宮田華子
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。
ウェブ:http://matka-cr.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/
※下記本文は11月1日段階での現況です。
10月31日に急遽ジョンソン英首相の会見があり、11月5日(木)から再びイングランドがロックダウンとなることが決定しました。予定は4週間(12月2日まで)、短期ロックダウンの予定です。
イングランドのロックダウンは11/5(木)から12月2日(水)まで。
— イギリスについてつぶやく:ハナコです (@uknews_murmur) October 31, 2020
以下、ざっくりのルール
●在宅勤務が不可な人と学生以外は、外出しないこと(学校は閉鎖しない)
●運動目的の外出(公園等。他の家庭の庭は不可)は時間を限らず可。家族+1名までは一緒に行える
>https://t.co/BmxrFYMBZu
現在イギリスではイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの地方自治政府が各々に対策や規制をおこなっています。すでにウェールズはロックダウン中、スコットランドと北アイルランドも厳しい制限下にあります。
英全土、じゃないですよ。今日のニュースはイングランドだけです。
— イギリスについてつぶやく:ハナコです (@uknews_murmur) October 31, 2020
こんなん書くと、他の3地域(独立してない3国、というのが正しいのですが)がめっさ怒りますよ。
ちなみにウェールズはすでにロックダウン中。スコットランドと北アイルランドも独自に厳しい対策中。https://t.co/yF24bxkDq2
日本の報道で「イギリス全土が再ロックダウン」と書かれたものを見ましたが、“イングランド”の間違いです。イギリスは正確には「独立していない4国による連合王国」なので、「イングランド=イギリス」とすると、他の3地域(国)の皆様がお怒りになります。
正直今回のイングランドのロックダウン決定は遅すぎた、という印象です。経済を優先しようとしたために判断が遅かったジョンソン首相への不信感が高まっています。
10月17日からイングランドでは感染レベルによって各地域を3段階に分け、対策を強化していました。ロンドンは2段階(危険度強)とされていたので、室内で別世帯の人とは会えないなどルールが改定されました。しかし「こんな程度では感染拡大が止まらないのではないか?」という懸念はずっと叫ばれていたのです。
近所のパブのガーデン席。雨よけのテントを張り、テーブルごとにストーブを取り付けて暖かくする等、生き残りをかけて頑張っていました。しかしロックダウンが決定。11月5日から4週間、すべての飲食店はテイクアウト業務以外は不可となります。
すでにロックダウンの経験があるので、ロンドンがパニックに陥ったりすることはありません。しかし「またか」というため息と、「こうなる前に何とかならなかったの?」という政府へ批判の声が至るところから聞こえてきます。
今年3月のロックダウン以降、ずっと何らかの行動規制が続き、家で過ごす時間が長くなっています。実は前回のロックダウン緩和後から、イギリスは不動産ブームなのです。「厳しいコロナ禍なのに、なぜ今!?」と驚かれると思いますが、コロナ禍だからこそ到来したブームなのです。
理由は前回の長いロックダウンの経験です。
#ロンドン散歩
— イギリスについてつぶやく:ハナコです (@uknews_murmur) April 30, 2020
毎週木曜日20時、医療ケアや必須職への感謝の拍手。今日は雨が降ったり止んだりどしゃ降りだったりしていたけれど、20時前に晴れました!
