日本には、国民皆保険制度があるため、原則としてすべての国民が何らかの医療保険に加入することになっている。この場合の医療保険とは、国民健康保険や、勤務先で加入する健康保険組合の保険を指す。
一方、医療保険には、こうした公的保険のほかに、民間の医療保険もある。全員が公的健康保険に加入しているのにもかかわらず、さらに民間の医療保険に加入するメリットはどこにあるのだろうか。公的保険を意識した上で、民間の医療保険の特徴と選び方について考えてみよう。
保険には、いわゆる生命保険などが該当する第一分野の保険と、自動車保険などの損害保険が該当する第二分野の保険がある。この2つの保険はまったく種類の異なるもので、取り扱う会社もそれぞれ生命保険会社と損害保険会社に分かれている。一方、医療保険は、第三分野の保険と呼ばれ、生命保険会社と損害保険会社の両方が取り扱うことができる保険である。
そもそも保険とは、加入者全員がお金を出し合うことで、万が一の事態に備えるもの。生命保険は人の命を保障し、損害保険は物品の損害に備えるものに対し、医療保険は、病気やケガの金銭的リスクに備える。具体的な給付内容は保険によって異なるが、多くの場合、入院した際や手術をした際に保険金を受け取ることができる。
医療保険を選ぶときに着目すべきポイントは、「どのようなときに」「いつまで」「いくら」保険金を受け取れるのかということだ。具体的に保険商品を選定する際にチェックしたいポイントについてまとめた。
医療保険の給付金にはいくつかの種類がある。よく見られる給付金は、次の3点が挙げられる。
・入院給付金
入院した日数に応じて、入院給付金が支給される。ほとんどの医療保険に含まれる保障で、1日あたりいくら支給されるのかを「入院給付金日額」と呼ぶ。日額は、あらかじめ決まっている場合もあるが、自分自身でいくつかの選択肢の中から選べるケースも少なくない。
例えば、入院後1日目から入院給付金が支給され、日額が5,000円の医療保険に加入している人が3日間入院した場合は、15,000円の保険金が支給されることになる。
ただし、医療保険の中には、入院後、一定の日数を経過した後でないと入院給付金が支給されない保険もある。
・手術給付金
保険会社が定める特定の手術を受けた場合に、手術給付金を受け取れる。レーシック手術や軽微な日帰り手術などの場合、該当しないケースもある。
・診断給付金
がんや心臓病など、特定の病気だと診断された時点で給付金が支給されるのが診断給付金である。入院給付金や手術給付金が、実際に入院や手術を終えた後に給付されるのに対し、診断給付金は診断された段階で保険金を受け取ることができるため、治療の準備にかかるお金にも備えることができるメリットがある。
入院給付金は、無制限に受け取れるものではなく、多くの場合、1入院あたりの支払日数の制限がついている。
例えば、1入院あたりの支払限度日数が60日であった場合、同一の病気やケガを原因とする入院が60日を超えた場合、入院給付金が受け取れなくなる。また、同一の病気やケガが原因で入院した後、一定の期間(ほとんどが180日以内)に同一の理由で再入院した場合は日数が通算される。一方、原因が異なる入院の場合や、規定の期間を超えてから同一の理由で入院した場合は、新たな入院とみなされる。
また、1入院あたりの支払限度日数とは別に、通算支払限度日数についても確認しておく必要がある。通算支払限度日数とは、生涯を通しての入院給付の限度となる日数である。ただし、多くの場合、730日や1,000日など、かなり長期に設定されているため、過度に心配する必要はない。
多くの医療保険では、給付に対して条件が定められている。
例えば、「予防のための入院や、検査のための入院は支給対象外」という給付条件が定められている医療保険の場合、手術前の検査入院は給付の対象にならない可能性がある。また、加入後一定期間に判明した病気に関しては給付を行わないという場合もある。医療保険への加入を検討する際は、保険料や給付額だけでなく、細かい給付条件についても確認しておきたい。
医療保険の保険期間には、定期保険と終身保険の2種類がある。
・定期保険
定期保険は、一定の期間だけを保障する保険で、期間が終了する度に更新を行い、保険料が変動する。原則として、保険料は年齢が上がるとともに上昇するため、若年のあいだは掛金が抑えられるが、年齢が高くなると掛金が高額になったり、加入できなくなったりという問題が起こる。
反面、定期的に更新が行われるため、保険の見直しタイミングを計りやすく、ライフステージに合わせた保険を選択しやすいというメリットもある。
・終身保険
終身保険は、生涯保障が続き、掛金も変わらない保険だ。若いうちは、定期保険に比べて掛金が高額になるが、年を重ねた後の保険料の負担は抑えられる。ただし、加入後に解約した場合の金銭的ロスが大きいため、時代とともに変化する医療現場に適応した保険への切り替えはしにくい。
また、終身保険の中にも、一定の時期で保険料の支払いが終了し、以降は保障だけが続く払済保険と、保険料の納付が生涯続くタイプの2種類がある。
ここまで民間の医療保険を紹介してきたが、実際に病気やケガで入院することになった場合には、もちろん公的保険も利用できる。公的保険とは、国民健康保険や、会社員が加入する健康保険組合の保険のことである。
・高額療養費制度
病気やケガで入院した際に、公的な健康保険から受けられる保障に「高額療養費制度」がある。これは、ひと月に支払った医療費が一定額を超えた場合に、その金額が払い戻される制度である(事前に手続きを行えば、最初から一定額以上の医療費を支払わないことも可能)。
具体的にどのくらいの金額を超えた場合に保障が受けられるのかは、それぞれの人の標準報酬月額(社会保険料の計算に利用される金額)によって異なる。
例えば年収500万円程度の人であれば、医療費の自己負担額が「月額80,100円+(総医療費-26万7,000円)×1%」を超えた場合、超えた金額について自己負担の必要がなくなる。また、高額療養費の対象となる月からさかのぼって1年以内に、3ヵ月以上高額療養費制度を利用している場合、さらに負担額が軽減され、4ヵ月目からは上限が月額44,400円となる。
・傷病手当金
会社員の場合は、「傷病手当金」を利用することができる。これは、病気やケガなどが原因で4日以上会社を休んだ際に、給与額の3分の2が支給されるという制度だ。1年半を限度に受け取ることができるため、療養中の生活基盤を支えることができる。ただし、この制度は国民健康保険にはない。
・障害年金制度
健康保険ではなく年金の保障として、「障害年金制度」がある。これは、病気やケガによって障害を負った場合に受け取れる年金で、規定の障害等級に該当する状態である場合に、期間の定めなく受け取れる。
以上のように、病気やケガで医療費がかかった場合や働けなくなった場合には、さまざまな公的なセーフティネットを利用することができる。
民間の医療保険の保障内容を検討する際は、公的保険制度を理解した上で、カバーしきれない部分をフォローするために必要な保障について考える必要がある。
公的な保険や年金である程度のカバーができるとはいえ、入院に必要な物品の購入費、家族が見舞いに来るための費用などは自己負担となる。
医療保険に加入しておくことで、こうした幅広い支出への対応が可能になるだろう。病気やケガに対する金銭的な不安を軽減させるために必要な保障がいくらなのか、改めて考えてみよう。
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