宮田華子
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。
ウェブ:http://matka-cr.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/
日を追うごとに寒さが加速し、冬の気配を感じている今日この頃です。
10月になったばかりだというのに、すでにこんな↓お知らせも来ています。
🌟 THIS JUST IN 🌟 Our Christmas Food to Order service is open! This is our most exciting festive food range EVER, and it’s available to pre-order now in time for Christmas. What are you waiting for? Click here: https://t.co/kZZUNpB9pj pic.twitter.com/HQNKmBahsw
— M&S (@marksandspencer) October 1, 2020
大手&ちょっと“お高級”なスーパー「M&S」は10月1日から、クリスマスフードのオーダー受付を開始したそうです。このツイと同じ内容のメールが来ました。
「年々クリスマスシーズンが早倒しになっている…」という話を毎年していますが、本当にその通りです。今月はハロウィーンもあるので、スーパーやショップのディスプレーにカボチャともみの木が共存しております。
昨年10月にロンドン郊外にあるファーム(農場)&ショップ「ガーソンズ」に行ったときの写真。今年もカボチャを買いに行きたいのですが、現在はコロナ禍のため入場制限をしています。予約しないとファームにもショップにも入れません。
現在、イギリスでは新型コロナウィルスの感染が再び拡大してきています。10月12日にジョンソン首相が会見し、感染レベルを3段階に分け、感染レートに応じて地域ごとにルールを強化する新対策を発表。ロンドンも10月17日からルールの強化が決定しました。具体的には「別世帯の人と室内で会ってはいけない」「必須時以外、公共交通機関の利用をしない」が主なルールです。
9月初旬のロンドン中心部のブランド街。コロナ禍以前はいつも混んでいた道ですが、今は観光客も少なく、在宅勤務者も多いのでガラガラです。
飲食店は厳しいルールを守ることを条件に、営業を続けています。ロンドンの場合、10月17日以降も飲食店の店内利用は可能ですが、別世帯の人と同じテーブルを囲むことは禁止となります。
ロンドン中心部にあるレストラン「Clipstone」にて。席の間隔をあけ、全テーブルに消毒液を置き、サーブするスタッフは全員マスクを着用していました。
地域のお店を応援したい気持ちはありますが、感染抑制のためには移動と集合を控えるしかありません。今後は再びテイクアウトを中心に地域のお店を利用できたらと思いますが、飲食業界に不安が広がっているのは確かです。
9月後半のある日曜日、友人カップルと「サンデーロースト」を食べに行きました。ロックダウン直前に会ったのが最後だったので、半年ぶりの再会でした。
イギリス人カップル、アナとジャクソンの2人。アナはオーガニックショップで、ジャクソンはクラフトビール醸造所で働いています。
「サンデーロースト」とは、今年3月の記事『ご飯も美味しい“ガストロパブ”に行ってみよう』の記事でも少し紹介しましたが、日曜日のランチに食べるロースト料理を指す言葉です。
「ロースト(Roast/Roasting)」とは、オーブンや直火での輻射熱を使い、肉や魚、野菜にじっくり時間をかけて加熱する料理法のこと。
イギリスの一般家庭には必ずオーブンがあり、「イギリス料理と言えば“オーブン料理”」というぐらい、オーブンを多用して料理をしています。
我が家の小さなキッチンのオーブン。家はリノベ済みの状態でフラットを購入したので、オーブンはすでに設置済みでした。
オーブン料理は「何となくご馳走に見えるという」だけでなく、絶対美味しく仕上がる簡単で有難い調理法です。ただし焼きあがるまでに時間が掛かります。
昔、イギリスでは多くの人が日曜日の朝、教会に行っていました。肉や野菜をオーブンに入れて仕込み、火をつけたまま教会へ。礼拝を終えて家に戻り、美味しく焼きあがったロースト料理を家族で囲むという習わしがあったのです。
現在は教会に毎週行く人はとても少ないのですが、「サンデーロースト」の習慣は毎週ではないものの、形を変えて生きています。家族や親戚があつまるときなどに家でロースト料理を作ったり、日曜日に友人宅に行くと、ロースト料理でもてなされることもあります。
また、美味しいサンデーローストを提供するパブもたくさんあります。「サンデーローストは(家で調理するのではなく)日曜日にパブで食べるご馳走」という認識の人も多いようです。
今回、アナとジャクソンに「せっかく日曜日に会うなら、ローストを食べに行こうよ」と提案されました。パブにもいろいろ種類があり、ドリンクのみを提供しているパブと、食事も提供している「ガストロパブ」とがあります。ガストロパブでも日曜日にロースト料理を提供していない場合もあるので、調べて行かないと美味しいローストにはありつけません。
今回行ったのは、ロンドン南部の「Balham」という地区にある、「The Cyclist」というパブです。外観↓やドリンクメニューはかなり「フツー」のお店なのですが…
フードサイトで「ローストが美味しい店」として絶賛されていたこと、またインスタに掲載された写真が全部美味しそうだったので、予約してみました。
美味しそうな写真にほだされて…。
そして期待通り、本当に美味しかったのです!
