小林夕子
オーストラリア・メルボルン在住会社員。アメリカと日本で幼少期を過ごした後、日本では映像関連会社に勤務。現在はメルボルンで通訳・翻訳業務に従事している。余暇の楽しみは映画館、美術館、図書館、マーケット巡り。
本格的な冬に突入したメルボルンからお届けしております、皆さんいかがお過ごしですか?
この時期になると、メルボルンの街中ではクリスマスツリーやライトアップされた光景をよく目にします。「この時期になぜ!?」と思われるかもしれませんが、「南半球のオーストラリアだって真冬にクリスマス気分を味わいたい!」という声から始まったとか。
そこで、「Christmas in July(7月にクリスマス)」と称した、さまざまなイベントが開催されます。メルボルンを含むヴィクトリア州では、6月中旬から9月下旬までの約4ヵ月間は「祝日ゼロ」という、勤め人にとってはちょっぴりテンションが下がる時期。お祭り好きなメルバーニアン(メルボルン人)には、盛り上がるためのちょうどいい口実なのかもしれません。
南半球最大規模の複合商業施設「クラウン・エンターテインメント・コンプレックス」に立ち寄った際、開催されていたChristmas in Julyイベント。
さらに、7月はオーストラリアの会計年度(会計年度は7月1日〜6月30日)のスタートということもあり、1月と並んでメルボルンで最も物件を探しやすいと言われる時期。ここ数週間、近所でよく引越しトラックを見かけます。
荷物が少ない一人暮らしやカップル向きの引越し業者「Man With A Van」。私も数年前に引越しをしたときに利用しましたが、オージーの若いお兄さん二人が来て、手際良く作業してくれました。
かくいう私も「引っ越したい!」と周囲に漏らし始めてから早1年。今住んでいるアパートメントの立地は抜群、それなりに居心地もいいのですが、やはりベランダとガスコンロが恋しい…(現在はIHクッキングヒーター)。何よりも(少々おおげさですが)人生で初めて、自分の「家」が欲しい!買いたい!という欲求が芽生えたのです!
では、なぜここにきて賃貸ではなく、不動産を購入したいと思うように至ったのか?それは、これまで十数年、メルボルンで賃貸暮らしをする中で、オーストラリアにおける「家主」の圧倒的な立場の強さを、まざまざと見せつけられたからです。
賃貸契約には、何ページにもわたって「家主の<権利>と借主の<責任>」がびっしり。例えば「家主」は「借主」に対して28日前までであれば立ち退きを言い渡すことができるなど、「家主 > 借主」という力関係が一目瞭然。引越しのたびに不平等条約にサインさせられているようで、そろそろ気が滅入ってきたというのが正直なところです。
家主の立場が圧倒的に強いせいか、オーストラリアでは子供がまだ20代前半の学生の場合でも、多少の資金援助をしてでも不動産購入をすすめる親御さんが多いとか。また、オーストラリアでは相続税がないため、親から子へ「家」という資産を継承していく傾向が強いようです。今なお、高級住宅地には手入れの行き届いた古い邸宅(英語ではMansion/マンション)が、建ち並んでいるのはそのせいかもしれません。
ヤラ川沿いに建ち並ぶ高級住宅街。多くの家はプライベートのヨット係留所を持っています。
少し見えづらいですが、写真中央の壁と柱がむき出しになっている一画は更地。この空き地にこれから豪邸が建つのでしょうね。
また、初めての不動産購入者を対象に税控除制度を導入するなど(First home buyers grant)、連邦政府も購入をバックアップ。ちなみに、この制度はオーストラリア国籍の人はもちろん、私のような永住権保持者も対象としているあたり、さすが移民大国オーストラリアと感心します。
このようなことから、「家を買いたい」と思い始めたものの、これまで賃貸物件にしか住んだ経験のない私にとって、不動産購入は未知の世界。何から手をつければいいのかまったく検討がつきません。そこで、先日近所に引越してきた友人宅の片付けを手伝いながら、「(不動産購入に)行き詰まっているんだよね〜」と相談を持ちかけたところ、「まず自分の予算を知るところからスタートね」と一言。
実はこの友人、メルボルンですでに2つの物件を購入、さらには過去5年で5回の引越しを経験しているツワモノだという事実をすっかり忘れていました。ファイナンシャル・プランナーとして働く彼女は、いくつかのプラクティカルなアドバイスをくれた上、すぐさまiPhoneを手に取り、知り合いの不動産ブローカー(仲介人)に連絡を取ってくれたのです。持つべきものはデキる女友達ですね!
