冬支度の季節。イギリスの暖房器具のトレンドとは?

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

※記事内容は2022年10月28日時点の情報によるものです。

日本も徐々に寒さを増していると思います。先月「まあまあ寒い秋」と書いたのですが、10月半ば以降、「まあまあ暖かい秋」に転じました(笑)。日本とあまり変わらない気温の日もあります。

10月末なのに最高気温が20度超えの日も。ロンドン的には暖かい印象です。(BBCオンラインのキャプチャ画面より©BBC)

このところ、日本の友人や家族から「なんだかイギリス大変そうね」というメッセージがどしどし届いております。はい、そのとおりなんです(笑)。いろいろ混迷しています。

10月20日、就任からたったの45日でトラス首相が辞意を表明し、

9月6日に首相に就任したばかりだったのに…のリズ・トラス首相。

5日後の10月25日に、リシ・スナク政権が発足。イギリス初のアジア系の首相が誕生しました。

ここに至るまでの1カ月超、イギリスは嵐の渦中にありました。9月23日に発表した「ミニバジェット(小さい予算=減税計画・緊縮財政)」が、国民・市民から大きな批判を呼んだからです。

しかしあまりの批判に3週間と3日で予算そのものが大きく覆りました。

こちらの日本語記事で詳しく解説されています。

その後、大臣の解雇や辞任が続き、首相辞意表明→新首相誕生となりました。

皆の心配は「寒さ」と「家」

こんなにイギリスが荒れている理由を大胆&簡単に集約すると、

●冬が長く厳しい国なのに暖房費が高騰している
●不動産が個人資産の要の国なのに金利(利子)が上昇している

ため、人々が大きな不安を抱えているからです。

暖房費がかさむ冬…

昨年からエネルギー原価の高騰により、ガス電気料金が恐ろしいほど上昇しています。イギリスは寒い国なので冬は暖房費が本当にかさみます。

「寒い冬だったらどうしよう?」「ヒーターをつけないか、食費を削るか、どちらかにしないと」という、緊迫した会話も聞こえるほどです。

家のローンが払えないかも!?

イギリスは“基本的”には「家の価格が下がらない国」。銀行に預けておくより家に投資した方が資産を増やせます。ですからイギリス人はあまり貯金をしないことでも知られ、多くの人が莫大な額の住宅ローンを抱えています。

今年、春に金利の引き上げがあったのですが、今後さらに上がる可能性もあります。イギリスの固定金利型ローンは2年または5年が一般的です。金利の見直し時期が近付いている場合、「もうローンを払い続けられないかも」「今の家を手放さないとならないかも」という不安が押し寄せます。

どちらも生活に直結した不安だけに、これらの問題を解決することが政府に求められているのです。

「衣替え」がない→暖房必須!

ハロウィンが終わると本格的に冬モードに入るのですが、実はイギリスには「衣替え」がありません。外は寒いものの、家の中はポッカポカにするのがイギリス流。家の中では真冬でも半袖を通している人も多いのです。

レストランやカフェも暖房がきいているので、冬場にレストランに行く際、着る物の選定に迷うほどです。

今年の冬は暖房費高騰のため、例年通り「室内はポカポカ」の冬が迎えられるか?はまだ分かりません(涙)。そんな中でも、暖房周りの流行はあります。今回は「暖房費の不安が早く解消するといいな…」と願いつつ、「暖房周りのトレンド in イギリス」についてご紹介します。

部屋に“重厚感”をプラス「キャストアイロン・ラジエーター」

イギリスの住宅における暖房は「ラジエーター」と呼ばれる温水パネルが基本です。

温水パイプが家中に張り巡らされており、各部屋に設置されているパネルを温めます。エアコンやファンヒーターのように一気に室内温度を上げることはできないですが、家の中が乾燥しないのは良い点です。ボイラーとサーモスタットで温度を管理するセントラルヒーティング方式で、じんわり家中が温まります。

白いパネルがもっともよく見るタイプであり安価ですが、家の改装をきっかけに人気の「キャストアイロン(鋳鉄)」のラジエーターを採用する世帯が増えています。

こちらはクラシカルな模様な入ったものですが…

いつかこの手のタイプのラジエーターが欲しいです…。

模様はなく、鉄の重々しさで「魅せる」タイプも人気です。

この手のタイプは、パブやカフェでもよく見かけます。

模様入りのものは主張が強いこともあり、全室を同じものに変えるというよりは「1部屋だけ」または「目立つ場所にあるラジエーター1つだけ」に絞って工事をし、その後様子見る家も多いようです。

