庭もベランダもないけれど

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

皆さまこんにちは。日本と異なり、イギリスでは6月がもっとも降雨量が少ない月です。爽やか快晴の日が多く、気持ちの良い季節を迎えているロンドンです。

ロンドン南西部、リッチモンド地区の丘の上からの眺め。カメラの背後にはパブがあるので、飲み物を買って、景色を眺めながらのんびりしてきました。パブの並びの豪華フラットに、昔ミック・ジャガーが住んでいたそうです。ミック様はこの絶景を毎日を眺めて暮らしていたんですねえ…贅沢です。

「ロンドン・クラフト・ウィーク」に行ってきました。

今回はまず先月(5月)開催された「ロンドン・クラフト・ウィーク」のご報告から。ここ数年「クラフト(職人技・手仕事)」が注目されているのは世界的な傾向ですが、毎年5月にロンドンのミュージアムやギャラリー、インテリアショップ、デパート等を舞台に、クラフトにまつわるさまざまなイベントが開催されています。

London Craft Weekさん(@londoncraftweek)がシェアした投稿

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ロンドンでは年間を通じてデザインやアート関係のイベントが開催されているのですが、「ロンドン・クラフト・ウィーク」は年々規模を拡大している勢いのあるイベントです。インテリア関係の展示も本当に多く、今年も普段は見ることができない作業場が公開されたり、その道の第一人者のレクチャーやワークショップが開催されました。

オーガニック食材や日用雑貨の販売に加えカフェも併設されている大好きなお店「Daylesford Organic」で開催された、押し花製作ワークショップとアンティークの押し花作品の展示。

今回はあまりたくさんのイベントに行けなかったのですが、著名なインテリア・デザイナー&デコレーターであるRobert Kime氏のショールームで開催されたトークイベントに、友人と行ってきました。

トルコ製のファブリックやイタリアやエジプトで探すアンティーク家具への思いを語るKime氏(右)と聞き手の「Mr Porter」のディレクターJeremy Langmead氏(左)。インテリアを手掛けるとき、「クライアントの住まいを訪れるのが1番のヒント。愛用している家具やライフスタイルを見ることで、アイデアが湧きます」と語っていたのが印象的でした。

高級インテリア・ショップが軒を連ねるストリートにあるこのショールームは、高価なファブリックやアンティーク家具で埋め尽くされています。Kime氏にインテリアをお願いすることは一生涯なさそうですが(笑)、美しいファブリック類を直接見て、触れることができる素晴らしい機会でした。敷居が高すぎるお店なので友人に誘ってもらって本当に良かった…(1人じゃ絶対行けません)。

トークの前にガーデンでジントニックが振るまわれました。雨ざらしで置かれている寂れ感のある壺が100万円(!)とか、別世界…。

トルコ製タイルのディスプレー。買えませんが、似たものには出会えるかも(!?)。なのでじっくり見てきました。

ワークショップは有料のものもありますが、このKime氏のトーク同様、無料のイベントもたくさんあります。「来年こそはじっくり時間を取って、たくさんの展示やイベントを周りたい」と毎年思っているのになかなか実現しないのですが、またしても懲りずに「来年こそは!」と力強く思いつつ会場を後にしました。


Kime氏のショールームの小さなお庭もステキでしたが、今回はワタクシの中でふつふつと沸騰中の「植物への愛」と「愛するがゆえのジレンマ」について書きたいと思います。

庭なし、ベランダなし。でも憧れる「緑とのくらし」

最近、美しい緑や花々を見ていると、「いつから私、こんなに植物が好きになったのだろう?」と思います。田舎育ちなので、緑は子どものころから身近でした。でも身近過ぎたからなのか、若い頃はさして興味がなかったように記憶しています。でも「人は変わるもの」ということなのか、誰かが「歳をとると、緑と話ができるようになる」と言っていたので加齢によるものなのか? ここ数年「緑のあるくらし」にひたすら憧れるようになりました。

「イギリス」と聞くと「ガーデニング」という言葉が頭に浮かぶ方も多いかもしれません。たしかにイギリスは「庭の国」です。皆さん自宅の庭をせっせと手入れしているので、暖かい季節になると週末のガーデンセンターは大変込み合います。またゴールデンタイムに園芸番組を放送している…そんなお国柄です。

塀からこぼれるバラ。良い香り。この時期は歩いているだけで、よそ様の庭からの“おこぼれ”を頂戴できます。

2人以上集まると「家関係の話」の話で盛り上がるのがイギリスですが、苦労話が多い家の話に比べ、庭の話は何だかとっても楽しそうに聞こえます。男性も女性も庭いじりが大好きです。おススメのガーデングッズ、コンポストの作り方まで、嬉々としながらパブでの飲みネタにしているのを聞きつづけて10数年、先日も友人男性3人が「庭に植えたイチゴを根付かせる方法」についてディープなトークを繰り広げる場面に出くわしました。そんな国に長年いるせいなのか、次第に「そんなにいいものなのか~、緑!」と思うようになり、以来「緑トーク」にも積極的に割り込むレベルで思いが募っています。