本当にありがとうございます!#ClapForOurCarers #clapforourkeyworkers#clapforNHS pic.twitter.com/R6bgJHbzcb
前回のロックダウン中、医療関係者への感謝の拍手が毎週行われていました。まだ数カ月前なのですが、遠い昔のことのよう。今年は1年が長く感じます。
必須の買い物と1日1度の運動しか外出できなかった時期、自宅に庭がある人・ない人の差はとても大きなものでした。特に小さなお子さんがいる家庭は、外で遊べる空間がないと本当に大変だったと思います。
大人でも外出できない時期はつらかったです。近所の公園に運動行く短い時間だけが憩いでした。
小さな男の子2人の母である友人は、「ウチに庭があって良かったよ。でないと家が破壊されてたね…」と笑いながら言っていましたが、切実な本音だと思います。
また多くの人が一気に在宅勤務となったので、住居としてだけではなく、仕事スペースも必要になりました。皆ロックダウン中に「もっと広い家に引っ越したい」「庭付きの家がほしい」「せめてベランダぐらいほしい」と、家のサイズアップ&環境改善に目が向き始めたのです。
Property searches for three-bedroom houses rise by 7% as families scramble to buy in suburbs, new Zoopla data reveals https://t.co/tGJNDHaHgn
— Evening Standard (@standardnews) October 11, 2020
1~2寝室の家に住む共働きカップルが、仕事部屋確保のために、ロンドン中心部から郊外に移って3寝室の家を買うのがトレンド、という記事。記事に使われている写真は、我が家の近所です。
なかなか終息しそうにないこの状況を見越し「次のロックダウンに備え、緩和中に引っ越しまで済ませたい」と思う人も多く、ロックダウンの緩和と共に一気に不動産ブームとなりました。庭もベランダもない人は「庭付き or ベランダ付きの家を買いたい」と思い、小さめの家持ちの人は「今の家を売って大きめの家に乗り換えかえたい」と考え、各々がランクアップを目指して動いたのです。
このブームを後押ししたのは、2021年3月末まで家購入にかかる印紙税を減額した政府のビジネス支援策。50万ポンド(約6,800万円)までは印紙税が無料になり、これによってかなりの額がセーブできる人も多いからです。期間限定なこともあり、買い急ぐ人が増えました。
とは言え、家は大きな買い物です。広い家は誰もがほしいけれど、いくらロックダウンを経験したからといって、そんなに簡単に「家を買おう」「買い替えよう」と決意するものなのか?と思われるかもしれません。
これはイギリスの個人資産の要は「家」であるという、国の経済の成り立ちによるものです。
大きな建物ですが、この中がいくつものフラットに分かれています。1階または地下1階のフラット所有者には建物の向こう側に庭(裏庭)がついている場合が多いです。
多少上下はするものの、長い目でみればイギリスの不動産価格は上がっていくものであり、大きくは下がりません。「新築だから値段が高い」「家が古いと値段が下がる」ということもありません。家の値段は場所と広さで決まるので、インフレに従いどの家も基本は上がっていくのです。
家の価格の上昇率は定期預金よりも高いので、貯金するよりも家に投資し、値上がりを待って買い替えを繰り返したほうが資産を増やせます。イギリス人はあまり貯金をしないことでも有名です。お金ができると家の修理につぎ込み、家の価値を上げていきます。
Millions have less than £100 in savings, study finds https://t.co/kUEzJ6x4RW
— BBC Business (@BBCBusiness) September 29, 2016
2016年の記事ですが、「英国の成人の半数以上が、貯金を100ポンド(約1万4000円)しかもっていない」という驚愕の記事。
生涯に何度も家を買い替えるのも、イギリス人の特徴です。20代で就職すると、頭金を親に援助してもらい、自分でローンを組んで1軒目の小さな家、通常はフラットと呼ばれるマンションの1室を買います。そして数年後に値上がりすると、そのフラットを売って頭金を増やし、サイズアップした家に買い替えるのです。
家族が増える、仕事の状況が変わる等の状況に応じて家を大きくしていきますが、出来るだけ長めのローンを組み、月々の支払いを抑えて返済を続けます。となると「ローン完済まで時間が掛からない?」と思うのですが、そもそも完済する気がないのです。
「えっ、なぜ?」という声が聞こえそうですが…それは時が来たら家を売ればいいからなのです。
手製の「販売中」の看板を自宅前に立て、自力で買主を見つける人もいます。
多くの人は「子どもが独立して家を出る」「リタイアする」等のタイミングで、それまで住んでいた大きめの家を売却します。そこで手にした利益で今までよりも小さめの家をキャッシュで買い、すごろくの「上がり!」となるのです。
この徐々に大きくして、最後に小さくするイギリス流の家の買い方を「Property Ladder(不動産のはしご)」と呼びます。はしごを昇ったり下りたりして個人資産をコントロールするのです。
