File No.87KiLT K.Mさん work:建築設計

ウッディな腰壁に魅せられた、
変革と心酔のヴィンテージ。

英国文化のひとつに、「物を大切に扱い後世へと残す」という教えがある。これは家もしかり。築100~200年を超える家も丁寧に改修し、自分好みに変える。

代々受け継がれた家は、時を重ねるごとに風格が備わり重厚感を増していく——。そんな英国の空気感が色濃く反映されているのが、REISMの最新リノベーションシリーズ「KiLT」。スコットランドの伝統衣装「Kilt」を思わせるウッドウォールで切り替えられた壁面に、艶のあるウォルナット無垢のフローリング、極め付きは、部屋の一角に設けられたお籠り感のあるヌックスペース。まさに英国クラシックな空間。

ウッディな腰壁に、ムードある明かりや落ち着きのある「KiLT」のディテールに魅了され、内見したその日に即決したというMさん。この運命的な出会いによって、自身の考え方が180度ガラリと変わったという。

「内観や構造、設備を設計する仕事をしているんですけど、無駄を省いた、なんというかよくある一般的な家が専門で(笑)。シンプルな造りの家を設計しているので、自分の住む部屋は真逆のものを探していたんです。40軒くらいは見たかな……、その中で、重厚感のある木壁や床、細部まで妥協のない造りが印象的なこの物件を見た時、『こういうのが好きだった』って気持ちを思い出して。駅からも近くて通勤圏内、1人目の入居者っていうのも決め手になりました」



「この部屋に住む前は、“必要最低限”のものだけがあるシンプルな生活をしていたんです。でも、実際にこの部屋に住むようになったら、部屋に合うものを置きたい!って思うようになって。ナチュラル系とも違う、もっと落ち着きのあるもの……って探したときにヴィンテージのアイテムがしっくりきたんです。それをきっかけにヴィンテージの奥深さにどんどんハマって、抑えていた物欲が爆発しました(笑)。“必要のないものに囲まれて暮らす豊かさ”ってあるんだなって、知れたきっかけになりましたね」

穏やかな笑みを浮かべながら、自身の変化を嬉しそうに話すMさん。気持ちの変化はほかにもあったのだとか。

「この部屋で暮らすようになって植物を置くようになったんです。学生時代、植木屋でバイトをしていたんですけど、自分で育てるのは下手で。でも、この部屋は陽当たりも良いし、ウッディな色味に緑が映えると思って。また枯らすかも……って不安はあったけど、手をかけることの楽しさを知って、今では霧吹きしてから仕事に行っているんですよ。我ながら丁寧な暮らしをしているなって(笑)」

ヴィンテージショップで買ったというソリやスツールの上には、オブジェの役割も担う植物たちが。気持ちの良い光に包まれ、青々と気持ちよく育っている。まるでMさんの心を反映しているかのよう。

「暮らしが変わったことで、気持ちに余裕ができたんだと思います。今までだったら、買い物ひとつするのも目的がなければ行くこともなかった。でも今は、目的なく出かけてヴィンテージショップを巡ったり、ふらっと美術館に立ち寄ってみることも。こういった時間が、生活だけじゃなく気持ちも豊かにするんだなってあらためて気づきました」

この部屋で暮らすことによって、自身の新たな一面を知ったMさん。何気ないひとときは、かけがえのないひとときへと変わっていった。

(左)居室の一角に設けられたヌックスペース。「この部屋の腰壁は、一般的な腰壁よりも高さがあるのでよりお籠り感がでるなと思ったんですけど、ベッドを置くのもいいかなって」ACME Furnitureで買ったというベッドを置き、ホテルライクな空間で毎朝ベッドメイクをするのが日課になっているという。(右)「とはいえ、ヌックスペースは欲しいなって思って。自分なりのヌックスペースを作ったんです」白壁とコンクリート壁の切り替え部分にヴィンテージのパーテーションと椅子を置き、ラグの上にはこれから読むという本が積まれている。ほんのちょっとの工夫で自分のお籠り空間をつくるセンスは流石。