おじさま2人がガーデンセンターでうひゃうひゃ楽しそうに物色中

…が、しかし。実は我が家は庭もベランダもないのです。

家を購入しようと物件巡りを真剣にしていた当時、すでに「緑への憧れ」は「芽生え」たどころか成長しすぎ、脳内妄想草木は「森」レベルになっていました。ですので「庭付きを買うか?」については大懸案事項だったのでが…。「面倒くさがり」については自信がありすぎる私と旦那のヒト。「はたして、夏の『芝刈り』を私たちがやりとげられるか?」について大いに疑問がありました。

イギリスの場合「庭付き=1軒家」と言うわけではありません。フラット(=マンション等の集合住宅)でも1階であれば庭がついていることもありますし、セミでタッチド(2軒がくっついた、いわゆる「長屋」)も含め、庭付きの家も内覧しました。しかし庭付きになると駅近物件が減り、庭付き駅近は手が届かず。そんな事情もあり、「せめてベランダ付き」を目指して探すことに。

しかしいろいろ(←本当にいろいろ…少しずつお話します)あった後、結局は「庭なし」「ベランダなし」の今の家に行きついたのです。

実はベランダ、窓の外には広くて立派なものがあるのです。しかしこのベランダは1階の店舗(レストラン)に帰属するため、住人は「使用不可」。なのでウチは「ベランダなし物件」として販売されていました。毎朝窓をあけるたびに、だだっ広いのに手出しできないベランダが目に入り、「ベランダ―」になれなかった悲しみに暮れています。

ない」となるとさらにほしくなるのが欲深い人間の性(さが)。今の家に引っ越してから、「緑への恋心」が加速し、「密林」レベルに増大してしまいました。おしゃれなことで有名な“意識高い系”ガーデンセンター「Petersham Nurseries」が割と家から行きやすい場所にあることも「緑への恋心」に拍車をかけたような気がします。今や友人の家に出向いては庭仕事を手伝う「押しかけ庭師」までするようになり、「片思い」はもはや常軌を逸した状態に。

そんなとき「アーバンガーデン」という言葉を知り、ハッとしました。

「箱庭リビング」を目指して

ある新聞記事の著者紹介欄に「趣味:アーバンガーデン。庭もベランダもないので、居間や仕事机周りだけで楽しめるグリーンや花、ドライフラワーを楽しんでいます」と書いてあったのです。

灯台もと暗し。なぜ室内で楽しめる観葉植物や花屋さんで買える「」に目を向けなかったんだろう…。私、「ハナコ」なのに!

「アーバンガーデン」というと何だかカッコよすぎて笑ってしまうので我が家では「箱庭リビング」と呼んでますが、以来、室内で楽しめる程度の緑を工夫するようになりました。少しずつですが小さな鉢植えを増やし、切り花、特にドライフラワーに適した花を買っています。鉢植えは「園芸初心者」に相応しく、世話が簡単なもの、水はけの良さをあまり気にしなくて良いもの、たっぷり水さえあげればそれでいいもの等が中心。そして最近は「料理に使えるもの」も増やしています。

肉料理に必ず使うローズマリー。最近は化粧水にも入れています。良い香りです。水をやりすぎないほうがよいらしいので、その辺の加減が難しいです。

こちらも料理に使える「月桂樹」。何にもしなくてもグングン育ってくれる有能君です。カレーを作るたびに「箱庭農園」から収穫するのが、小さな楽しみ。

「ドライフラワー+インテリア」のお手本はこちらのパブ「Duke of Cambridge」の壁面です。

ロンドンの「Angel」という地区にあるオーガニック素材を使ったとても美味しいガストロパブ(=食事も出すパブ)なのですが、壁に貼られた針金に「ドサッ」「ワサッ」っとひっかけられたドライフラワーを見て感化されました。

今後、もう少し種類や量を増やしてボリューム感を出したいなあと思っているところです。ドライフラワーにもトレンドがありますが、ここ数年ユーカリが流行っているのは日本もロンドンも同じです。

私は出張や一時帰国などで家を留守することも多いので、水やりが必要な植木の量はほどほどに。小さなテーブルとベンチ1個に収まる程度、鉢の数は10個ぐらいまでを念頭に小さくグリーンを育てられたらと思っています。

最近我が家にやってきたコケイラクサ。湿度が必要らしいのですが、居間でも頑張ってくれています。暇さえあれば水スプレーしており、溢れる愛をかけすぎるあまり愛想つかされて枯れたり腐ったりしないか心配です。

庭もベランダもないから「ガーデナー」にも「ベランダ―」にもなれません。でも「ハコニワー」にはなれるかもしれない―― そんな風に思いながら、日々成長する緑の可愛さ、そしてほのかに漂う青い香りに癒されています。

小さな我が家の「箱庭ガーデン」、ゆっくりゆっくり拡大中です。