エコ化が進むイギリス。「ゼロ・ウェイストレストラン」とは?

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

1月31日の23時にとうとうイギリスはEUを離脱しました。

新聞記事

離脱当日のEvening Standard紙(左)の「お別れだけど、さよならじゃない」のコピーに泣きました。右は翌日のGuardian紙。

離脱が決まった3年半前には「離脱の日はどんな恐ろしいことになるのか?」と思ったのですが、今年いっぱいは移行期間なので、2月1日から何かが突然変わった、ということはありません。でもこれから徐々にいろいろ変わります。そして各取り決めや条約をうまく締結できない場合、為替レートや家の値段が下がるでしょう。本当に大変なのは移行期間が終わった来年1月からなのだと思います。

エジンバラでタクシー運転手をしている2児のパパだというジェームス・メルヴィルさんのアカウント。最近政治的発言が活発なヒュー・グラントをはじめ、15万人弱のフォロワーがいます。彼がこのツイで紹介しているのは、これまでにEUがイギリスにしてくれたこと。「60年に渡る、欧州内の平和」から始まる長~いリストを見ると、残留派を支持している私は、本当に悲しくなります。

ここからの動きは、まだ誰にも分かりません。今回のEU離脱は、離脱支持派と残留支持派では、反応が大きく違います。意見もさまざまですが、EUと別れただけでなく、国内も2つに別れてしまいました。3月2日からEU側との離脱後交渉が正式に開始されるとのことなので、引き続き見守りたいと思っています。

エコ化が進むイギリス

さて、イギリスではここ数年、「環境への配慮(エコ)」が進んでいます。昨年「2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにする」ことを法制化し、国をあげて取り組んでいるのです。

当時首相だったテレサ・メイのツイッターより。「2050年前に実質ゼロへ。ぜひ実現しましょう」と呼びかけ。

特に若い世代は学校で環境問題についてかなり学び、討論を繰り返しているので高い関心を持っています。18歳になるまで選挙ができなくても、環境問題は子供でもできる政治参加です。「自分たちが生きる世界を守るため」の取り組みなので、力が入っているのです。

プラスチック削減は「定着」

エコ、といってもさまざまな分野があります。現在もっとも話題になっているのはプラスチックの削減です。昨年BBCの番組が3回に渡りプラスチックについて特集し、イギリスが(も、ですね)プラスチックごみを国内で処理せず、違法に輸出していたことを暴き大きな注目を集めました。

BBC「War on Plastic」3回シリーズの予告編。イギリスのプラスチックごみの現状と今後の取り組みについて特集。放送後、この番組の話題がよく会話に登場しました。

「使い捨てプラスチック製品の使用をやめよう」という意識は昨年、かなり定着した感があります。今年4月からプラスチック製のストロー、綿棒(「棒」部分はプラスチックのもの)、マドラーの販売は禁止になります。また空港などの公共施設や路上に無料の給水所がどんどん出来ています。これはボトルを持参していれば「外出先でペットボトル入りの水を買わずに済む→プラスチックを削減できる」という取り組みです。

上はヒースロー空港の給水機。下は路上に設置された給水所。便利です。

カフェで使われるテイクアウト用の袋や箱、店内で使用する皿やカトラリー系もプラスチックではなくなっています。これは企業や店舗が「環境に貢献しよう」という意思表明でもあると同時に、エコへ配慮しないと顧客に支持されなくなるという現実もあります。環境への意識が高い人は、プラスチックをバリバリ使うお店を決して利用しないからです。

この辺のプレッシャーは小規模店のオーナーには厳しいこともあると思いますが、社会全体の意識が動いていることを示しています。

そしてさらに環境への配慮を追及し、ゴミを減らすだけでなく、ゴミを出さない「ゼロ・ウェイスト」のカフェやレストラン、そして店舗も登場しています。

話題のゼロ・ウェイスト・レストラン「Silo London」

「ゼロ・ウェイスト=ゴミを出さない」は、食材を徹底的に使い切ることはもちろんなのですが、調理やサービスにまつわるゴミ(例えば食品用ラップフィルムやアルミホイル等も含め)もゼロを目指すので、簡単ではありません。

