現代イギリス料理「モダンブリティシュ」とは?

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

※記事内容は2023年1月28日時点の情報によるものです。

12月の怖しい寒波から1カ月。1月後半にまたしても厳しい「冬将軍」がやってきました。

暖かい飲み物なしでは過ごせない日々…。

氷点下の日が続き、知人宅の家では水道管内が凍結→管が破裂してしまいました。毎年冬になるとこの手の話を聞きますが、今年は特に多いな、と感じています。

屋外に設置された水道は、凍結を防ぐためにポタポタ垂らしておくのが良いとされています。そうしていても破裂してしまったケースもあるようです。

春が来るまでもう少しかかりそうですが、ロンドンでは春の訪れを告げる「雪割草」が咲き始めているようです。

冷たくて固い土を「割って」芽を出し花を咲かせる、その名のとおり「雪割草」。

冬が大好きな私ですが、今年はちょっとだけ春の訪れが待ち遠しくもあります。

■イギリス料理のカテゴリー「モダンブリティッシュ」とは?

まだ「チラホラ」レベルではありますが日本から旅行者が来るようになりました。

皆さん、マスクをしている人がほぼいない光景に驚き(←予備知識として知っていたものの改めて驚き)、そして一緒にパブやレストランに行くと、混雑した中でおしゃべりを楽しむ人々の姿にもびっくりするようです。

出勤も再開し、夕方の金融街にあるパブはこの混雑ぶりです。

旅行者と食事に行く約束をする際、「モダンブリティッシュって…何?」とよく質問されます。

「せっかくロンドンに来たのだからイギリス料理を食べたいと思ってレストランを検索すると、カテゴリーに『モダンブリティッシュ』と出てくるのだけど、一体どんな料理なの?」と聞かれるのです。

「モダンブリティッシュ(料理)」とは、伝統的なイギリス料理(と言ってもいろいろあります。ロースト、グリル、ムニエル、パイ、シチュー等々)を“今風”に解釈し、各国の料理の良い点を取り入れた「現代のイギリスに暮らす人々が好みそうな洋食系料理」…という大変ざっくりしたカテゴリーの料理です。

例えば伝統的イギリス料理の場合、魚料理はムニエルやパイ包みが定番、魚の種類も鮭、タラ、スズキ、タイはよく見かけますが、バラエティはそれほど多くありませんでした。しかし現在はイタリア料理やスペイン料理の影響を受け、魚介料理も豊富です。生魚を使った刺身やセビーチェ風の前菜も一般的になり、かつてはあまり食されてこなかったイカやタコもよく見かけます。ドレッシングに醤油や味噌、柚子やコチュジャン等を使うのも流行りです。

そして7~8年前から「大皿料理」「小皿料理」がイギリスの食に導入され始めたのも大きな変化です。現在「イマドキ」系のお店ではすっかり定着しました。

私が来英した20年前、友人と食事に行っても各々自分が食べるものを注文し、一皿を「誰かとシェアする」ことはほぼありませんでした。しかしスペインのタパスが人気となり、徐々に「皆でシェアする大皿料理」と「何皿も注文して、皆で少しずつシェアする小皿料理」がモダンブリティッシュにも導入されました。

Soho地区にあるモダンブリティッシュ・レストラン「10 Greek Street」のラム肉のロースト。2人前から注文可能の「大皿料理」。

飲みながらちょこちょこ何皿も食べる「小皿料理」。導入が始まった頃、この手の料理に人々が慣れていなかったので、店員さんが「〇人なら〇皿ぐらい注文した方が良いですよ」とアドバイスしていました。現在は定着したので、解説不要になっています。

もちろんこれまで通り、コース料理を出しているお店もたくさんあります。その辺入り混じっているのが現代のイギリス料理です。ガイドブックで「モダンブリティッシュ」と書いてある場合、「イマドキ感があるイギリス風(洋風)の料理が食べられるお店」程度に考えてください。

モダンブリティッシュの人気店「Pidgin」は毎週異なるテイスティングメニューのみを提供している人気店。私が一昨年行ったときは、全9皿(一皿はほ~んの少しです)、盛り付けも美しかったです。

人気のお店に行ってみました。「40 Maltby Street」

凍りつくほど寒いある晩、友人と一緒にずっと前から行きたかったお店「40 Maltby Street」に行ってみました。

このお店はロンドン中心部のやや東、電車の高架下を利用したフードマーケット「Maltby street Market」の中にあります。ワインショップも併設しており、ワインに合うモダンブリティッシュ系タパス(小皿料理)が美味しいお店です。

このお店は予約を取りません。席が空いていなかったら少し待つか、待ち時間が長そうなら「また今度」と諦めるしかないのですが、この手の「予約を取らない」お店もロンドンにはたくさんあります。

