宮田華子
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。
ウェブ:http://matka-cr.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/
この冬は、比較的暖かい日が多く、そして雨ばかり降っています。
「私がロンドンに来て以来、1番の暖冬」
「もっとも雨の多い冬」
と思ってこの数カ月を過ごしており、とにかく毎日よく雨が降っているので「湿った、ぬるい冬」という印象でした。
しかし2月に入り、突然寒波がやってきました。加え、嵐が2週連続やってきたのです。イングランドおよびウェールズ各地で洪水が起こり、多くの人が避難しました。現在もまだ復旧が続いています。
2週末連続でやってきた冬の嵐。昨日までの「Storm Dennis」は多くの洪水をおこし、まだ全英300カ所に警戒警報が出ている。異常気象を肌で感じます。イギリスは環境についてはかなり皆がピリピリ意識をしているので、今後さらに環境保護が進むと思う。https://t.co/L9S3u2oqFM
— イギリスについてつぶやく (@uknews_murmur) February 17, 2020
ロンドンでは洪水はなかったものの、大雨に加え強風で木々がなぎ倒されたり、知人の家は塀が倒れてしまいました。
台風は日本では夏のものですが、イギリスでは冬に来るものです。欧米では台風に名前がついていますが、今回猛威を振るったのは「シアラ」と「デニス」でした。
嵐「Dennis」が通過中のイギリス。明日朝には去るようですが…の話から、ちょいと調べてみた。イギリスが嵐に名前を付けだしたのは2015–16年度~で最近のこと。男女の名前は交互につけられる。そして英では嵐は「冬」。米で初めて嵐に男性名がついたのは1979年だそーです。https://t.co/ycUqa3K52q
— イギリスについてつぶやく (@uknews_murmur) February 15, 2020
洪水の水が引かない現在も、雨は降り続けています。異常気象を肌で感じています。
ちょっと暗い話題から入ってしまいましたが、気を取り直し、今回はイギリスのビール処「パブ」の中でも、「ガストロパブ」についてご紹介します。
以前パブについての記事を書いたときにも少し触れましたが、パブには大きくわけて2種類あります。
① ドリンク類がメインで、食べ物はポテトチップスやピーナッツぐらいしかない
② ドリンク類に加え、食事も出しているレストラン機能を備えている
②のことを「ガストロパブ」と言うのです。
パブご飯の定番「フィッシュ&チップス」。大きな魚のフライとチップス(フライドポテト)はきまりごとですが、添え物はお店によって異なります。このお店では、新鮮なグリーンピースをマッシュしたもの。レモンには切り口に焼き目つけて、香ばしさと酸味を抑える工夫がしてありました。
しかし「パブで食べるご飯」だからといって、イギリス料理と決まっているわけではありません。イギリスやヨーロッパ料理を今風にアレンジした「モダンブリティッシュ」「モダンヨーロピアン」を提供するガストロパブが現在の主流ですが、タイ料理等のアジア系料理提供するガストロパブもあり、人気です。
映画『ノッティングヒルの恋人』でおなじみ、ノッティングヒルにあるパブ「The Churchill Arms」。外観に飾られたモリモリの花&植木デコレーションでも有名です。ここではタイ料理を出しています。ビールとタイ料理、相性はバッチリ。いつも混んでいます。
日本からの来客と一緒に食事をするとき、私はよくガストロパブを予約します。せっかくロンドンに来ているので、イギリスらしいインテリアの中で美味しいイギリス料理を食べてほしいと思うからです。
こちらはHackney地区にある「Marksman」。大好きなガストロパブの1つです。1階はドリンクだけでOKの通常のパブ、2階(↑)は食事もする人のためのレストランスペースになっています。古い建物を生かしたモダンインテリアが素敵です。
「Marksman」の食事はモダンブリティッシュ。洒落た盛り付け、色味もキレイでプレゼン力が高いのも魅力です。こちらのデザートはルバーブとバラを添えた、バターミルクアイスクリーム。
ガストロパブでの食事はランチとディナーが基本ですが、最近は朝食も提供しているお店も増えています。
Kings CrossまたはEuston駅から歩いて10分ほどの場所にある「Norfolk Arms」は、夜はタパスを提供するガストロパブ。朝食はスクランブルエッグからパンケーキ、スペイン風のハッシュドポテトまでさまざま。この写真はピーナッツバター&バナナのパンケーキ。
コーヒーだけでもお酒だけでも利用でき、その上食事もできるのがガストロパブの良いところですが、私が1番好きなのは、ガストロパブで食べる日曜日のランチです。
日曜日のランチだけ通常のメニューに加え、「サンデー・ロースト」をサーブしているガストロパブはたくさんあります。
サンデー・ローストとは、その名の通り「日曜日に食べる、オーブンでローストした料理」。オーブンで焼いた牛、豚、子羊等の肉料理にポテトや野菜、ヨークシャープディング等が添えられたものです。
