File No.88Hondana N.Tさん work:一般財団法人人材育成(取材時)

はじまりの木棚に、
思い出と未来をしのばせて。

人はいくつもの節目を経験する。入学や卒業、就職や結婚……今までの自分と決別し、新たに歩み出す「けじめ」のとき。Tさんはその節目にこの部屋へとやってきた。

「この部屋にきて約半年ちょっとですが、実は仕事を辞めることをみこして引っ越してきました。実は今、有休消化中なんです」

Tさんの仕事は、日本の技術や経営手法、生産管理などを海外の企業に向けて研修や指導をするという、海外労働者のための人材育成。

「海外の企業から研修で来た方に、技術面や管理システム、日本的なものの考え方などを各分野の講師が1~6ヵ月かけて教えて身に着けてもらうんです。僕の仕事は、研修で来た方が学ぶ場とする研修施設の管理。今は東南アジアの方が多いんですけど、中国や南米、中東や東アフリカから来ることもあるんですよ」



「この仕事は、大学を卒業してからだから今年で30年。長いですよね(笑)。節目でもあったし、実家が落ち着いたというのもあって区切りとして辞めようと思ったんです」

聞けば、関西に住む母親が大病を患ったことで、毎週末、実家に帰って看病をしていたという。

「半年間その生活を続けていました。今は容体も安定して月1で帰っています。自分の中でやり切ったって想いがあったんです」

実家に通った半年間、それはこの部屋に越してきた期間と同じ。

「母親のことがきっかけで引っ越しすることにしたんですけど、この部屋を見た時、壁一面に作られた棚がすごく素敵で。落ち着いた雰囲気もとても良かった。お洒落な上に、前に住んでいた部屋よりも家賃が下がる、それに職場からも近かったのでこの部屋以外の選択肢はなかったです」

Tさんが越してきたのは、床から天井まで届く迫力あるオリジナル本棚が印象的なリノベーションシリーズ「Hondana」。重厚なダークブラウンの棚には、本をはじめ思い思いの品が並ぶ。



「海外に赴任したときに物を処分していたので、もともと物が少なくて。だから本棚スペースはまだまだ余裕があるんです(笑)。お洒落な部屋に住むのがはじめてで、どういったものを置いていいのか分からなかったので、お店の方にシミュレーションしてもらいながら家具を揃えていきました」

「折り畳んで使えるテーブルと椅子、ラグにペンダントライト、サイドテーブルは全てBoConceptで揃えました。部屋のデザイン、サイズと造りを伝えて、部屋に合ったものを一緒に選んだんです。本当は、テーブルはキッチンの方で使いたかったんですけど、こっちの部屋よりもちょっと暗めで。使うなら光が当たるこの部屋の方が合っているなと思ったんです。折りたためるので、圧迫感なく使えるのがいいですね」

お店の方と一緒に選んだというだけあって、どれも部屋に良く合っている。

「部屋をイメージしながら家具を選んだ時、インテリアを考えるってすごく面白いなって思ったんです。こんな風に家具を選ぶことがなかったので、すごく新鮮でした。それ以来、色々サイトを見ては、次は何を置こうかって考えているんです」

柔和な笑みをたたえながら、楽しそうに話すTさん。節目とともに越してきたこの部屋は、知らなかった自分の一面を知るきっかけとなった。

微笑みの国で育んだ
現地の方との交流と絆

現在は、次の仕事への準備を進めつつ、自分時間を満喫しているというTさん。本人曰く、まだまだ揃っていないという本棚だと言うが、小物をはじめ写真集などが並びセンス良くまとまっている。気になるのは、その写真集。どれもタイの風景を撮影したものだという。

「2017~2020年までタイのバンコクに研修指導の引率として赴任していたです。中心地はとても発展していて、生活自体は日本に住んでいるのと変わらなかったですね。日本食のお店もたくさんあったんですけど、タイ料理の美味しさに気づいて日本食はほとんど食べなかったです。今でも恋しくなって、よくタイ料理を食べに行っています」

日本とは全く文化の異なるタイ。大変なことはなかったのだろうか。

「生活自体は大変ではなかったです。ただ、現地の方に何かを教える際に、上手く伝わらないことがあってそこは苦労しました。そういったときに、以前日本に研修に来たことがあるローカルスタッフに通訳として入ってもらったんです。タイ人同士の方が話が進むし、色々抱えている情報を引き出してくれて問題解決にもつながる。日本で学んだ方がいると、実務的なことだけじゃなく、コミュニケーションを取りながら仕事ができるということが実感できてよかったですね」

懐かしむように当時を振り返るTさん。よほど良い思い出なのだろう、写真集が飾られた反対側のキッチンの棚には、タイで買ったというアイテムがずらりと並ぶ。



「今でも現地の方と繋がっていて、彼らが日本に来た際は、一緒にご飯を食べに行ったり観光に行ったりしています。2年前には仕事とは別でタイに行って、皆に会ってきました。そのときに買ったものや貰ったものを飾っています。タイは今カフェブームでコーヒーに力を入れているので、コーヒー豆もたくさん売っているんですよ」



「コーヒーミルは、ローカルスタッフに貰ったもの。これを使ってよくコーヒー豆を挽いていて飲んでいます。手前にあるのは、タイ北部にあるアカ族の村で栽培されているコーヒーで。香りが良くて味わい深いんです」

生き生きとタイでの思い出を語るTさん。仕事で繋がった縁を大切にし、交流を重ねてかけがえのない友を得た。その絆は、この部屋を彩る一部となっている。

(左)赴任した際のデスクに飾られていたプレートは、帰国の際に貰ったという。手掘りの施しは趣を感じ、部屋のインテリアとなっている。(右)「これはタイのチャトチャックマーケットで買った扇風機。アンティーク調で可愛いんですよね。日本とは電圧が違うので、変圧器をつないで使っています」

新たなるスタートを
この部屋とともに

Tさんが培った30年は、実績とともに豊かな交流を育んだ。きっとこれからも、自分の信じた道を行くのだろう。仕事を含め、何か考えていることはあるのだろうか。

「ゆっくりしながら何をしようか考えているところですね。今までやった仕事を活かせればいいなとは思っています。またタイに行って仕事をするっていうのもいいですね。言葉はあまり喋れないんですけど(笑)」



「仕事以外で言うなら、旅行に行きたいです。今まではアジア圏が多かったので、ヨーロッパに行ってみたい。北欧とかいいですね。インテリアが可愛いので、実際に行って見てみたいです」

インテリアに興味を持ちはじめたきっかけとなったこの部屋での暮らし。北欧の家具や雑貨が並んでもきっと素敵だろう。

「この部屋で言うと、ピクチャーレールがあるのでそれを活かして何かできたらとは思っています。家具店やインテリア雑貨のお店に行くことも増えたので、部屋に合ったものを見つけて飾りたいですね」

やりたいこと、生きたい場所、まだまだたくさんあるのだろう。少年のように目を輝かせ、未来を語るTさんを見ていると、これからの人生が楽しくて仕方がないのがわかる。

何かをはじめることに、遅いことなんてない。スペースの空いている本棚には、これからたくさんの経験を重ねて得た素敵な思い出たちを飾るに違いない。

(左)玄関横のスペースには海外の民芸品が並ぶ。「玄関横にゴールドの物を置くと風水的に良いって聞いたので、なんとなくゴールドの物を置いています(笑)」(右)本棚とは別のラックには、十字架とともに可愛らしい置物が。「親がクリスチャンなので幼いころから信仰しています」

Text: Tomomi Okudaira
Photograph: Hiroshi Yahata