮らす彼自身もまた、好きなものと同じように、自分らしい時間を少しずつ積み重ねている。
帰ってきたくなる部屋とは、きっと「好きなもの」がある場所ではなく、時間をかけて、自分らしさを育ててきた場所なのだ。
今日もまた、その景色の中で、新しい一日が静かに積み重なっていく。
Text: Taichi KodamaPhotograph: Hiroshi Yahata

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