ロンドンのど真ん中、Green Park駅から歩いて7分のところにある「The Punchbowl」は観光地にも近い便利な場所ですが、値段も抑えめでおススメです。
「The Punchbowl」のローストビーフ。肉厚のローストビーフにたっぷりのグレービーソースを掛けて。私はホースラディッシュ(西洋わさび)もべっとり塗っていただきます。
昔は日曜日の朝にロースト料理を仕込み、その後家族で教会の礼拝に参列。帰宅後家族でローストを囲んで食事をするのが習わしだったそうです。
今は毎週教会に行く人は少なく、そして毎週家庭でサンデー・ローストを食べている人も少ないと思います。しかしかつては家庭で行われていたこの食事を現在はガストロパブが引き継ぎ、「お店のウリ」として提供しているのです。
同じローストでも、お店によってさまざま。どちらも「チキンのロースト」ですが、別のガストロパブで食べたもの。左はお上品な量に見えますが、実はフライドポテトが別添えだったのでたっぷりでした。チキンの皮をカリっとさせ、野菜はニンジンとパースニップ(イギリスでよく食べるニンジンに似た触感の根菜)。右は脂ののったもも肉を丸ごとドン!とボリューミー。ローストポテトとバター和えしたケールを添えて。どちらも美味でした。
ロースト自体はそんなに難しい料理ではなく、スーパーにはすでにマリネ済みの「焼けばいいだけ」の状態のお肉も売っています。しかしオーブンで焼くので、調理には時間が掛かります。またヨークシャープディングや野菜、グレービーソース(肉汁で作るソース)なども用意するとなるとまあまあの手間です。その部分をガストロパブが引き受けているのです。
美味しいガストロパブは、日曜日のランチ時、とても混んでいます。かなり前から予約しないと席が取れないほどの激戦です。
ジーンズでふらりと行けるのがパブの良さですが、ガストロパブの中にはミシュランの星付きのお店もあります。
2020年度版ミシュランガイド・イギリス版に掲載されている星付きガストロパブは全英に19店。ロンドンにあるのはFulham Broadway駅から徒歩8分ほどの場所にある「The Harwood Arms」1店のみです。
2009年にオープンし、翌年にはミシュラン1星を獲得。以来ずっと星を守っている名店です。
今回機会があり、ずっと行ってみたかったこのお店に行ってきました。
ガストロパブですが一応星付きなので「ドレスコードはあるのだろうか?」と思ったのですが、行ってみるといたって気楽な雰囲気。ジーンズ姿の人もたくさんいました。
テーブル席は食事をする人たち用ですが、カウンター席はドリンクだけのお客さんもいました。
男性のみで来ていたグループ。ものすごく楽しそうでした。「スタッグナイト」(結婚前の男性が、男友だちと楽しむパーティ)なのかな?と思いました。
お店の雰囲気は「キレイ目のトラディショナルパブ」といった感じです。特におしゃれ度が高いわけではないのですが、インテリアのところどころにイギリスのカントリーライフの佇まいや暖かさが感じられます。剥製や毛皮のラグがたくさん飾られているのも特徴です。
実は近年、動物愛護の観点から剥製や毛皮製品をお店等で見かけることは減っています。しかしそうした状況も分かった上で、イギリスの狩猟文化を彷彿とさせる雰囲気に演出しているのかもしれません。
さて肝心の食事ですが、夜は3コースのメニュー(49.95ポンド=約7,000円。サービス&税別)が基本です。前菜、メイン、デザートの選択肢は5種類ほどあり、自分で好きなものを選べます。
2コースだけ、メインだけといったチョイスはできないものの、3コースにワインのペアリングをしたり、またデザートの大盛などのアレンジは可能です。ワインやビール、食後のコーヒーやデザートワイン等は別料金でオーダーします。
楽しみにしていたこの食事、まずは赤ワインを1杯。そして最初にサーブされたパンとバターを食べたところで「今日の食事、絶対美味しい!」と確信しました。
全粒粉の固めのパン(ローフ)に、ふわふわの発酵バター。バターの上には大きな粒の塩がパラパラと振りかけてあり、塩と脂の美味しさでパンが進みます。ここで勢いよく食べると後がもったいないことになるのに、美味しくてやめられない…。
パンをかなりの決意で控えめにし、前菜とメインを、一緒に行った旦那のヒトの分も味見しながらしっかりいただきました。
前菜は子羊の胸腺とカニのタルトを、
上は子羊の胸腺の唐揚げ。しっかりした味がついた胸腺はふわふわ、衣はカリっとしており、ワインが進む味です。下はカニ肉のタルト。サクサクの軽めのタルト生地に、たっぷりのカニ肉のフィリングがよく合います。上に乗ったイタリアンパセリがフレッシュな風味をプラスしてくれます。
メインは子羊と鹿のローストを注文しました。
上は「本日のスペシャル」だった子羊のロースト(2種類の部位)、ポテトとほうれん草添え。下は鹿肉(ダマジカ)のローストに赤かぶとロシア風のコロッケ添えたもの。どちらも美味しかったですが、両方食べたため、さっぱりした赤身の鹿よりも脂ののった子羊の方が美味しく感じられました。