加え、環境配慮への思いを共有した上で生産者を選定する、輸送に使うガソリンを削減するため可能な限り地産地消を目指す、エコ・エネルギーのプロバイダーと契約する等、各々がかなり配慮し、独自の方法で環境問題へアプローチしています。

イギリスで最初のゼロ・ウェイスト・レストランは、2016年にブライトンに誕生した「Silo」です。このレストランが昨年11月ロンドン東部、Hackney Wick地区に移転し「Silo London」としてオープンしました。

大きな話題となっているこのお店に、ある週末に行ってみました。

運河沿い

最寄り駅はHackny Wick駅ですが、この日はこの駅が閉まっていたので、地下鉄Stratford駅から運河沿いを歩いてお店に行きました。あいにくの曇り空でしたが、ナローボートや倉庫街を開発した地区の様子を眺めつつの散歩は楽しかったです。

外壁

大きな看板はなく、外壁に書かれたこの文字が目印。クラフトビールの醸造所「Crate Brewery」の敷地内にあります。

週末に行ったのはブランチがあるからです。このお店は火~金はディナーのみの営業で、メニューは50ポンド(約7000円、ドリンク&サービス料金別)のテイスティングメニューだけ。しかし土日はブランチもあり、ディナーに比べてずっと気楽な値段で「ゼロ・ウェイスト」料理を楽しむことができます。

内観

装飾を抑えたインテリア。天井が高く、開放感があります。壁に映写されているメニューもインテリアの1つ。客層は子供づれから数名グループ、年齢層もかなりバラバラ。

キッチン

オープンキッチンなので、カウンター席から調理風景が見えて楽しめます。

厳選した素材を徹底的に使用し、どうしても使えない部分はコンポストに入れて自社内で肥料化するのがこのお店のモットー。肥料は生産者に提供し、このお店の流通サークルの中ですべてを処理できるシステムを目指しているそうです。

肉などの動物性の食材も扱ってはいるものの、最小限に抑えているのも特徴です。牛肉は温暖化ガスをもっとも排出する食肉と言われており、環境に配慮する人でベジタリアンやビーガンになる人が多い昨今。このレストランはベジタリアン/ビーガン、またグルテンフリーの人たちが安心してチョイスできるメニューとなっています。

メニュー

ほとんどのメニューにV=ベジタリアン、VG=ビーガン、GF=グルテンフリーの表記が。プラス3.5ポンド(約500円)でベーコンやブラックプディングがトッピングできます。壁に書かれたメニューの切り取りなので見づらい写真でごめんなさい。

せっかくなのでこの店流を試してみようと、わたしはビーガン&グルテンフリー、旦那のヒトはベジタリアンメニューを頼んでシェアすることにしました。

ビール

ドリンク類はアルコールはワインと「Crate Brewery」のビールがいろいろ。ノンアルコールはコンブチャが数種類あり、今どき感がありました。旦那のヒトはビール党なので、酸味のあるビール「Sour」を注文。グラスのフォルムが美しくて、それだけで美味しく見えました。

調理中

私たちの注文を仕上げている様子をつぶさに見ることが出来ました。火を入れた素材が出来上がると、盛り付けまでは本当に手早かったです。

私が頼んだ一品は「スロークックで調理したエリンギ、パプリカ、ヘンプ(麻)でできたクリームフレッシュ、シードローフ(数種類のシード(種)でできたパン)」↓

エリンギ

実はエリンギは、イギリスではまだ新しいキノコです。通常のスーパーには売っていません。

まずびっくりしたのは、エリンギがまるで“肉”のようにしっかり、どっしり、味わい深かった、という点。火を入れた後カリっと焼いてあり、しっかりと塩と油の味も沁みていました。カリッ、ザクッ、つるんの3つの食感です。パプリカの甘さもほどよく、そして土台のシードローフはかなり香ばしく「カリカリ感」が楽しめます。ヘンプ(麻)でできたクリーム・フレッシュは初めてでしたが、コクがあるのにさらっとしていて、全部の味を消さずまとめています。