私はローストビーフを注文。焼き加減も選べたので、「ミディアムレア」にしました。
大きなビーフの切り身が2枚。手前はヨークシャープディング。肉汁を使って作る、グレイブ―ソースもたっぷり掛かっていました。写真撮り忘れましたが、ホースラディッシュ(西洋わさび)をべっとり塗っていただきました。
肉の下には野菜もたっぷり。
バターで絡めたキャベツ、ローストしたニンジンとポテト、マッシュしたカボチャ。お野菜たっぷりです。
いままで様々なお店でローストビーフを食べてきましたが、今回の一皿はかなりのハイレベルでした。ほどよい厚さなので、肉の柔らかさとジューシーさの両方が味わえ、コクのあるグレービーとよく合いました。
一口にローストビーフといっても、今回のように「やや薄切り」のものから、かなりの厚切りのものまでいろいろあります。
こちらは、以前は映画監督のガイ・リッチーがオーナーだったことで知られるパブ「Punchbowl」のローストビーフ。厚切りのローストが1枚ドン! 食べ応え満点で美味しかったです。
日本ではローストビーフと言うと薄切りのイメージがありますが、イギリスでは「ロースト」した「ビーフ」であればなんでもアリ。お店ごとに個性があるのです。
実はアナとジャクソンはベジタリアンです。ジャクソンは両親がベジタリアンだったので子供のときからずっと、アナはジャクソンとつき合い始めてからベジタリアンになったそう。
イギリスのほとんどのレストランでベジタリアン/ビーガン用のメニューが用意されているので、一緒に外食する場合でもそんなに困ることはありません。ローストメニューの場合、「ベジタブルウェリントン」と「ナットロースト」がベジタリアン用の定番です。
今回はベジタブルウェリントンがメニューにありました。
「ウェリントン」とはパイ包みのことです。ベジ版ではないものでは、ビーフウェリントンをよく見かけます。
ベジタリアンメニューですが、ヨークシャープディングとローストポテトが添えてあるので、ボリュームたっぷりです。
中身はローストしたニンジンやカボチャ、オイスターマッシュルーム(きのこ)、ケールのバター炒めでした。
ちなみに「ナットロースト」とは、平たく言うと「ミートローフのベジタリアン版」。野菜、スパイス、豆類、ナッツ類をパン粉や油と一緒に混ぜ、型に入れてオーブンで焼いたものです。
イギリスの高級スーパー「Waitrose」のYoutubeチャンネルより。ナットローストの作り方を伝授しています。
この2つはベジタリアンでなくてもチョイスすることがある人気料理です。ナットローストは、クリスマス料理の定番でもあります。
食べる前に写真撮影中のアナ。アナの前にあるのは、オイスターマッシュルームのリゾット。2人仲良く、ウェリントンとリゾットをシェアして食べていました。
日本からお客さんが来た場合、「美味しいロースト“ビーフ”が食べたい」とリクエストされることが多いです。しかしイギリスでは、「肉のロースト=ローストビーフ」というわけではありません。
ビーフ以外の定番肉は「ラム(子羊)」、チキン、そしてポークですが、
別の店で食べたラムのロースト。お店によっては「2人前からオーダー可能」等の大皿でサーブされるメニューもあります。こちらは2人前なのですが、3人でシェアしても十分な量でした。
皮付きの豚肉のロースト。皮のカリカリ感も楽しめます。
鹿肉(Venison)や鴨(Duck)のローストもよく見かけます。
また夏の終わりから冬にかけての狩猟の季節になると、ゲーム(Game)と呼ばれる野鳥類のロースト等もお目見えします。
キジ(Pheasant)。ガストロパブ「Marksman」のインスタより。
ライチョウ(Grouse)。ガストロパブ「The Coach」のインスタより。
肉も野菜もそれぞれに旬があります。皿の上で四季を味わえるのもローストの楽しみです。
