宮田華子
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。
ウェブ:http://matka-cr.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/
今年の夏は「冷夏のはず」でした。しかし7月4週目に突然、連日35度以上の恐ろしい真夏日に襲われました。
「あれれ? もしかして暑い夏なの?」―― 涼しい夏を謳歌しようとしていたので、ちょっと当てが外れてしまっています。
最も暑かった日は7月25日。この日はなんとロンドンの北に位置するケンブリッジで38.1度(!)を記録。イギリス史上最高気温は2003年8月10日に記録した38.5度とのことで、この日は「イギリス史上2番目に暑かった日」となりました。
猛暑だった7/25付近のロンドンの天気と気温。ウェブサイト<https://www.timeanddate.com>より、キャプチャー画面です。(出典:https://www.timeanddate.com/weather/uk/london/historic)
日本の夏的には30度越えなんてざらですよね? ですがこちらでは熱波が来たら大騒ぎです。それはイギリスという国そのものがまったく暑さに対応していないからなのです。
まず一般家庭にクーラーが全く普及していません。イギリスはそもそも涼しい夏が基本の国なので、30度越えの真夏日が全部で1週間もあったら「夏として優秀」と言われるぐらいの涼しさ。扇風機は持っていても、クーラーは一般家庭にほぼありません。
家庭でのクーラー普及率・国別比較の図。イギリス家庭でのクーラー普及率は3%となっていますが、私の周りでクーラーを持っている人は皆無。しかもイギリスの家庭用クーラーは日本のように壁面上部に設置&外にファンを置くタイプのモノではなく、室内の床に置くポータブル式のもの。「そよそよ」と涼しい微風が漂う…ぐらいの弱いものです。オフィスや公共施設にはまあまあクーラーは普及しているので、暑い日はカフェに逃げ込んでいます。(図はBBCサイトのキャプチャです。出典:https://www.bbc.com/news/health-48927672)
クーラーなしの38度は…キツイです(涙)。室内気温も35度以上になり、逃げ場がまったくないので、深刻な熱帯夜→睡眠不足に陥ります。ワタクシは今回人生初の熱中症になり、回復に数日かかりました。熱中症、恐ろしいです。
そして公共インフラも暑さに対して脆弱です。特に7月24日~の3日間、電車が軒並みキャンセルになりました。それは線路が熱でゆがんでしまうため、危険回避のために本数を減らしたり、またはキャンセルしたりしたからです。ロンドン主要駅は大混乱となりました。
先週水木の熱波はイギリスの暑さに対する脆弱さを改めて露見することに。線路が熱くなって曲がってしまうため、電車が軒並みキャンセルに。今後温暖化が進むけれど、でも来年は冷夏かも~と思うからなのか、この辺すぐにはきっと何も変わらないんですよ。それがイギリス💛https://t.co/pURUy06Sih
— イギリスについてつぶやく (@uknews_murmur) July 29, 2019
しかしその翌週には20~25度前後に落ち着きました。あの灼熱地獄がまるで嘘のような、通常の涼しい夏に戻っています。「異常気象」を肌で感じるこの頃です。
さて前置きが長くなりましたが、本来なら程よい気温(寒くないけれど、適度に涼しい)なのに晴れていて、サラっと爽やな夏が身上のロンドン。公園でのピクニックや自宅の庭でのバーベキュー・パーティーが盛んに行われる時期です。
我が家は(何度も書いていて恐縮ですが)庭もベランダもございません(涙)。庭やバルコニーのある友人宅に伺うたびに「夏の夕暮れ時を気持ちよく過ごせるなんて、いいなあ…」と憧れを募らせているのですが、先日、毎年楽しみにしているガーデン・パーティーに行ってきました。10年来の友人、ジョーの54歳のバースデー・パーティーです。
ロンドンの高級住宅街ケンジントンにある大きな牧師館。ジョーは教会の仕事をしており、教会の敷地内にある大きな牧師館で牧師や友人たちとハウスシェアをしています。教会も牧師館もイングランド国教会の所有なので、主任牧師やジョー達住人持ち家ではありません。でもこんな一等地に住めるなんて羨ましい限りです。
ケンジントンにも東西南北があり、サウスがもっともポッシュ(お高級)です。ここはウェストなので、ケンジントンの中ではまあまあ地味目なたたずまい。とはいえ、2寝室のマンションでも1億5000万円以下はほぼないようなエリアです。
初めてジョーのパーティーに呼ばれたのは彼が50歳になった4年前。イギリスでは40歳、50歳といった節目の年に盛大にバーティ―を行う習慣があります。またバースデー・パーティーは誰かに発案してもらうものではなく、自分が発起人となって友人たちを招きます。
