宮田華子
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。
ウェブ:http://matka-cr.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/
7月は涼しい日が多く「今年は冷夏かな?」と思っていましたが、8月に入ると猛暑日が続きました。毎年同じことを書いているのですが、イギリスの一般住居にはクーラーがありません。35度をすぎると室内はサウナ状態。逃げ場がなくなります。
今年も飲みまくった水出し紅茶。毎晩、夜間に茶葉と水をヤカンに入れて常温で水出し。氷を入れて冷た~くしたのをキュッと飲むのが、暑い夏の朝の習慣です。
外の気温が37度(!)なんて日は、家の中の温度は40度近い危険なエリアにまで上がります。どうしようもない暑さの日は近くのカフェにパソコンを持って避難してしのいだりしていました。熱帯夜が辛いのは日本もロンドンも同じですが、なにせクーラーがないので一瞬でも室内を冷やすことができません。
2週間ほど眠れぬ夜を過ごしましたが、8月後半を越えたところで20度前後にドンと気温が下がりました。
暑い上にずっと雨も降らなかったので、公園の芝生がすっかり枯れてしまいました。
現在はあの猛暑の日々が嘘のような涼しさです。
ロックダウンは緩和したものの、引き続き注意しながら生活する日々を過ごしています。
イギリス人は本来「長い休み」と「休み中に行く旅行(主に、周辺欧州国)」のために生きているような人たちです。しかし当然のことながら今年の夏は状況が異なりました。イギリスの夏休みシーズンは6月~8月ですが、現在他国からイギリスへ帰国(入国)する場合、出発地によっては2週間の自主隔離が義務化されています。
緩和後、一部地域を除き国内での移動については規制がなくなりました。国としても今年のホリデーシーズンは「ステイケーション(休みを自宅や近場で過ごすこと)」を推奨しているので、多くの人が夏休みをイギリス国内で楽しんだ様子です。
猛暑だった8月前半のある日、イングランドの南の海辺を目指し、友人たちと車での小旅行に出かけました。車中の人数、マスク着用、ソーシャルディスタンス、消毒液の持参など、政府のガイドラインを守りつつ安全を確保した上での大人の遠足です。
まずはロンドン南西部のサットンという街にある「Mayfield ラベンダーファーム」に立ち寄りました。
Googleマップのキャプチャー画面より。ロンドン中心部から車で1時間ぐらいの距離です。
ウェブサイトを確認すると、オープン日時や開花状況が丁寧に書かれています。入場料金は1人4ポンド(約560円)。
翌日から収穫が始まる、というタイミングで行ったので、ラベンダーの紫色がもっとも美しい最盛期は過ぎてしまっていました。でも平日の午前中だったこともあり、それほど混雑していない状況で入れました。
実はこの日はものすごく天気が良い、明るい日でした。あまりに明るすぎたため、カメラが勝手に光を調節してしまい返って暗く写っています。本当はまぶしすぎて、デジカメのモニターが見えないぐらいの彩光でした。
テント式の売店とカフェを併設。ラベンダー畑を見ながら、お茶を飲んだりアイスクリームを食べたり。
美しい花畑にしばし癒され、売店でラベンダーのエッセンシャルオイルを購入しました。我が家から車で20分ぐらいの場所なので「また来年!」という気持ちで、その場を後にしました。
そのまま車をやや南東に走らせ、イングランド南部の海辺の町、イーストボーン(Eastbourne)に向かいました。
Googleマップのキャプチャー画面より。ドーバー海峡を挟んだ先(地図右下)はフランスです。
イギリスの海辺に行くと、桟橋に続く屋内の娯楽施設「ピア(Pier)」を目にすることが多くあります。海の上に浮かぶお城のような建物で、中に小さな遊園地やショッピングセンター、ゲームセンターなどがあります。イースト・サセックス州の海岸沿いの町イーストボーンもピアのある避暑地です。
今年公式オープンから150年を迎えたイーストボーン・ピア。どの町でピアを見ても、何だかおとぎの国の風景を見ているような気持ちになります。
イギリスの海辺の多くは「砂浜」ではなくて小石で出来ています。肌色の丸い石とその向こうに柔らかい色の海が広がっています。
この写真も天気が悪く、寒そうに見えますね…涙。でも実際はこの日は35度越えの、ものすごく明るく、暑い日だったのです。ただ人がそんなにいないので、静かな雰囲気は写真の通りです。
近隣住人と避暑客の両方がいるのだと思いますが、人々は飲み物と敷物を持ってやってきて、寝転んだり、水につかったり、勝手知ったる感じでリラックスしています。
潮の香りを吸い込みつつ、のどかな風景を眺めて浜辺を少し散策。そしてレストランがいくつか並んだエリアでランチを取ることにしました。
野外席で海を見ながら食事ができる魚料理で評判のレストラン「Beach Deck」に運よく入ることができました。
入店前に全員の携帯番号を聞かれました。店内は室内席も野外席も広めに間隔を取ってあります。
ネットで調べてふらりと入ったお店だったのですが、ここの食事が大当たりだったんです。シーバス(スズキ)やタラ、イカやスカンピ(手長エビ)料理などの魅力的なメニューがいろいろあった中、
私はムール貝のワイン蒸しにしてみたのですが…
こちらが私の頼んだムール貝。
お世辞ではなく、今までに食べたムール貝の中で1番ふっくら&肉厚で感激しました!