価値観を大きく変えた
キッチンとグルーミングスペース

この部屋に越して半年が過ぎたというMさん。重厚感のある格子柄の壁や、使い込まれたような深みのあるフローリングのほかにも気に入った箇所があるという。

「部屋に入ってすぐに洗面台とキッチンがあるんですけど、その空間もすごく素敵で。仕事柄、色んな部屋を見るけど、こういった造りはなかなかなくて。広さもあるし、高さがあるので使いやすい。使う人のことを考えたコンセントの位置も絶妙で。自分の仕事にも参考にしたところ、結構あるんですよね(笑)」



広々とした洗面スペースにはホワイトタイルが並び、アンティーク調の蛇口に統一感のある洗面ボウル、そして存在感を放つ大きな木枠の鏡。部屋同様、落ち着いた色味で英国スタイルを醸し出す。なるほど、Mさんが絶賛するのも頷ける。

「サイドに棚もあるし、洗面下には棚が置けるくらいのスペースがあって物がごちゃつくこともない。仕切りがあるので、キッチンとの使い分けも問題ない。使いやすさもよく考えられていて」

「キッチンにもデザインが異なるアンティーク調の蛇口や飾り脚など、細部にまでこだわっていて妥協がないんですよね。自分の仕事は、こういったデザインを極力そぎ落としたシンプルな設計がメインなんですけど、とはいえ遊びがなくなりすぎると部屋自体がつまらなくなってしまう。そういう意味でも、この部屋はデザインと使いやすさがちゃんと共存していて参考になることがたくさんあるんです」

同業者であるからこそわかる価値。この部屋で暮らしは、Mさんの想像力と新たな可能性を引き出した。

(左)普段使っているという歯ブラシセットの横に、馴染むように置かれた木彫りの熊。「日本各地の工芸品を集めるのが好きで。なんとなく色味が合ったので洗面台に置いてみました。意外と悪くないなって思ってて(笑)」(右)電子レンジの上には福島の伝統工芸品であるあかべこと、小さなだるまや招き猫が並ぶ。重厚な空間に、ふっと柔らかな風が吹いたような癒しを与えている。

自分にとっての必要が
日々クリアになっていく

「KiLT」での暮らしは、Mさんの生活スタイルや価値観にいたるまで大きな変化をもたらした。ただ、この部屋にはまだまだ可能性が広がっているという。

「今までまったく料理をしてこなかったんですけど、せっかく素敵なキッチンがあるので、本格的に頑張りたいなって思っているんです。ここのキッチンはIHなので、対応できるフライパンに買い換えて調理道具やお皿なんかも少しずつ増やしていて。今はまだ簡単なものしか作れないけど、少しずつレパートリーを増やしていきたいですね」



「あとは、元々の趣味である山登りやダイビングを自分のペースでできたらいいなって。都心にいるとどうしても仕事のことが頭をよぎったり、考えてしまう。だから、何も考えずにいられる自然に身をゆだねて頭の中をリセットしたい。リフレッシュされるし、気持ちの余裕にもつながるんです」

自分の人生にとって何が必要か。この部屋で暮らすようになって自身と向き合う時間が増えたからこそ、それがよりクリアになったのではないだろうか。

では、この先の未来についてはどうだろう。生活スタイルや価値観が変わったからこそ、今までとは異なる考え方が生まれたのでは?

「密かな野望ではあるんですけど……オーナーとなって自然と一体化したような山小屋をつくってみたいです。ただ、自分のこととなるとまとまりがつかなくて中々決められなくなってしまうので、自分以外の設計者にオーダーするのがいいですね(笑)」

笑いながら、自身の未来を語ってくれたMさん。

今はここでの暮らしがはじまったばかり。ヴィンテージ家具のように、長い年月を経て味わい深い人生を「KiLT」とともに歩んでいく。



(上)この部屋に合わせて買ったというソファの後ろには、印象的なフォトポスターが並ぶ。「今までは、絵画や写真を家に飾ろうなんて発想がなかったんですけど、ここに住むようになってこういうものにも興味を持ち始めて。左の写真はアンドレアス・グルスキーのもの。右は北斎の絵をモチーフにしたフォトポスター。どちらも現代的ではあるけど、何となくこの部屋に合う気がしたんです」(左下)洗面スペースの上にはちょっとした物が置けるスペースも。「ここには読み終わった本を並べてて。奥にもスペースがあるので、そこには小物などを置いています」(右下)シューズボックスの上にも、絵画とともに可愛らしい工芸品が並んでいる。

Text: Tomomi Okudaira
Photograph: Hiroshi Yahata