旦那のヒトが頼んだのは「ハッシュドブラウン(=ハッシュド・ポテト)、ポーチドエッグ、二十日大根、カボチャのケチャップ」↓

エッグ

表面カリッ、中はねっとり、が素晴らしいハッシュドブラウンは後を引く美味しさ! トロトロ半熟のポーチドエッグとハッシュドブラウンの間に敷かれたカボチャのケチャップ(イギリスの甘みの少ないカボチャのピューレを使用)が、ほんのり甘さを加えています。カボチャをケチャップに…というアイデアも面白かったです。

2皿

私は肉も魚も大好きですが、今回のベジ&ビーガン料理には大満足しました。さっぱり感や軽さではなく、一皿で味もボリューム感もしっかり味わえたからです。自分で作る料理にコクを出したいとき、つい動物性のたんぱく質や脂に頼ってしまうのですが、「素材のチョイスや料理法次第で、こんなにどっしり味わえるんだ」と感慨深かったです。

またお店で食べる食事は、料理そのものの味だけでなく、空間の雰囲気も影響しますよね。テーブルの間隔を広めにとったゆったりした空間、シアターのように見て楽しいオープンキッチン、そしてサービスも丁寧で気持ちよく食事ができました。

コーヒー

コーヒーカップは持ち手のない「湯呑」のような形でした。私は日本人なので湯呑になれていることもあり、「コーヒーは持ち手があった方が飲みやすいような…」とも思いましたが、イギリス人にはこの形も新鮮ですしプレゼンの1つなのだと思います。隣の人はカップを眺めたり、話題にしたりと楽しんでいました。茶色の小瓶はミルク。最近このようにミルクをレトロな形の小さなガラス瓶でサーブするお店が多いです。

内観2

ビール醸造所の建物の2階部分なので、インダストリアル感を残した内観です。

内観3

窓からは運河が見えます。

正直、料理からは「ゼロ・ウェイストの料理を食べています」という感覚はなく、スタッフの方にもその点を説明されたりはしませんでした。でもたぶん客は皆、ゼロ・ウェイスト・レストランであることを知った上で来ているのだと、雰囲気から感じました。

2人で行き、注文したのはビールを1杯(2.7ポンド)、料理を2品(10ポンドと11.50ポンド)、コーヒー2杯(各2.5ポンド)で合計32.85ポンド(約4,600円、ブランチなのでサービス料はなし)。普段は近所の“超”激安スーパーに忠誠を誓っている節約家の私にしては大変お高いブランチです。毎週行けるお値段では決してありません。

でもブランチなのにたっぷり3時間弱、「ちょっと意識の高い系の場所(笑)」でゆっくり気持のよい時間を過ごすことができました。初めての場所、初めての料理、そして「ゼロ・ウェイスト」という試み―― すべてが新鮮で楽しい体験でした。

我が家のエコへの取り組み

ゼロ・ウェイストにはなかなかできないけれど、我が家もゴミやエネルギー消費の削減の工夫をしています。野菜は出来るだけプラスチック包装のないバラで買う、野菜や果物は皮も調理する、ラップフィルムを使用しない、電球をLEDに取り換える、洗剤を減らす等々、家庭で手軽にできるエコは結構たくさんあるので、出来ることを探しつつ楽しんでやっています。

電球

LEDの電球に変えました。13W(白熱灯100W相当の明るさのものは)は1つ8ポンド(1,100円強)します。電気代にどう反映するか?を注目してます。

実は現在、電気とガスを再生エネルギー・プロバイダーに乗り換えようとしているのですが、これがイギリスらしい「不思議な手順(←皮肉です)」で進んでおります。カスタマーサービスに何度も連絡しながら紆余曲折アリアリなので、最後までちゃんと行きつけるよう祈る毎日です。

環境問題はイギリスでは本当に大きなトピックです。我が家のエネルギーの乗り換えが終了したら、また改めてご紹介したいと思います。

今回ご紹介したレストラン:
Silo London
https://silolondon.com
UNIT 7, QUEENS YARD, HACKNEY WICK, LONDON. E9 5EN

※記事内の金額は、1ポンド=141円で計算しています。