現在インテリア界隈ではダークカラーが人気です。特に戸棚や壁の色にグレーやダークグリーンが好まれています。

「重め」カラーの壁にキャストアイロンのラジエーターを組み合わせると、雰囲気がさらにアップします。

キャストアイロンの良さはその重厚感にあるのですが、通常のラジエーターにオイルペイントを使用して色を変えるだけでもかなり印象が変わります。

DIYアドバイザーであるサム・ウッドさんのYoutubeチャンネル<Bloke the Cave>より。

我が家のラジエーターは普通の白色です。「普通過ぎてつまらない」と思っているのですが、キャストアイロンに交換するのはコストも掛かるので悩み中です。オイルペイントでラジエーター1つだけでも色を変える等、部屋との相性を実験してみようかなと思っています。

暖炉跡を有効活用。ストーブが人気

もう1つ、昔風の形のストーブを暖炉に設置するのもトレンドです。

リビングルームは家の中でもっとも広い部屋なので「ラジエーターだけでは寒い」という日もあります。昔は暖炉で火を炊いていましたが、ロンドンをはじめとする都市部の場合、多くの自治体が排煙規制区域となっているため「暖炉」としては使用できません。

私はロンドンで10軒以上の家に暮らしましたが、本物の火が炊ける暖炉があった家はたった1軒だけでした。冬の夜長に火を点けると、本当に暖かく、そして癒されました。

暖炉と煙突をぶち抜いて部屋を少し広くしている家もありますが、現在は暖炉部分をあえて残している家の方が多いです。

「あくまでインテリアとしての暖炉」はこんな感じです。

数年前までは↑こちらのような「ディスプレーとしての暖炉」をよく見かけましたが、最近は暖炉跡を「暖房用スペース」として活用している家が多いです。

具体的にはストーブを暖炉スペースに設置し、冬場の「サブ暖房」として利用しているのです。

例えばこちらの薪ストーブは、排煙規制区域でも使用できるエコデザイン規定に準じている製品です。

左上のマーク「defra」とは「Department for Environment, Food & Rural Affairs(環境・食糧・農村地域省)」の略です。「DEFRA approved for Smokeless zone(環境・食糧・農村地域省が排煙規制区域でも使用可と認定)」とかかれたマークがある薪およびマルチフューエル・ストーブであれば、ロンドンでも安心して使えます。

こちらは↓ガスストーブですが、しっかり「本物っぽい暖炉感」が味わえます。

薪ストーブやガスストーブの場合、設置の手間がかかります。しかし電気ストーブは「置いて電源につなぐだけ」で済むので手軽です。近年、電気ストーブのデザイン・クオリティもあがっています。

こちらは薪ストーブ風の電気ストーブです。ストーブの上に伸びている筒(煙突)はただの飾りです。

この手の電気ストーブもキャストアイロンで作られているので重厚感があります。煙も出ず、炎も疑似炎ですが、ちょっとそこに置くだけであれば、「電気ストーブで十分雰囲気が出るな」と思います。

モダンなインテリアに合うタイプの疑似炎の電気ストーブ(↓)は、2000年代前半からよく見かけます。広い家の場合、この手のタイプが人気でした。

大きければそれだけフェイクファイヤーなことは一目瞭然なのですが、広くてモダンな家にいくと大抵このタイプが設置されていました。現在はレトロ&クラシカルなデザインがトレンドなので、あまり人気がありません。

暖炉スペースがない家の場合でも、こんな↓デザインのストーブであれば暖炉のような味わいを醸し出せます。ちなみにこちらは電気ストーブなので、夏場はしまっておけるのも便利ですね。

実は…8月に引っ越した我が家にも「元暖炉」のスペースがあります。

数十年前まではこの部分に本物の暖炉があり、日常的に使っていたのだと思います。その後以前この家を持っていた人が改装し、漆喰で塗り固めて暖炉を閉じたようです。合板製のマントルピースを置き、薄い暖炉風の電気ヒーターが設置した「張りぼて」感満々の暖炉スペースです。まったく気に入っていません(涙)。

しかも入居時に電源を入れてみたのですがまったく起動せず。壊れているのであれば、いっそのこと丸ごと撤去してキャストアイロン製の電気ストーブに変え、暖炉部分もこんな風に↓作り変えたいのですが…

現在我が家は、家中至るところを修理している最中です。「インテリア」視点で暖炉改装に手を付けるのはまだまだ先の話です。

とは言え、寒さが本格化すると、ラジエーターだけではリビングルームが温まらない日もあるはずです。「サブ暖房」としてこのヒーターが必要なこともあると思い、エンジニアさんにお願いしてヒーターのエンジン部分を交換。使えるようにしました。

エンジニアさん修理中。表面のガラス部分を取り外すと、中はかなりシンプルなメカニズムで驚きました

ひとまずこの冬はこの「張りぼて暖炉」で乗り切ります。

いろいろと不安要素が多い冬になりそうですが、11月に入ると世の中は一気にクリスマスムードに向かいます。

クリスマスは皆の楽しみであり、特別な雰囲気が漂います。どんな冬になるかまだ分かりませんが、私も今年残り2カ月を楽しみたいと思います。

ではまた来月お目に掛ります!