落ち着きと個性が入り混じり、多くの文化人に愛される街。何気ない日常と食の大切さが丁寧に描かれた『きのう何食べた?』も、この街が舞台となっている。この漫画の一コマに、
「料理作ってる時ってちょっと無心になれるじゃない?だからごはん作るだけでイヤな事あってもけっこうリセット出来んのよねあたし」
というセリフがある。この部屋の住人も、同じような考えを持っていた。
「私、食べることも料理を作ることも好きなんです。仕事から帰ってきて料理を作って一杯飲むの本当に幸せで。疲れていても、料理を作ることでリフレッシュされるんです。充電されるっていうか。自分のために作るのも好きなんですけど、人を呼んで料理を振る舞うことも大好きで。ただ、一般的な一人暮らし用のキッチンってダイニングが別にあって、食べる人と作る人を分けてる感じがしていて。会話が生まれないなぁって感じていたんです。だからREISMのサイトでこの部屋を見た時に、4口コンロとカウンターがあることに感動して、Kitchenシリーズに住みたい!って思ってすぐに申し込みました」
くったくのない笑顔でそう語ってくれたOさん。料理が存分に楽しめる4口コンロに、作業台や収納棚はもちろんテーブルとしても活躍するカウンター。作る人と食べる人を隔てることなく料理を堪能でき会話が弾む「Kitchen」シリーズは、まさしくOさんの理想そのもの。
「一人暮らしを始めたときに自炊をするようになって。自分が作った料理を『美味しい』って言ってもらえるのがすごく嬉しくて、料理がどんどん好きになりました。単純なんですけど(笑)。その頃から調理器具や好きなカトラリーを少しずつ集めて、今まで揃えたものをこの部屋に持ってきました。このキッチンは収納も多いので、ちゃんと収まるのでいいんですよね。お気に入りのちゃぶ台も、思い入れがあったのでこの家に連れてきました」
この部屋にちゃぶ台? 北欧風のカフェスタイルにまとめられた空間に、いかにも“和”なちゃぶ台は見当たらない。どういうことだろう。
「このカウンターの上に乗っているのがちゃぶ台で。といっても天板部分だけですけど。元々みんなで囲める円卓に憧れがあって、思い切って買ったちゃぶ台なんです。思い入れのあるものだし捨てたくなくて。でもこの部屋の雰囲気には合わないし、脚の部分を足して何とかテーブルにしようかなんて考えたりもして。試行錯誤をした末、天板部分だけならこのカウンターにはまるって気づいて、まさかのピッタリフィットでした(笑)。このテーブルを囲んで友達と喋りながら料理を振る舞って、お酒を飲むのが楽しいんです」
まるでデザインされたようにカウンターにフィットするちゃぶ台の天板。「普段はここでご飯を食べたりコーヒーを飲んでいます。長年使ったものだしくつろげるんです。在宅のときはここにパソコンを置いて仕事をしていますよ」
料理をすることで、自分のスタイルを確立しているOさん。「美味しい」という言葉は、人生を彩る最高のスパイスとなった。
「Kitchen」シリーズの部屋に越してきて6ヵ月経ったOさん。この部屋に住んだことで心境にも変化があったという。
「丁寧に暮らすことの大事さに気づかされました。朝起きてパンを焼いてコーヒー豆を挽いて…何気ない日常の動作なんですけど、それに癒されているんです。料理を作る環境が整っているからこそ、それをより楽しいって思えるようになりました。そして、この部屋で暮らしてから色々なモノに興味を持つようになったんです。茶道をはじめたのもそうですね。一回体験しようくらいの軽い気持ちだったんですけど、そこの茶道の先生の所作が本当に美しくて。あぁこの先生みたいになりたい!って思って、その日のうちにお願いしますって。決めたらすごく早かったですね。今年は着物を買って、それを着て習いに行きたいです」
丁寧な暮らしを意識することは、自分の意識も変えたのだろう。聞けば、部屋の中にも様々な変化があったのだとか。
「実はレコードを聴くようになったんです。ずっと欲しいなとは思っていたんですけど、特にきっかけがなくて。近所を散歩していた時に、たまたま入ったお店で聴いたレコードの音がすごく良くて、何もわからずジャケ買いしちゃいました(笑)。それに合わせてレコードプレーヤーも買って、のんびりしたいときにレコードをかけています。アナログの音が温かくてすごく良いんですよ。暮らし系のYouTubeを観るときに、BGM代わりにかけるのが最高なんです」
ジャケ買いしたというレコードと、それに合わせて買ったというプレーヤー。部屋の雰囲気にも合っていて心地の良いカフェにいるよう。「レコードを聴きながら挽きたてのコーヒーを飲んでのんびりするのが至福の時間です」
「元々好きなものに対しては、より色濃くなりましたね。私の地元が瀬戸焼で有名な場所で昔から和食器が好きなんですけど、最近は作家の棚橋淳さんの作品を集めるようになりました。この部屋で料理をして棚橋さんが作った器に盛ると、手仕事の温か味が伝わってより美味しさが増すように感じるんです」
この部屋に住むようになって、自分と向き合う時間が増えたというOさん。求めるものに対して素直になったからこそ、未来が設定されていない「いつか」ではなく未来を見据えた「今」にシフトしていったのだ。
この部屋の暮らしを謳歌するOさん。丁寧な生活の原点になったのは、実は1冊の絵本だったという。
「子どもの頃に読んだ『こもものおうち』って絵本が本当に大好きで。穴を掘って理想の部屋を作っていくお話なんですけど、木の根っこや岩に行く手を阻まれたり、むしに会ったりするんですよ。それでも自分の目指すお部屋のカタチっていうのが明確にあるから、諦めずに掘っていって部屋を作るんです。そこに描かれた部屋が、子どもながらにすごく素敵に映って。いつかこういう部屋で暮らしたいって思ったんです。理想の部屋を追及したいっていう根本的な想いは、この絵本が原点になっていると思います」
子どもの頃に読んだ本が、暮らしの原点になっていたとは驚き。この絵本からはじまり、料理を存分に振る舞える「Kitchen」シリーズにたどり着いた。さて、次はどんな部屋での暮らしを想像しているのだろう?
「しばらくはこの部屋の暮らしを楽しみたいです。でも、いずれはマンションを買って、自分好みの理想の家に住んでみたい。希望というか、野望ですね(笑)。コンロはやっぱり4口あって、カウンターもほしい。基本はこういった北欧チックにまとめたいんですけど、土間や畳の部屋も欲しいなって。そこでお茶をたてて飲めたら素敵だろうなって思っているんです。飲食業という職業柄、自分でお店を持ちたいっていう夢もあります。創作系の料理屋さんで、着物を着て料理を作れたらいいなって」
話を聞くと、すべてが「今」はじめたものがカタチとなっていた。少しずつ、でも着実に理想に近づくOさんの未来がみえた気がした。
「自分で家を買って住むなら、この街がいいなって。飲食店も多いし、何より住みやすいんです。一人でプラッとご飯屋さんに入っても、快く招き入れてくれる。美味しいパン屋さんも多いし、サブカル的なお店もあって面白い。私にもすごく合っていたんですよね。この街に越してきて、この部屋に住めて本当によかった。しばらくは、この部屋を満喫して日々アップグレードしていこうと思います」
この街とこの部屋が、これから先のOさんの暮らしをどんどん色濃いものにしていくのだろう。もしこの街でOさんに出会ったら、「きのう何食べた?」ではなく、「きょう何作るの?」と聞いてみたくなった。
Text: Tomomi Okudaira
Photograph: Hiroshi Yahata
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