どの料理も見た目は割と普通で、特に凝った感じはありません。しかし食べてみると濃厚な味に加え、舌をリフレッシュするためのハーブや添え物野菜に工夫が凝らされています。繊細さよりも、どしりとした食べ応えが実感できる「骨太なイギリス料理」を楽しめるお店です。
肉の火加減も素晴らしく、しっかり2皿完食しました。
ここですでにかなり満腹なんですが、ワタクシ、在英歴もそこそこ長いので、胃袋的にはデザートまで完食できるよう鍛え上げられておりますので大丈夫(笑)。
コーヒーを頼んで、デザートを待ちました。
イギリスではミルクが入ったコーヒーを「ホワイトコーヒー」と呼びます。今はどのお店もほぼイタリアンコーヒーが定番なので、こちらはホワイト・アメリカ―ノ。冷たいミルクを小さなジャグに入れてサーブされることが多いのですが、こちらはふわふわに泡立てられていた温かいものが別添えでした。この辺が星とお値段に反映しているのでしょう。
実は今回の食事で、最も印象的だったのはデザートでした。私は甘いものも好きですが「甘党」というほどではないので、普段は「デザートは必須」というタイプではありません。
しかし今回は3コース・フィックスだったので「久々のデザート!」と意気込んで頼みました。選んだのは「洋梨のタルトタタン」(↓)と、
リンゴで有名なお菓子の洋梨版にアイスクリームが添えられていました。洋梨そのものには薄く甘みがついている程度なので、表面の焦げた感じと中のサクサクした爽やかさの両方が楽しめました。パイ部分が思いっきり軽めなのも、果物の美味しさを引き立てています。アイスクリームとよく合います。
「チョコレートモルトケーキ」(↓)です。
このチョコレートモルトケーキ、衝撃の美味しさ!でした。今までイギリスで食べた中で、もっとも印象的なデザート体験と言っても過言ではないほどです。
チョコレートモルトケーキとは、麦芽のシロップが入ったチョコレートケーキです。ふんわりとモルト特有の香りがたちのぼり、チョコレートケーキが複雑な味になります。
焼きたての温かいケーキ。ブラウニーのようなねっとり感と重さがあります。そこに甘~いトフィーのような蜜を掛けて食べるのですが、横には麦芽乳で作ったアイスクリームも添えられているのです。1個で3万キロカロリーぐらいありそうな…シロモノです(笑)。
でも、食べ始めるとスプーンが進むこと進むこと! どっしり濃厚ケーキに濃厚蜜を掛けるのですから、それはそれは濃厚です。でも温かいケーキとそこにさっぱり味の冷たいアイスクリームを交互に食べると、永遠に食べていられる魔のループに陥ります。
これは…やめられない美味しさ!
もちろん完食しました。お皿の底まで舐め切りました!
デザートをサーブしてくれたウェイターのお兄さんが「タルトタタンも美味しいけど、こっちのチョコレートケーキ、2人共絶対に食べてね。すごく美味しいからね」と、念押ししていた意味が分かりました。
ワインもコーヒーもひとしずくも残さず、しっかり食べて、しっかり飲んでお腹いっぱい。大満足の3時間。平日の夜だったのですが、お店は満員。その意味がよく分かった星付きガストロパブ体験でした。
食後もデザートワインやビールを何杯でも追加でオーダーし、長くくつろげるのもガストロパブならではです。たくさんの人が食後に楽しそうにおしゃべりしていました。
パブの雰囲気を楽しみつつ、美味しい食事もできる「ガストロパブ」。イギリス旅行の際には1度試してみてください。「The Harwood Arms」も含め、オンラインで予約可能なお店も多く、ガストロパブであれば観光中のカジュアルウェアでも行けるので安心です。
海外旅行でのレストラン選びは難しいと思いますが、こちらの<Top 50 Gastropub>は信用できるサイトです。イギリス中のガストロパブからベスト50を毎年選出しています。ぜひ参考にしてみてください。
2020年の1位は「The Harwood Arms」。上記で紹介した「Marksman」は11位にランクイン。
パブは本当に奥深く、味わい方、楽しみ方、使い方はさまざまです。友人との団らんの場であり、またひとりになりたいときにふらりと行ける場所でもあります。在英歴が長くなるたびに、イギリス暮らしに欠かせない場所だと実感するようになりました。
またいつかパブについて特集したいと思います。
今回ご紹介したガストロパブ:
●The Punchbowl
https://www.punchbowllondon.com/
●Marksman Public house
https://www.marksmanpublichouse.com/
●The Norfolk Arms
http://norfolkarms.co.uk/
●The Harwood Arms
https://harwoodarms.com/
※すべてのガストロパブで「サンデー・ロースト」を提供しているわけはありません。もし「サンデー・ロースト」がお目当ての場合は、先にHP等で確認してください。
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