ここでちょこっと余談ですが、イギリスには自分の誕生日に職場にお菓子を持って行って「今日は私の誕生日だから、皆さん食べてね~」とケーキやドーナツ、スイーツ等をふるまう習慣があります。「今年も無事誕生日をハッピーに迎えました! ありがとう」と意味を込めて、ケーキ等を自分で持ち込み、空いている机やテーブル等に置いて勝手にとってもらう、というスタイルです。私も数年前まで会社員だったので、毎月1回ペースで誕生日ケーキを食べていました。旦那のヒトは「うちの会社の人たちは、ドーナツ持ち込みパターンが多いよ」とよく言っています(ということは、よく食べているってこと…です!? ダイエット中なのに…w)。
「Krispy Kream」のドーナツは持ち込みバースディスイーツの定番。大手スーパーで手軽に大きなパックを購入でき、値段もお手頃です。
閑話休題。ジョーのバースデー・パーティーに話を戻しますが、私がこのパーティーを毎年心待ちにしている理由はいくつかあります。1つ目は(これはひとえにジョーの優しい人柄がなせるわざなのですが)、ガイジンの私が1人で参加しても皆が代わる代わる構ってくれるので、決して孤独になることなく楽しく過ごせることです。
こちらがバースディー・ボーイのジョー。猫好きです。
ジョーのパーティーに初参加した4年前の写真です。50歳のお祝いだったので、庭にテントを2つも張り、バルーン等の装飾も行った盛大なパーティーでした。ボケボケ写真でごめんなさい。
実はワタクシ、パーティー大の苦手です。知り合いだけで行う「飲み会」であれば気楽ですが、不特定多数の人がくるパーティーの場合、年齢も職業もバックグラウンドもバラバラな上、イギリス人や非日本人主催の場合は言葉の壁もあります。生活するうえで英語に困ることはあまりないものの、フランクな会話が1番難しく、過去の時事ネタや皮肉&ジョークを交えた言い回し等が会話にバシバシ入ってしまった日には完全にお手上げ。身の置き所がなくなります(涙)。
パーティー文化のあるイギリスに暮らすうえでこうした社交術はそこそこ大事なことです。しかしワタクシは何年いても克服できず、ストレス回避のためにこの手の「不特定多数系パーティー」はよほどのことがない限り行かなくなりました。そんなワタクシでも安心して楽しめるのがジョーのパーティー。毎年「ありがたいなあ」と涙ぐむ思いで参加していまますが、彼と彼の友人たちからホスピタリティの極意を学んでいます。
2つ目は、程よい広さの素敵なガーデンです。この家のガーデナーでもあるジョーが丹精こめて手入れした宝物のような庭。数種類のバラやユリ等、数十種類の花々が咲き乱れています。
パーティーは裏庭で行われましたが、道路に面した前庭も素敵です。
紫のベルの花やパンジーが美しく咲いています。
家の壁面に真っ赤な蔓バラがアクセント。この家には3匹の太っちょ猫が暮らしていますが、もっともおデブちゃんの1匹が手前右に写っています。パンジーの近くの土の上がお気に入りなんだそう。
かっちり切りそろえられた由緒正しき庭園とは異なり、草花が自由に枝を伸ばしているナチュラル・ガーデン。でも手が掛かっていないわけではなく、これだけ花を咲かせるには日々のガーデニングが必須です。
気持ちの良い庭でワインやビールを片手に夏の夕べを楽しむ―― まさに至福のひとときです。夏嫌いの私も、イギリスの爽やかな夏の夕方はいいものだなと思います。
左手前にいる、全身ピンクの男性が牧師のロジャーさんです。
庭の奥には温室も。ここにはサボテン等の多肉植物が並んでいます。
夕方6時半から始まったパーティー。メインはバーベキューです。
ソーセージは市販のものですが、ハンバーグも串焼き(マリネした鶏肉と薄切りズッキーニ)も手作りです。
「焼き」担当は、毎年フィルの役割。彼は昨年10月の記事「これが英国レベルのDIY!2人で作りあげた『スイート・ホーム』」で自宅を見せてくれた人です。
「庭付きの家に住んでいる人は大抵バーベキューセットを持っている」と言って良いほど、イギリス人はバーベキューが大好き。9時を過ぎてもまだ明るい夏の夜を、できるだけ長く野外で楽しむための必需品です。
まずは長い夜に備えて腹ごしらえ。
パーティーにはバーベキュー以外にも手作りのワカモレやコールスローサラダ、プルドポーク(豚肉をほろほろと身が崩れる程度までオーブンで焼き、バーベキューソースで味付けたもの。ハンバーガーと同じように、パンにはさんで食べます)等いろいろありました。
右のお肉がプルドポーク(Pulled Pork)。この状態まで肉がほどけるためにはオーブンで5時間以上焼く必要があります。粗野な見かけの料理ですが、ものすごく手が掛かっています。それだけにとても美味しいです。
今回私が1番美味しかったと思ったのは、手のひらほどもある大きな「ポートベロー・マッシュルーム」のホイル焼き。ガーリック、パセリをたっぷり詰め、オリーブオイルと塩コショウをたっぷりかけてホイルに包み、火にかけて蒸し焼きします。塩をきつめにするとお酒によく合います。
お腹がいっぱいになってしばしおしゃべりに興じていると…
牧師のロジャーさん手作りのプディングがどーんと登場!