直近の目標は「早めにブローカーと会って、自分の住宅ローンの借入可能額を知る」こと。不動産購入のスタートラインに立ったばかりの私ですが、こちらについては今後の連載を通じて少しずつアップデートしますね。では、前置きが長くなりましたが、今回はメルボルンの賃貸物件事情について、ご紹介したいと思います。
「空前の住宅バブル」といわれて久しいオーストラリアですが、中でもシドニーとメルボルンの賃貸価格は群を抜いて上昇率が高いのです。都心部に近ければ近いほど高く、郊外に出れば出るほど安い、という構図は日本と変わりません。よって、自分のライフスタイルに合わせて予算を決め、立地の目星をつけて探していくわけですが、これがなかなか一筋縄に行かないのがオーストラリアです…。
予算・場所が決まったら、不動産情報が集約されているウェブサイトから、条件で物件を絞り込んで物件を探すのですが、最初の難関は、「物件の広さが内見するまでわからない」ということ。サイト上には、日本のように平米数の記載がなく、ベッドルームや書斎、トイレ、バスの数、さらにキッチンやリビング、駐車場の有無などの基本条件が明記されているのみで、間取り図が掲載されていればラッキーです。
あとは不動産業者による説明書きと写真が頼りなのですが、これが本当にアテになりません。ガスコンロとあるのにIHだったり、庭と称しているのが1㎡にも満たない猫の額ほどの空間だったり、とにかくいい加減!写真も広角レンズで撮影された部屋は、大抵とっても狭いので要注意です。けれども、そういったことにいちいち目くじらを立てていると身が持ちませんので、細かいことはスルーする、「オージー」になりきることが必要ですね…。
次の難関は「家賃」。実際の家賃は月額払いなのに、サイト上では家賃が1週間ベースで表示されています(例えば$400/週など)。初月は家賃とは別に「Bond」という、日本での敷金に相当する一時金が発生。大体は月額家賃プラスアルファの金額になり、退去時に発生する業者クリーニング代や修理費などがここから引かれて、残りが借主に返金されるシステムです。
また、同じ立地条件でも明らかにほかの物件より2割程度安い物件が検索結果であがってくることがあるのですが、これはオーストラリア政府が低所得者を対象とした特別レート(National Rental Affordability Scheme)による物件のため、私の場合は残念ながら候補から外さなくてはなりません。
これらに注意しながら、自分に合った条件で物件を絞り込んだら、やっと「内見」です。サイト上から気になる物件の内見を予約し、片っ端から足を運ぶわけですが、内見可能な日程の大半が平日の昼間に集中しているため、仕事の合間を縫って行くか、有休を取るしかありません。しかも、不動産業者から突然キャンセルされることは日常茶飯事。現地に着いて、約束の時間になっても担当者が現れないので、連絡を取ってみたら無断でキャンセルされていた…なんてこともしばしばです。オーストラリアの物件探しは何とも効率が悪く、こちらの忍耐力が試されているかのよう。
そんなこんなで内見をし、気に入った物件が見つかったら、やっとサイト上で「申し込み手続き」に進みます。日本と違って、契約時に保証人がいらない代わりに、この申し込み段階でレファレンス・チェック(Reference Check)が必要となります。要は、第三者に「この人は怪しい人じゃありませんよ」と証言してもらうことになるので、信頼できる会社の上司や同僚に依頼します。
あとは賃貸履歴(Rental History)の審査ですが、これは過去によっぽどトラブル(騒音問題、器物破損、家賃滞納など)がない限り通るでしょう。そして晴れて「賃貸契約」を結ぶ段階に進むのですが、通常は1年契約(短期で6ヵ月という場合もあり)という流れが一般的です。
ちなみに、「家主」には年に1回、家賃を値上げする権利があるため、契約更新のたびに家賃が跳ね上がるというのはよく聞く話。私の場合は、今のアパートに住んで5年以上が経ちますが、オーナーさんから家賃値上げの打診があったのはたった1回。しかし、そのときは「家賃滞納は一度もないし、同じ間取りの下の階の部屋は私が払っているのと同じ家賃で今広告が出ているし、部屋は(それなりに)きれいに維持しているし、ご近所トラブルもないから、なんとか据え置きで!」とダメ元で交渉したら、なんと了承してくれたんです!
なかなか引越しに身が入らないのは、「話のわかるオーナーさんと離れたくない」という思いも関係しています。
さらに、賃貸契約書にサインするタイミングでは、「コンディション・レポート」というものを提出しなくてはなりません。これは日本でも入居時に提出するところはあるようですが、契約書と同じくらい「自分の立場を守る」ために重要な書類。契約時点で不動産業者と家主が把握している物件のコンディション(カーペットのシミ、ドアの傷、壁の傷みなど)がみっちり記載されているので、借主は入居前に実際に物件に足を運んで物件の状況を隅々までチェックし、レポートに漏れている「コンディション=欠陥」があれば、それを記録しておく必要があります。
欠陥の詳細をしっかり明記し、証拠写真を添付して提出することが、後々の退去時に揉めないポイント。なぜなら、そのレポートに記載がない場合、経年劣化を除く欠陥のすべてが入居後に発生したものと見なされるからです。そして退去時に、前述のBondからがっぽりと修理費が差し引かれて、手元にまったく残らないどころか追加請求されることも…。
こんな流れを経て、契約成立に至ります。しかし、その後に待ち受けるインフラ整備(電気・ガス・水道・インターネット)という過酷なハードルについては、長くなるのでまた別の機会に…。
ということで今回は、メルボルンでの家探しについてざっくりとご紹介しましたが、ここの住宅事情がどういったものなのか、少しでもイメージいただけましたでしょうか?きっと、私が初めて家を購入するまでにはたくさんの難関とサプライズが待ち受けているはずですが、それも「おもしろエピソード」としてこのコラムでお届けできるよう、マイペースに進めていきたいと思います。
これを書いているまさに今、休暇から戻ったブローカーからメールが…。私の「家を買う」プロジェクト、本格始動です!
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