宮田華子
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。
ウェブ:http://matka-cr.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/
※記事内容は2021年5月4日時点の情報によるものです。
今年は「寒い春」と言われていますが、4月以降、天気だけは良い日が多いロンドンです。
久々にノッティングヒル周辺。今日は空が青く、でも空気は冷たくて香ばしい天気でした。白い建物が群青色に近い青空によく映えて綺麗。 pic.twitter.com/cAWvkqxfZw
— 華子です in London (@hanakolondon_uk) April 13, 2021
ノッティングヒル界隈を走るバスの窓から撮影。
順調に感染者&死者数が減少してきているため、現在、段階的にロックダウン緩和が進んでいます。3月29日から野外であれば6人まで他世帯の人とも会えるようになりました。そして4月12日からは非必須店とスポーツ施設(屋内含む)、そして飲食店のアウトドア席サービスも再開しました。
少しずつですが街があけてきました。長い間、待ち望んでいたものが戻りつつあります。
冬の間、ずっとロックダウン下で過ごしてきました。明るい陽射しの季節を迎える時期と緩和が重なったため、人々の心も明るく、そして外向きになるのを実感しています。
近所の散歩道。木々の枝が急激に伸びてきました。
ロックダウン中、多くのミュージアムやシアター、ギャラリー、ブランド等がデジタルコンテンツを提供してくれました。普段ならその場に行かなくては見られないものを自宅で見せてくれたので、「素晴らしい」と感激しながら見ていました(そして今も見ています)。
よく視聴している英国ロイヤル・バレエ団のYoutubeチャンネル。現在も毎週さまざまな演目がプレミア公開されています。
サンローラン2021年春/夏のキャットウォークは砂漠で。観客を入れてショーができないため、各ブランド、通常ではありえない場所で撮影された映像が楽しめます。
映像作品やデジタルアート等、バーチャルで見るための作品もたくさんあります。しかしミュージアムやギャラリーに実物があり、実際にその場に行って見るのが本来の形である作品の場合、バーチャルで見れば見るほど「ロックダウンが終わったら‟実際”に行きたい/見たい」という思いがどんどん膨らんでいったのも事実です。
やっと迎えた緩和により、アートの場も少しずつ開き始めました。まずは4月12日からギャラリー(画廊/商業ギャラリー)が開きました(ミュージアムは5月17日から再開予定)。
私にとって緩和後初のエキシビションは、ロンドン中心部(フィッツロビア地区)にある美しいギャラリー「Tristan Hoare」で開催された、友人である陶芸家・舘林香織さんの個展「The Walled Garden」でした。本来は昨年開催予定でしたが、コロナ禍によって延期に。満を持しての開催だったので、本当に本当に楽しみにしていました。
「German Iris」 燕子花(カキツバタ)を壁一面に展示した作品。Photo: Alzbeta Jaresova
「June Garden in Oxfordshire」 Photo: Alzbeta Jaresova
3つの部屋の壁にディスプレーされた陶製の植物が、自然の息吹を静かに放っています。作品と空間、そして光が美しくコラボする展示室。真ん中に立ち、四方にある作品を1つ1つ眺めながら、「アートのある空間」に久々に来ることができた喜びに浸りました。
香織さんが(植物の作品を作る以前から)陶というメディウムを使って一貫してやろうとしているのは、「時(とき)、さらに厳密に言うと間(ま)を切り取り保存すること」。
「しかしそれは実際には不可能なことであり、具現化も不可能です。花や生き物の時間を止め、それを視覚化することにより『閉じ込められた時のイリュージョン』を作ることで実現しようとしています」と香織さんは語っています。
「Group of individual flowers」 Photo: Alzbeta Jaresova
細部に至るまで繊細かつ精巧につくられた作品。花々の香り、そして葉の柔らかな質感さえも伝わってきます。
