環境保護や社会支援を行っている団体、あるいは芸術支援団体などに、寄付をしたことはあるだろうか?
「収入が少なく寄付する余裕はない」と思う人もいるかもしれないが、100円のコーヒーを1週間に1日だけ我慢すれば、1年で5,200円になる。年間5,000円の程度の寄付なら、無理なくできるという人も多いだろう。
寄付をした場合、一定の条件を満たすと、節税につなげることができる。ここでは、「寄附金控除」という控除制度を利用して所得税や住民税を減らす方法や、控除の対象になる寄付の種類などについて紹介する。
日本の税金は、収入から各種控除を引いた後の「課税所得額」をもとに計算される。よく、「年収が高いほど税金も高い」といわれるが、これは正確ではない。たとえ年収が同じでも、控除額が大きければ、それだけ課税所得額が低くなり、税金も少なくなる。
所得から差し引ける控除を「所得控除」と呼ぶが、このほかに、税金を計算した後で直接控除できる「税額控除」もある。所得控除には「配偶者控除」「扶養控除」「社会保険料控除」などさまざまな種類があり、「寄附金控除」もこのひとつだ。
寄附金控除とは、一定の団体に対して寄付を行った場合に利用できる控除制度のこと。確定申告をすることで、納めた所得税の還付や、翌年に納税する住民税の減額といったメリットを受けられる可能性がある。
後程詳しく説明するが、寄附金控除は一定の条件を満たすことで税額控除することもできる。
寄付をしたからといって、必ずしもすべてが寄附金控除の対象になるわけではない。ここでは、寄付の例を挙げて、寄附金控除の対象になるかどうかを見ていこう。
なお、寄附金控除の対象になる団体への寄付については、寄付の受付先などが書かれたパンフレットやウェブサイトに「寄附金控除の対象になります」といった案内が書かれている場合が多い。寄付をする前に確認しておこう。
認定NPO法人への寄付は、寄附金控除の対象になる。ただし、「現金をNPO法人の窓口に置いてきた」というような場合、寄付をしたという証明ができないため、控除を受けられない。
寄附金控除を利用したい場合は、寄付を希望する団体のウェブサイトなどを確認して、領収書等の発行がいつ頃になるのかをチェックしておくと安心だ。
国公立大学に対する寄付も、寄附金控除の対象になる。なお、この場合も、控除を受けるためには領収書等が必要になる。
芸術団体等への寄付が控除の対象になるかどうかは、寄付をした団体によって変わってくる。
対象になるか知りたい場合は、該当の団体が出しているパンフレットやウェブサイトなどを確認してみよう。わからないときは、団体の窓口に問い合わせをすれば答えてもらえるはずだ。
被災地への寄付は、寄附金控除の対象になる場合が多い。ただし、直接自治体に寄付するのではなく、一個人や団体を通して寄付する場合、対象にならないこともある。
募金箱への募金は、寄付の一種ではあるものの、領収書が発行されないため、宛先にかかわらず寄附金控除の対象にはならない。神社仏閣への賽銭なども同様だ。
クラウドファンディングとは、インターネットを介して、不特定多数の人から少額ずつ資金を調達する仕組みのこと。クラウドファンディングでの寄付については、寄附金控除の対象になる場合とならない場合がある。
一般的な商業団体(株式会社や有限会社、街の飲食店、小売店など)に寄付や出資をした場合は、基本的に寄附金控除の対象にはならない可能性が高いだろう。しかし、NPO法人や自治体などが行っているクラウドファンディングの場合は、対象になる可能性がある。
クラウドファンディングの申請ページや、団体のウェブサイトを確認してみよう。
地方自治体に対して寄付をするふるさと納税は、寄附金控除の対象のひとつだ。ふるさと納税の場合は、控除額の計算がほかの寄付とは異なり、より節税効果が高くなる。
寄附金控除には、所得控除が適用される「寄附金控除」と、税額控除が適用される「寄附金特別控除」の2種類があり、それぞれ計算方法が異なる。
国立大学などに寄付した場合は寄附金控除となるが、政党や政治資金団体、認定NPO法人、一定の要件を満たす公益社団(財団)法人等への寄付をした場合は、どちらの方法で控除を受けるか選択することができる。
寄附金控除の計算式は、下記のとおりだ。所得税や住民税の計算をする際、ベースとなる収入額から寄附金控除額を差し引くことができる。
<寄附金控除の計算式>
寄附金控除額=年間の寄付金の合計額-2,000円
税金を計算した後、算出された税額から直接差し引ける控除を税額控除と呼ぶ。
寄附金特別控除の計算方法は、寄付をした先によって変わる。公益社団法人等への寄付も、認定NPO法人への寄付と同じように計算する。
<政党への寄付>
寄附金特別控除額=(年間の政党等への年間の寄付金の合計額-2,000円)×30%
<認定NPO法人等への寄付>
寄附金特別控除額=(年間の認定NPO法人等への寄付金の合計額-2,000円)×40%
所得控除と税額控除のどちらがより節税になるかは、収入額などの状況によって変わる。しかし、基本的には、税額控除を選択したほうが節税になる可能性が高い。
「年収300万円の人が認定NPO法人に1万円寄付した場合」を例に見てみよう。
<所得控除の場合>
1万円-2,000円=8,000円
年収300万円の人の所得税率は、多くの場合5%であるため、8,000円×5%=400円が節税できる所得税額となる。
<税額控除の場合>
(1万円-2,000円)×40%=3,200円
税額控除の場合、この3,200円がそのまま節税できる所得税額となる。
所得控除を利用した場合も、税額控除を利用した場合も、還付されるのはあくまでも寄付した金額の一部のみで、支払った金額以上が戻ってくるわけではない。「寄附金控除を利用して寄付をすることで、節約ができる」とはいえないだろう。
とはいえ、せっかく寄付するのであれば、寄附金控除を利用して節税につなげたい。自分が応援したいNPO団体や自治体などを支援して、社会貢献をしつつ節税もできる点が、寄附金控除のメリットだ。
なお、ふるさと納税の場合、寄付した金額から2,000円をマイナスした全額が、寄附金控除の対象になる。一時的に寄付金額を全額支払うが、後々、税金の控除や還付として「1年間のふるさと納税の総額-2,000円」を返還してもらえ、返礼品を受け取ることができるお得な制度だ。
寄附金控除は、会社で行う年末調整で申告することはできない。寄付をしたときの領収書と、会社で発行される源泉徴収票を用意して、確定申告を行おう。
なお、確定申告書類は、国税庁が用意している「確定申告書等作成コーナー」というページにアクセスすれば、スマートフォンからでも簡単に作成できる。そのまま電子申告をしたり、作成した書類を印刷して提出したりすることもできるため、活用してみよう。
ふるさと納税の控除を希望する場合は、確定申告をするか、確定申告をせずとも寄附金控除を受けられる「ワンストップ特例制度」を利用して手続きを行う必要がある。
確定申告が「必要な人」「不要な人」「したほうが得な人」の見分け方
日本は、アメリカやイギリスに比べて、個人の寄付金額が低い傾向があるといわれている。寄付に特別なイメージを抱いている人もいるかもしれないが、寄付に限らず「良いことをする」のは、自分にとってもプラスになることだ。
1年間の寄付の一部が還付されるのは、ちょっとした楽しみにもなる。収入の1%など、無理のない範囲で寄付を始めてみてはいかがだろうか。
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