File No.94Anti H.Tさん work:エアポート事務系総合職

独自の美学を詰め込んだ、
欲望と独創のミュージアム。

1980年代後半、小学生を中心に一大ブームを巻き起こした「ビックリマンシール」。1990年代後半には、後にトレーディングカードとして世界的人気となる「ポケモンカード」や、ペットボトルの蓋にフィギュアをつけた「ペプシマンボトル」が発売された。

レアものを引き当てたときは心躍り、ダブったときは心底悔やむ。それでも、コンプリートしたい欲に駆られ、飽きずにまた収集を繰り返す。

コレクターと呼ばれる人たちは、きっとこんな心理が働くのだろう。コンクリートの壁とラワン材の腰壁が映える、ノスタルジックなリノベーションシリーズ「Anti」に住むTさんも、そんな収集沼にハマったひとり。

「どんな物でも、気に入ったら何個も欲しくなるんです。たくさんあると安心するというか(笑)。だから物がどんどん増えていくんですよね」



楽しそうに話をする左後ろには、同じCDが積み上げられている。天井に着くまで集めたいという、自分ルールがあるのだとか。

「この部屋に越してくる前は会社の寮にいたんですけど、急遽異動が決まって寮を出ることになって。段ボールを200箱用意したけど、それでも足りなくて50箱追加したんです。物がありすぎて引っ越し当日になっても全部詰められずにいたら、業者の人が『詰めてくれたら閉めてなくても運ぶんで、とりあえず詰めましょう』って言って一緒に詰めてくれて。あっという間に詰め終わって、プロだな~と思いましたね(笑)」

250箱の段ボールとともに、「Anti」に越してきたTさん。寮にいたときよりもサイズアップしたことで、今まで日の目を見なかった収集アイテムたちを飾ることができたのが、何よりも嬉しかったという。

「本当はもっと男くさい部屋が良かったんです。「Hondana」とか「Doma」も候補にあったんですけど、「Anti」の無機質なコンクリートの感じと落ち着いた木の色味がしっくりきて。職場から近くて広さがあったのも良かったんですよね」



「引っ越しと同時に、もともと1つだった無印良品のラックを買い足して、今まで広さの問題で置けなかったコレクションを並べました。手前だけじゃなく奥にも物があるんですけど……、とりあえず置けるだけ置いた感じです(笑)」

このラックにも同じものがいくつも並んでいる。でも不思議と、違和感がない。むしろ、“そういうもの”という気すらしてくる。

「ストリートファッションが好きで、そっち系のアイテムを集めることが多いんです。変なのが出るとつい買っちゃうんですよ」

そういってラックの上に飾られていたぬいぐるみ(?)を見せてくれた。男性の顔がはめられたクマのぬいぐるみ……なのか……?

「これは、ファッション広告で有名な写真家テリー・リチャードソンの顔がはめられた“テリー・ベア”。1つだけでもインパクトあるんですけど、たくさん並ぶと面白いと思って(笑)」

窓の前には、レアもののベアブリックが同じ格好で並んでいる。どれも個性的で不思議なものばかり。でも、この部屋になくてはならないアイテムに思えてくる。それはきっと、Tさんが選ぶアイテムがどれもセンスの良さを感じられるからだろう。

「基本的には、気に入ったものを集めているんですけど、コラボとか限定とかに弱くて。買えなかったときは、オークションサイトで探して購入することもあります。夜中の2~3時に終了するものだと、競ったりせずに手ごろな金額で買えることもあるので結構狙い目で。欲しいものは、絶対に手に入れたいんです」

コレクターというよりも、目利きを活かしたバイヤーのよう。収集して自己充足するという意味では、博物館の創始者であり愛情持って所蔵品を扱う館長といったところか。部屋には気になるものがまだまだある。さて、展覧という名のルームツアーといきますか。

アンティーク調の部屋を彩る
愛しき突飛なモノたち

ダークブラウンの無垢フローリングに、異素材のコントラストが趣を引き出す2トーン壁。丸いフォルムがノスタルジックなガラス照明に、温かみのあるクロークと、クラシカルな要素が光る「Anti」。

そんなアンティーク調の雰囲気に、存在感を与えながらもすんなり馴染んでいる、Tさん所蔵のアイテムたち。その中でも気になったのが、インパクトを与える大きなラグだ。

「このラグ、寮にいたときは大きすぎてずっと仕舞いっぱなしだったんです。この部屋に越してきて、やっとお披露目できました(笑)。KAWSオリジナルのラグで、オークションで3万円で落としたんですよ。今では倍以上の金額で売られているので、良い買い物でした。ただラグとして使うよりも、インテリアとして部屋に飾ったほうが合う気がしたので、ピクチャーレールに吊るして使っています」