イギリスや欧州諸国(フランスやベルギーが有名です)でムール貝にお目にかかることは多いのですが、身が痩せていたり小粒だったりして「立派なのは殻だけだわ~」と思う一皿に何度となくお目にかかってきました。
しかし今回は、身が本当にふっくら! お皿の下にある、貝の出汁とワイン、そして生クリームの美味しさを閉じ込めたスープも、パンを浸してしっかりたべました。
旅先で美味しいものに出会うと、旅の楽しさが倍層します。
お腹がいっぱいになったところで、この日の最終目的地であるセブンシスターズの白亜の崖(Seven Sisters)を見に向かいました。
白亜系石灰岩(チョーク)でできたこの崖(↓)を、テレビや雑誌などで見かけたことがある人も多いかもしれません。
イギリスの風景だと知らなくても「この崖は見たことがある!」という方もいると思います。
セブンシスターズとは、イーストボーンの西側から続く白い崖の名称です。海岸線が長く続いているので、崖の上から見たり横から見たり、少し離れた場所から見たりとビューポイントは数カ所あります。
今回行ったのは、崖を西側から眺められる赤い矢印の近くの場所です。
Googleマップのキャプチャー画面より。
駐車場に車を止め、そこからは2.4キロほどの川沿いの道をひたすら崖を目指して歩きました。
実は私自身はセブンシスターズに行くのは3回目です。1度目は崖の上から、2度目はボートを出して沖から(←これは仕事でした)白亜の崖を眺めました。前者は「高さ」、後者は長い海岸線を見話させる「広さ」を体感できたので素晴らしかったのですが、今回は海岸にたどり着くまでの道で、雄大の自然に包まれるような感覚を味わうことができました。
駐車場を出て…
自然保護区に続く小道に入ってしばらく歩くと…
いきなりパノラマ風景が広がります。
7月からずっと雨が降っていなかったこともあり、牧草地帯はカラカラに乾いています。一面、黄金色です。
道の両端に川が流れているのですが、うねりがダイナミック。その周りで牛が草を食み、水を飲んでいます。
たった30分程度の道のりなのですが、360度の大自然。期待していなかっただけに「イギリスにこんな場所があったなんて!」と驚いてしまいました。
少しずつ、前方に白い崖がはっきり見えてくるものの、周りには自然と牛しかいません。あまりの大自然ぶりに「道、間違ってないよね?」と少し不安になったほどです。しかし「今から泳ぎに行きますよ」という水着姿の人たちや、「泳いできましたよ」という髪が濡れた人たちと時折すれ違うので、彼らを信じで歩き続けました。
到着した海岸は、静かで穏やかで、でもイーストボーンの海岸とは異なり水が紺色でした。
青さと白さのコントラストが美しく、何時間でも眺めていられる風景です。
本日もロンドン、暑かったです。今日は数年ぶりにセブンシスターズの海岸に行きました。美しい海岸は光が眩しすぎて、写真が暗く写っています。若い時は自然に全く目が向かなかった。自然に癒されるようになったのはいつからかな。年取って良かったことの一つだな〜。#イギリス pic.twitter.com/Jx5nOTPOFO
— イギリスについてつぶやく:ハナコです (@uknews_murmur) August 12, 2020
この日は本当に暑かったので水はぬるめ。透明な水の中をぷかぷか泳ぐ人々。ああ、気持ちよさそう…。
泳ぐつもりではなかったので水着を持っていなかったことを本気で悔やみました。手や足を水に浸して海水浴気分を味わい、その場でしばらくぼんやりと潮風に吹かれました。
この数カ月は、コロナ禍でままならないことやロックダウンのストレス等々を誰もがため込んでいたはずです。私もその1人ですが、この海の風景ですべてが流れていったような、そんな心から癒された時間を過ごしました。
すっかりリフレッシュし、帰り道は足取りが軽かったです。
本当に楽しい夏の1日でした。(Aさん、Yさん、ありがとうございました。一緒に行けて、本当に嬉しかったです。感謝です♡)
海外旅行が自由かつ気兼ねなくできるようになるまでに、もう少し時間が掛かると思います。私は例年秋に一時帰国をしているのですが、今年は帰国できるか心配です。
少し先かもしれませんが、コロナ禍が終わった後にイギリス旅行に来て「ロンドンから1日遠出したいな」と思ったら、今回ご紹介したコースはおススメです。ラベンダーは6~8月までが見ごろで、海辺も冬は閑散としてしまうので、ぜひ夏に行ってみてください。
セブンシスターズはどの位置から見るかでかなり風景が異なるので、その点をリサーチしてから行くこともお忘れなく!
この小旅行の数日後から一気に涼しくなり、この原稿を書いている8月末はもうジャケットを着るほどの涼しさです。
厳しいロックダウンを経験した後に迎えた今年の夏。時間を限定せず外に出られること、人に会えることの有難さを痛感しながら過ごした、イギリスの短い夏が終わりました。
日本はまだまだ酷暑が続くと思います。毎日日本の天気や気温を見ながら、心配しています。どうかご自愛ください。残暑が早く終わりますようにと願っています。
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