日が陰りだした時間の室内の画像なので、暗くてごめんなさい。 左からアプリコット、レモン、イチゴのプディング。上に乗ったアプリコットのコンポート、レモンのペースト、下に敷かれたイチゴソースも手作りです。
プディングとは小麦粉や卵、ミルクを使った料理全般を指す場合もありますが、ほとんどの場合デザートを指す言葉です。レストランのメニューに「プディング」とあると、「こんなにプリンがあるの?」と思う日本人は多いのですが(私も最初はそう思いました)、そうではないのです。
果物を使ったサマープディングは皆、大好物。どんなにお腹がいっぱいでも、甘党が多数派のイギリス人たちはデザートに飛びつきます。今回20人ほどの人がいたのですが、3つの大きなプディングが20分ほどで消え去りました。早かった…。
食事が終わると皆様本格的に「飲みモード」に入ったのですが、私はジョーに家の中を見せてもらいました。
この家が建てられたのがいつなのか?については定かではないものの、レンガの感じから100年以内の様子。古い建物が多いイギリスとしては比較的新しめの家です。しかし内装は昔からあまり変わっておらず、特に建てられた当初からずっと現役のストーブは、何度見てもアンティーク好きの心をくすぐります。
キッチンにあるストーブ。現在は別にガスレンジもありますが、昔はこのストーブの上に鍋をかけて煮炊きしていたそう。今も冬にはここで火をおこし、煮込み料理はこのストーブで行います。
古いキッチン道具も現役。小さな重り(ウェイト)を使う天秤型のはかり。後ろの古い瓶には、庭でとれた果物で作った果実酒が入っています。古道具を飾るのなく、しっかり日々の生活で使いながら暮らしています。
玄関前のキャビネットには、ヴィクトリア女王とアルバート公の顔が描かれたマグカップやお皿がたくさん飾られていました。牧師のロジャーさんの趣味だとか。ロイヤル関係の記念プレートやマグはコレクターズアイテムですが、V&A(ヴィクトリア&アルバートの略)は特に人気。高齢の方の家に行くと、こうしたディスプレーをたまに見かけます。
手前に置かれたカードは皆が持参したジョーへのバースディー・カードです。
古いイギリス刺繍を額装したもの。これはクラフト好きのジョーの好みだそう。教会では定期的に刺繍クラブが開催され、近隣のおばあちゃんたちが訪れるそうですが、ジョーもたまに参加してチクチク刺繍をしています。
牧師館の隣に立つ教会の中も見せてもらいました。
いわゆる教会とイメージとは違って「えっ?イギリスの教会ってこんな感じなの?」と思われたかもしれません。イギリスの教会は古いものが多いので、もっと装飾的でクラシカルな印象の建築が多いですが、ここは1960年ごろに建てられたため簡素なほどシンプルな内装です。
夜だったので暗いですが、ジョーによると「昼間は左右上部の窓からから光が降り注ぎ、ひだまりあふれる空間なんだよ」とのこと。彼はこのシンプルな祈りの場がとても気に入っています。
ゆらゆらと気持ちよさそうに揺れる草花が少しずつかげり、すっかり暗くなってもパーティーは続きました。皆、終電ギリギリまで残っておしゃべりし、最後は名残惜しそうに牧師館を後にしました。
実はこのガーデンで行うサマー・パーティーはこれが最後なのです。現在のこの教会で主任牧師を務めるロジャーさんは来年初頭に定年を迎えます(イギリスの企業に定年制はありませんが、イングランド国教会には定年があります)。牧師が引退すると新しい牧師が来て新体制となるため、全員が牧師館から引っ越ししなくてはなりません。
来年ジョーがどこに住んでいるか分かりませんが、きっと庭仕事ができる可愛らしいお家を見つけるはずです。「来年、またパーティーに呼んでね! どこに引っ越しても行くからね~」と皆口々に言いながらお開きとなりました。何だかちょっと泣きたいようなセンチメンタルな気持ちになりました。
この原稿を書いている現在の気温はなんと19度(ちなみに時間は昼過ぎです)。酷暑日がほんの数日前だったとは信じられない涼しさです。異常気象ゆえ先の天候が読めませんが、夏が終わるまでにあと何回ガーデン・パーティ―をしたくなるような「程よい夏日」があるのか、またイギリス中が混乱するほどの熱波がやってくるのか、誰も分かりません。
猛暑日に何とか冷をとりたくてエスプレッソでシャーベットを作りました。クーラーのない家の中はサウナ状態。冷たいシャーベットは格別に美味しかったです。
とはいえイギリスの夏は短いので、あと1カ月もすると秋の風が吹き始めるはずです。
日本は毎日猛暑が続いていると思います。どうかご自愛ください。
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