「この壁、朝はラグが見える状態なんですけど、夜はスクリーンを下してプロジェクターで映画やYouTubeを観ることが多いんです。もともとスクリーンは付けていなかったんですけど、コンクリの壁にプロジェクターを映したら、案の定何にも見えなくて(笑)。天井をつたうように配置されていた鉄管部分にロールスクリーンを取り付けて、ようやく見えるようになりました」

印象的なラグの下には、ROSETTogoが鎮座する。

「気に入って買ったソファなんですけど、ラグと腰壁の位置からしてちょっと下過ぎて。ローソファなんで仕方ないんですけど、バランスが悪かったんでサイズを合わせたスチールの台を作ったんです。これだとバランスよく見えるし、下に物も入れられるので一石二鳥でした」

台の上にソファを置くことで、部屋のまとまりが格段に良くなる。下に詰めこんだアイテムたちも、不思議と収まりがいい。

「置き方や置き場所も自分なりのこだわりっていうか、ベストな位置に置きたいっていうのがあって。大学生のときに買ったマルジェラの升は、ちょっとしたときに見えるのが可愛いなって思って、換気扇上のスペースに積んでみたんです。渋い升だから、その周りは色のあるものをごちゃっと置くと面白いかなって」

一見すると物を置くには難しいと思えるスペース。だからこそ、ごきげんな雑貨を置いてその場所自体をインテリアスペースとして確立させる。なんとも上級なテクニックだ。

「置き方のこだわりで言ったらトイレもそのひとつ。僕の中でトイレは、ポパイを読む部屋なんですよ(笑)。後ろの棚にはポパイのバックナンバーを並べています。用を足さずに、籠って雑誌を読みふけることも結構あって。だから、自分の気に入ったものを要所に置いて、トイレ兼落ち着く場所として楽しんでます」

トイレには、Fからはじまる禁止用語がでかでかと書かれたカラフルなラグに、これまたカラフルなスケボーが並んでいる。

「Anti」×「ストリート」という新たな世界を創り出したTさん。アンティーク調の部屋に、心奪う突飛なモノたちをラフに自由に彩るのだ。

(左)スターウォーズのキャラクターATATのフィギュア。「本来は文字が入っていないんですけど、好きなストリートファッションブランドのロゴをまねて書いたんです。このフィギュアも実は3体あるんですよ」(右)天井吊りのハンガーラックには、好きだというストリート系の服がずらりと並ぶ。「服や靴も大好きで色々買うんですけど、結局、白Tばっかり着てて(笑)。手に入れたら満足するのかもしれないです」

趣味としての収集と
コレクターとしての未来

アイテム一つひとつの説明を丁寧に受けながら、ルームツアーも終盤に。とはいえ、まだまだ気になるものがたくさんある。

特に、ベッドの前にある顔型のテーブルが気になって仕方がない。



「これはBRAIN DEADっていうストリートブランドが出したテーブルで。この部屋に合うテーブルを探していた時に、ネットオークションで見つけて落としたんです。これも落とした金額の倍くらいになっていると思います」

本当に買い物上手。のちに値が上がるものをかぎ分け手に入れる。この能力を活かして仕事にはしないのだろうか?

「いやぁ、どうなんですかねぇ。興味はあるんですけど、今の仕事を14年近くやってて、なかなか辞めるってことができなくて。腰が重いんですよね。でも集めたものでリース業をしたり、販売をしてもいいかなって思ってはいるんです。でも、僕くらいのレベルの人なんてたくさんいるだろうし、難しいかなって」

いやいや、絶対向いている! 撮影スタッフ全員が総ツッコミするくらい、その場にあるアイテム、それにまつわる話の面白さに引き込まれていた。

「そう言ってもらえると嬉しいんですけど(笑)。実はこういうのも集めているんですよ……」

おもむろにラックからファイルを取り出し、大きな鏡の横に積んであるボックスを1つ開けてくれた。

「海外に行った時や、国内のミュージアムの資料とか全部とっていて。フライヤーやチケット、香港の見知らぬおじさんが筆で書いていた店のチラシやアジアっぽい買い物袋とか何でももらってきてコレクションしてるんです」

ラックに並んでいるファイルも相当あるが、まだファイルにも入れていないお宝たちがソファ下のボックスに眠っているという。

「ステッカーを集めるのも好きで、これはほんの一部なんですけど。劣化しないように、それぞれ袋に入れて保管しているんです」

これだけの収集家としての素質、眠らせておくのはもったいない。やはり、何かカタチにしてほしいと願ってしまう。

「いつか自分が集めた物を披露できたらいいなとは思います。一軒家を借りて、一つひとつをもっとじっくり見せられるようにしたいなって。見晴らしがよいところとか海が見えるところとか、そういうところで好きに住めたら最高ですね」

見晴らしの良い場所で、愛すべきアイテムとの暮らし。最高すぎる。でもその前に、Tさんの収集展を実現させ、本物の館長として私たちを楽しませてほしい。いつかのその日を、勝手ながら願ってしまうのだ。

Text: Tomomi Okudaira
Photograph: Hiroshi Yahata