初めて訪れたのに懐かしい。ノスタルジーに浸りつつ過ごす「谷根千」での日々。

台東区の「谷中」、文京区の「根津」と「千駄木」という3つの街は、「谷根千(やねせん)」の愛称で親しまれている。「谷根千」という呼び名が浸透しはじめたのは、1980年代のこと。日本の古き良き文化や街並みが多く残ることで注目を集め、多くの人々が街歩きに訪れるようになった。最近では海外からの人気が高く、谷根千エリアの観光スポットやカフェを訪れると、日本語以外にもさまざまな言語が飛び交っている。

谷根千の最寄りとなるのは、JR「日暮里駅」「西日暮里駅」、東京メトロ「根津駅」「千駄木駅」など。日暮里駅から千駄木駅までは徒歩10分、根津駅までは徒歩20分でアクセスできるほどコンパクトな街なので、1日あれば充分に街歩きを楽しめる。電車のほか、路線バスやコミュニティバスなどの交通手段も充実している。

谷根千と一口に言っても、3つの街にはそれぞれの特色がある。「谷中」は、東京の下町情緒を強く感じられる街。谷根千を訪れるなら欠かせない「谷中銀座商店街」があるエリアだ。歴史ある寺社や古民家が多く、街並みを眺めながら散歩するだけで楽しめる。谷中の細い路地には猫が多く、“猫の街”と呼ばれることも。かわいらしい猫モチーフの装飾やカフェが多いので、猫好きの方はチェックしてみては。「根津」は東京大学や根津神社にほど近い穏やかな街。駅から少し離れた閑静な住宅街には、古民家をリノベーションした店舗やギャラリーなどが点在している。

「千駄木」は、森鴎外や夏目漱石など文豪にゆかりのある地。記念館や美術館、庭園などを通して日本文化に触れられるエリアだ。その一方で甘味処やおしゃれなカフェが多く、カフェ巡りに訪れる人も多いのだとか。これら3つの街が独自の特色を持ちながらも、共通して歴史的な価値を保ち続けているのが、谷根千というエリアの魅力。地元の雰囲気や文化に触れながら、豊かな時間を過ごせる場所として人々に親しまれている。

気になるお店にふらっと立ち寄れるのが、街歩きの醍醐味。

さまざまなジャンルのグルメが集まる谷根千エリア。街歩きに欠かせない、ゆっくりと休憩できるカフェもたくさんある。千駄木駅から徒歩約3分の「CIBI Tokyo Store」は、オーストラリア発のコンセプトストア。カフェスペースとショップスペースからなる店内は、明るく広々としていてのんびりくつろげる。オーストラリア・メルボルンに本店を構える「CIBI」のオーナーは日本人であり、カフェメニューや取り扱う雑貨など、随所に日本らしさがちりばめられていることが特長。何度も通いたくなる、居心地のいいカフェだ。

食べ歩きを楽しみたいなら、日暮里駅から徒歩約5分の「谷中銀座商店街」へ。いつ訪れても賑やかなこのエリアには、お惣菜やスイーツなど、歩きながらでも食べやすいグルメがたくさん揃っており、目移りしてしまう。「やなかしっぽや」では、猫の尻尾をモチーフにした焼きドーナツを販売している。商品には“シロ”や“トラ”、“チー坊”などのかわいい名前がついており、遊び心がくすぐられる。揚げずに焼いて調理するヘルシーなドーナツなので、猫が好きな人はもちろん、子どものいる家庭へのお土産にもおすすめ。

軒先の赤い番傘が目印の和カフェ「CHAYA松緒」は、散策中のひと休みにぴったりなスポット。抹茶や緑茶などのドリンクメニューのほか、かき氷、アイスなどのスイーツも充実している。招き猫をかたどったもなかがちょこんと乗ったスイーツの数々は、“猫の街”と呼ばれる谷中らしさがあり、写真におさめたくなる可愛さ。谷根千にはほかにも、かき氷ブームの火付け役「ひみつ堂」、レトロな喫茶店「カヤバ珈琲」など、行列必至の人気店が揃っている。歴史や文化に、グルメまで充実している谷根千は、誰と訪れても楽しめること間違いなし。

数々の文豪が過ごした街では、幅広いカルチャーに触れられる。

「根津神社」は、災厄除けをはじめとするご利益を得られるパワースポット。緑豊かな境内を訪れると清々しい気持ちになれる。根津神社の御社殿は重要文化財に指定されており、いまもなお江戸時代の造営当時と変わらない姿を保っている。御社殿以外にも、幻想的な千本鳥居が並ぶ乙女稲荷などの見どころがたくさん。また、根津神社はつつじの名所としても有名。千本鳥居沿いに広がるつつじ苑では、毎年4月につつじ祭りが開催されている。満開のつつじと美しい千本鳥居は目にも鮮やかで、フォトスポットとしても人気がある。

日暮里駅の北口から「御殿坂」を通って谷中銀座商店街方面へ向かうと、「夕やけだんだん」と呼ばれる階段がある。夕暮れ時に階段の上から商店街方面を見渡すと、きれいな夕焼けを眺められることから名付けられたのだそう。美しい夕焼けと商店街が広がる風景は、誰もにノスタルジックな気持ちを思い起こさせる。穏やかで暖かい雰囲気を持つ、谷根千エリアを象徴するスポットだ。

谷根千には、ギャラリーや美術館、記念館などの文化施設が数多く点在している。「HAGISO」は、住宅街の一角にある“最小文化複合施設”。カフェやギャラリー、宿泊施設が一体となった建物は、築68年の木造アパートをリノベーションしたもの。HAGISOのギャラリー「HAGI ART」では、主に若い作家の個展や、コンサート、パフォーマンスなどのイベントが行われている。谷根千にはほかにも、森鴎外の旧居跡に建てられた「森鴎外記念館」、根津神社近くの「夏目漱石旧居跡(猫の家)」などがあり、明治から大正時代にかけて活躍した文豪たちの足跡を辿ることができる。新しさとレトロさ、両方の側面から楽しめる谷根千は、何度訪れても新しい魅力を発見できる街だ。