ローストの添え物の定番は根菜類(ニンジンやパースニップ)、葉物野菜(キャベツやケール)、ポテト(ローストポテト、フライドポテト、マッシュポテト等)、そしてヨークシャープディングです。
手前にあるのがヨークシャープディングです。
「プディング」と言ってもプリンではありません。イギリスでは、オーブンを使って焼いたスイーツのことも「プディング」と言うのですが、ヨークシャープディングは卵がたっぷり入ったパンのようなものです。外は香ばしく、中は空洞でふわっとした食感です。
なぜ「“ヨークシャー”なのか?」には諸説あります。1747年に出版された料理本『The Art of Cookery Made Plain and Simple』(Hannah Glasse著)で「ヨークシャープディング」として紹介されていますが、イングランド北部ヨークシャー地方でよく作られていたレシピだったことからこう呼ばれた、という説が有名です。
丸い形が定番ですが、ナイジェラ・ローソン(ナイジェラ様についてはこちらの記事でも紹介しました。イギリスの有名な料理研究家です)がこのYoutubeチャンネル↓で紹介しているように、トレイいっぱいに作って切り分ける場合もあります。
ナイジェラ様はヨークシャープディングにクリームとハチミツを掛けて、デザートとして食べることをご提案。パンのようなものなので、確かに甘くしても美味しいですね。
アナの実家では、ヨークシャープディングも手作りしていたそう。小麦粉、卵、油、塩だけのシンプルな材料でできますが、手作りするのはまあまあの手間です。スーパーマーケットでは、オーブンに温めるだけでOKの冷凍ヨークシャープディングが売られています。
最近はプラスチック削減のため、パッケージに入っていない状態の冷凍食品(量り売り)もあります。左から栗、ヨークシャープディング、グリーンピース。
ローストを完食し、その上デザートも食べてお腹いっぱいになりました。
スティッキートフィープディング。こちらは「スイーツ」としてのプディングです。「スティッキー」は「ベタベタした」という意味。ナツメヤシが入ったどっしりしたケーキに、温かいキャラメル味のトフィーを掛け、冷たいアイスクリームが添えられたデザート。カロリーを考えては…いけませんね(笑)。
この日はたぶん今年最後であろう、半袖で過ごせた暖かな日曜日でした。腹ごなしに4人で少し散歩しました。
「あの家に住みたいね…」と家並みを楽しみ、
公園を歩きながらおしゃべり。
Wandsworth Commonという公園です。
夕方まで一緒に過ごし、天気のよい秋の1日を満喫しました。
そして「再ロックダウンにならないといいけど。またすぐ会えるといいね」と言って別れました。
残念ながらまた人に会えない&移動ができない日々が戻ってきてしまいました。長いロックダウンは「人と直接会えること」がどんなにありがたいことなのかを痛切に感じた経験でしたが、1度経験しているだけに、つかの間の自由な時間の有難さを、今再び実感しています。早く終息してほしいと願いつつ、そのためにもしばらくまた家で静かに過ごします。
カーン・ロンドン市長のメッセージ
— イギリスについてつぶやく:ハナコです (@uknews_murmur) October 15, 2020
「土曜(10/17)からロンドンが2段階の制限下になります」「(国の)追跡システムの失敗により、残された選択肢は僅かです」「今行動しなければ、多くの人命を失います」https://t.co/MGsr0pknOI
日本の状況も毎日ニュースで確認し、心配しています。どうか皆さまも、お気をつけてお過ごしください。
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