今回の個展では、香織さんのスタジオ(アトリエ)がギャラリー内に再現されていました。
キャビネットやフレーム、家具や小物等は香織さんのスタジオで実際に使われているもの。Photo: Alzbeta Jaresova
Photo: Alzbeta Jaresova
私はこれまで何度も香織さんのスタジオに伺っていますが、スタジオの雰囲気がそのまま再現されていたので本当に驚きました。ドライフラワー、道具類、ヴィンテージの小物、家具のセレクション等、まさに「香織さんの世界観」を感じることができるスペース。細部までさまざまな発見があり、ずっと眺めていたかったです。
舘林香織さん
1年ぶりのエキシビションは、アートのそばに身を置くことのできる幸せを実感した経験でした。その場所に「行き」、作品を「見て」「感じる」ことの楽しさを久しぶりに体感し、「元気をもらえた」とはっきり思えた素晴らしいエキシビションでした。
ロックダウン中に再開を待ちわびていたものはいろいろありますが、飲食店の再開もその1つです。
飲食店はずっとデリバリーとテイクアウトのみの営業しかできず、店内飲食は不可でした。4月12日から野外席のみですが「お店に行って、そこで飲食する」ことができるようになりました。
野外席の拡大に設備投資をしたお店も多く、また歩道にテーブルを設置する許可を出し、街ぐるみで飲食店を応援している地域もあります。
ガーデン席を拡大し、コロナ禍使用にレイアウトも変更した近所のパブ。同じテーブルを囲めるのは6人以内もしくは2世帯以内(人数を限らない)がルールです。
ストリート席を設けている飲食店。晴れている日の野外ランチは気持ちよさそうです。
実はまだ、外で飲食するにはかなり肌寒く、特に夕方以降は野外で食事をするには厳しい気温です。天気が良い日の昼間は15度前後まで上がりますが、夕方になるとかなり冷え、2~3度まで下がります。ですので私はまだレストランに行っていないのですが、「まずはパブ!」と思い、緩和後2度パブに行きました。
ガーデンがあるパブは、大きなテントを張ったり、ストーブをたくさん設置する等寒さ対策をしています。
一見暖かそうに見えるテントを張ったパブのガーデン席。しかし夕方になるとかなり冷え込みます。
緩和後初の1杯。寒かったけれど、格別の味わいでした。
そして客とスタッフの安全を守るため、どのパブもさまざまなルールを導入しています。これまでふらりと立ち寄り、カウンター越しでオーダーした1杯をおしゃべりしながら立ち飲みできるのがパブの良さでした。しかし現在は事前予約が必須です。コロナの追跡アプリにチェックインした上で入店し、必ず着席しなくてはなりません。注文もテーブルでアプリを使って行います。
スマホにアプリを入れ、注文も決済もアプリで行います。スタッフと客との接触を最小限にするためです。
「パブらしさ」と言える部分が味わえない状態ではあるものの、それでもパブの再開を待っていた人は本当に多く、ガーデン席を目指し予約が殺到しています。週末や平日の夕方以降の時間はどのパブもかなり先まで予約できないほどです。
金融街「シティ」にあるパブ。まだまだ在宅勤務の人が多いので街はガラガラなのに、パブはいっぱい。予約した野外席に通されますが、トイレに行く時だけ店内に入れます。皆さんしっかり厚着して来店し、冷たいビールを楽しく飲んでいました。(写真は店内から野外席を写したものです)
寒さに震えつつ、(私も含め)それでもパブに行き、楽しそうに憩う人々。「コロナ禍がこのまま終息するかもしれない」という期待と、「また人と一緒に飲んだり食べたりできる」喜びが、分かりやすく見える光景です。
イギリスのワクチン・ロールアウトについては前回書いた通りですが、現在も順調に進んでいます。
このまま予測通りに感染が下がっていった場合、6月21日にすべてのソーシャルディスタンス策が解除されることになっています。
緩和するということは、人に会い、話し、一緒に食事をし、笑いあったりできること。そして美しいものを直に見たり、触れることができることです。
そうしたものが再び失われないように、緩和に浮かれずしっかりルールを守って過ごしたいと思います。
日本の感染拡大のニュース、心配しながら毎日確認しています。どうか皆様、ご自愛ください。
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