でもこれは不動産が上がり続けるもの、という基盤があってできること。この辺がイギリスと日本の大きな違いです。
また自分が実際に居住している家(自宅)であれば、売却して利益が出ても無税であることも大きいでしょう。売却して得たお金をそのまま次の家の頭金に使えるので、売り買いを繰り返すことが可能なのです。
実はわたくしも、今年家の買い替えを検討していました。でもこれは、ロックダウンの前から考えていたことです。
小さな我が家の写真、久々の掲載です。インテリアにあまり手を加えていませんが、ラグを敷き、居間のライトを変えました。夕景&カメラの明度を下げているので、実際はこんなに部屋が暗いわけではありません。
とは言えフェラメントLEDなので通常の白熱灯よりは暗め。間接照明も探し中です。
今の家が嫌なわけではありません。まあまあ気に入って暮らしているのですが、収納が少ないことはずっと悩みの種で、次第に「庭があれば、収納用の小屋を置けるのに」と考えるようになりました。今年7月で今の家に住んで5年になり、定額ローンの切り替えもあったため「この機会に家の住み替えにチャレンジしてみるのも手かも?」と昨年から考えていたのです。
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— Buy Sheds Direct (@BuyShedsDirect) April 9, 2020
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こういうタイプの小屋が、どの庭にも置かれています。私も小屋が欲しいのです…涙。
ところが…です。その矢先にロックダウン(3月)になってしまいました。
この期間に、(上記のように)人々は急激に「庭が欲しい」と思うようになり、不動産ブームが到来しました。
これまでは、不動産売買で最も重要なのは「場所」と「利便性」でした。我が家は駅前通りにあるので、駅近な上に買い物便利。内覧のときに不動産屋から「手ごろなサイズで場所も良いので、売るときはすぐに売れると思うよ」と言われたことも、購入の決め手の1つでした。
庭はなくともガレージがあれば、収納に使えます。車ではなく物置としてガレージを利用している人も多いです。
しかし、ここに来てマーケットがまったく変わってしまったのです。「多少駅から遠くても、広めの間取りで庭付きの家が良い」「しばらく在宅勤務が長引きそうなので、会社から遠くなっても構わない」という志向になっています。
わたくしの場合、今の家を売らないと新しい家に乗り換えることができないのですが、庭もベランダもない我が家は、現在の不動産ブームでは1番人気のないタイプの物件です。
というわけで、我が家は現在の不動産ブームの影響で、逆に買い替えしづらいことになってしまいました。
いつまたタイミングが巡ってくるか分かりませんが、当面は今の家での家時間を快適にするための工夫に専念しようと思います。
ライト取り替え話の続きです。真鍮の円盤型シェードです。結構重さがあるので、ケーブル部分が重さに耐えられるかが不安で、シーリングカバーの中を補強しました。
シェードの商品画像。ロックダウン中に探し、通販で購入しました。
パーツを別々に購入したので、組み立てが必要でした。昔風のデザインのパーツを買ったところ、今は無用のアース線の留め金が付いていてどうしたらよいのかググりまくりました。以前当コラムに登場してもらった「家の先生」やDIYに詳しい友人にご指導いたき、またYoutubeにもお世話になってやっと組み立て完了。5年経ってもDIY一年生のままの体たらく、自分に呆れます。ランプ1つで大仕事でした(汗)。
…とここまでの話は、2度目のロックダウンが決定する前までの状況です。
12月2日以降もロックダウンが長引くかもしれませんし、3回4回と続く可能性もでてきました。
ゴーブ内閣府担当大臣が、来週からのロックダウンが予定の12/2以降まで継続する可能性もあることを示唆…って、そんなこと、わざわざ教えて下さらなくても、皆知ってるから😡#Lockdown2 https://t.co/75g88WZgOv
— イギリスについてつぶやく:ハナコです (@uknews_murmur) November 1, 2020
もともと冬は引っ越しに向かない季節なこともあり、夏から続いた不動産ブームもひとまずここで沈静化するかもしれません。逆に「次に緩和したら、今度こそ庭付きの家にしたい」と思う人が増え、さらにブームとなるかもしれません。
先のことが何もかも見えづらくなってしまいました。
本当にロックダウンが4週間で終わるのか?も分からず、「クリスマスはどうなるか?」も不明です。現在の状況を鑑みると、今年のクリスマスはこれまでとはまったく異なるものになりそうです。
今年はロンドン中心部のイルミネーションの点灯式もキャンセルになりました。写真は昨年のRegent Streetのクリスマスライトです。
この辺も含め、来月またレポートします。
皆さまもどうか、引き続きお気をつけてお過ごしください。
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