ワインを飲みながら10分ほど待ちました。半袖になれるほど暖かい店内にこの赤ワインで体が芯から温まりました。

アーチ型の天井、むき出しの煉瓦の壁を活かした内装も雰囲気があります。

とても寒い日だったのですが、春の花「ミモザ」がたっぷり飾られていました。美しかったです。

週替わりのメニューは黒板に手書きで書かれ、インスタグラムでも公開されています。この手書きを解読するのがなかなか難しいのですが(笑)、皆さんスマホでメニューの写真を撮るか、インスタを見ながらオーダーしていました。

美しい「手書き」。どうしてもわからない箇所はスタッフに聞きました。

最初に出てきたパンとバターの美味しさに、「あ、もうこのお店に来たの大正解」と確信しました。

クラム(気泡)がほどよく入った素晴らしいバゲットに発酵バターをたっぷり塗っていただきました。パンは有名なベイカリー「Little Bread Pedlar」のもの。手前に見えるのはイタリアの生ハム「Coppa」。豚の首肉のハムで、脂が美味しかったです。

自分では思いつかない、アイテアいっぱいの料理を食べるのは、レストランならではの醍醐味です。

パースニップのコロッケ。パースニップはイギリスではよく見かける根菜です。根菜ならではの甘さが優しいコロッケでした。

ジャンボマッシュルームのフライ、アイオリ添え。手のひらほどの大きさのあるマッシュルームを1センチ程度の幅に切り、下味をつけて軽めの衣で上げたもの。イタリアやスペインの「フリット」に、スペインやフランスで食べられるアイオリソース(ニンニク味のマヨネーズ)を合わせています。揚げたてサクサクでした。

美味しいパンを追加でオーダーし、ムール貝のワイン蒸しのソースに浸して食べ…

ほどよい塩味とムール貝の出汁、たっぷり入ったセロリのコンビネーションが美味。

最後はサーロインのグリルでワインを飲み干しました。

お肉の上にたっぷりシャンピニオンを炒めたものがのっている牛肉のグリル。付け合わせの紫ブロッコリーの芽(ケールに似た苦みが美味)、そして写真では見えないのですが薄切りポテトのグラタンが細かいフライドポテトの下に隠れています。今回3人で行きましたが、お肉は3人でシェアするにはちょっと小さめでした。

最後にコーヒーを頼もうかと思ったのですが、コーヒーはないとのこと。現在ロンドンではスペシャリティコーヒーが百花繚乱状態なので、これはちょっと意外でした。

コーヒー代わりにデザートワインを追加し…

左がこの日お店がおススメだったデザートワイン。まるで梅酒のような味でした。

濃厚なチョコレートムースを1つ頼み、3人でつつきながら食べました。

下からチョコレートムース、コーヒーシロップ(「Camp」社のもの)、コーヒー味のクリームと3層になっています。添えてあるビスコッティは柔らかめのサクッとしたもの。

お店はひっきりなしに人が入っており、ずっと満席。各テーブルが小さいこともあり、1グループ5名まで。2~3人で来るお客さんがほとんどでした。

食いしん坊3人で行ったので正直「満腹!」にはならなかったのですが、でも工夫された味やスタッフの丁寧な対応に大満足しました。一人2~3杯ずつワインを飲み(1杯8ポンド=約1300円程度)、料理5皿(小皿4、大皿1)、デザート1品、パン2皿をシェア、お会計は合計123ポンド(サービス料を含まず)でした。サービス料を少し追加し、一人当たり45ポンド(約7200円)のディナーとなりました。

為替レート的には「7200円」になってしまうのですが、1ポンド=100円ぐらいの価値なので、イギリス的には「4500円」という感覚です。飲んで食べてこのお値段なので、「まあまあリーズナブルに楽しめる」というカテゴリーに入るお店でした。

お店出るとびしっと冷たい風が頬をさしましたが、でもとても幸せな気持ちで帰路につきました。

実は閉店が相次いでいる…厳しい飲食業界の状況

賑わう飲食店の様子だけを見るとコロナ禍はなかったように見えるのですが、実はイギリスでは現在飲食店の倒産が相次いでいます。

長い間閉店や限定営業を余儀なくされた飲食業界にとって、この3年は悪夢だったと思います。やっと通常営業が可能になり、巻き返そうと頑張っていた矢先にエネルギー料金高騰、インフレ、そして寒波がトリプルでやってきて、持ちこたえられなくなったお店が次々閉店に追いやられているのです。

ロンドンは外食産業がとても盛んな街です。そんな街の大切な灯(ともしび)が消えませんように…と願っています。

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日本の寒波のニュース、ロンドンにも届いています。
皆様も、どうか暖かくしてお過ごしください。

紹介したお店:
40 Maltby Street
https://www.40maltbystreet.com/
※写真はお店に許可を取って撮影しました。一部お客さんの顔にぼかしを入れています。