都心でありながら緑に溢れ、神社仏閣や歴史的建造物も多く点在する街。古き良きを大事にする街には、その想いに同調する人が集まるのかもしれない。
「ずっとリノベーション物件に住みたいと思っていたんです」そう語りはじめたNさんは、大事そうに一冊の雑誌を見せてくれた。
「2013年に買った雑誌なんですけど、リノベルームの特集で。そこにREISMの物件が載っていたんです。すごくお洒落で住んでみたいと思ったけど、当時は大学生だったんでお金がなくて。だから、いつかREISMの部屋に住めたらって想いがずっとあったんです」
その想いが現実となったのは2022年。コロナ禍でリモートワークが中心となり、家に対するこだわりが強くなったのがきっかけだという。
9年越しで住むことになったのは、壁一面を本棚で埋めつくした「Hondana」。法律に関する業務を担っているNさんの仕事柄、たくさんの本を収納できる本棚はとても魅力的に映ったそう。
「内見の申し込みが一番だったみたいです(笑)。部屋に入った瞬間、この落ち着いた色の床と本棚にやられました。広々としていて圧迫感を与えない壁のラインもすごく良くて。中段に設けられたデスクとして活用できるカウンターも気に入って、すぐに決めました」
決め手になったというカジュアルなチークブラウンの本棚には、本とともにお気に入りの雑貨がずらり。無垢のオーク材を使用したフローリングには、重厚感のあるソファが鎮座している。
「この部屋のイメージに合わせて家具は買い替えました。この一人掛けのソファはACME Furnitureのもの。昔から欲しくて、デスクトップの壁紙にするくらい好きで。引っ越しを機に買ったんです。テーブルも合わせて買いました」
もともとヴィンテージが好きだというだけあって、こだわりは人一倍。
“REISMの部屋に住みたい”という想いと同じように、欲しいものをゆっくりと着実に手にする、Nさんの芯の強さが垣間見えた。
REISMの部屋が紹介されていたという雑誌。大学生のときはシャビーシックな「blanc」に住みたいと思っていたそう。「当時は白い床と繊細な感じに憧れていました。今の部屋とは真逆ですよね(笑)」
随所にこだわりを見せるNさんの部屋だが、目を引くのはやはり本棚だろう。
デスク周りには仕事に関係する本や資料が並び、足元にはA4の用紙が積まれている。新たに棚を足すことなく必要なものを収納できているのは、天井まで組まれた本棚だからこそできる業。
その隣には、REISMの記事が載っていた雑誌をはじめ、漫画や雑貨、バッグや生活アイテムがランダムに置かれている。
「仕事関係の本や必要なものはデスク周りに入れていますが、それ以外は好きなところに入れていて。特に決めてないんですよ。好きなものを何となく置いただけで。バッグも上の方に入れて収納として使っています。プロテインやカップ麺も入ってますよ(笑)。この棚の中でお気に入りの物といったら、ミッケラーのビールですかね。カラフルなパッケージが可愛くて、見つけたら買っちゃいます」
聞けば聞くほど、人柄がこの棚で表現されているようで楽しくなる。なるほど、この棚は住人であるNさんのアイデンティティそのものなのだ。
法務という仕事上、規則やルールは必要不可欠。
でも本人は、堅苦しい決まりやルールに縛られない、自由な発想を持つクリエイティブな人なのだと、この棚が教えてくれている。
「この部屋の満足度でいったら80~90%くらい。理想のかたちに近いかもしれないです。でもその時々で飾りたいものや置きたいものが変わるから、いつまでたっても100%にならない気がしますね」
常に変わっていく部屋とともに、Nさんの創造力も止まらないのだ。
飲み終わった缶を並べているというミッケラーのビールは、冷蔵庫にもストックがあるそう。斜め下に見えるのは『花束みたいな恋をした』の本だという。「この映画がすごく良かったって友達に言ったら、みんなが本やグッズをくれて(笑)。せっかくなんで、目立つところに飾っています」
お気に入りの物に囲まれた暮らしを謳歌するNさん。ソファと一緒に買ったというテレビボードの上には、カラフルなパワーパフガールズのイラスト2枚とラフなタッチの手描き風の絵画、その横には浮世絵が飾られている。その前にはゲーム機やお酒、香水やアメリカンなステッカーも。
一見するとバラバラなデザインの小物が並んでいる。それなのに、不思議なほどマッチしているはなぜだろう。
「手描き風の絵と浮世絵はもらいもので、どこかに飾ろうと思ってて。でもそれだけだと部屋のイメージと合わないから、パワーパフガールズのイラストを追加して額に入れて飾ることにしたんです。自分好みにしていくのは好きなんですよ。もともとインテリアが好きで、小学生のときから部屋の模様替えをよくしていたり、Francfrancで雑貨とか買っていたんです。お小遣いで買える範囲なので小物しか買えなかったけど、好きなものを一つずつ揃えるのが嬉しくて」
相異なるものを自分好みに変えられるのは、こうした子どもの頃からの経験が生かされているのだろう。「好き」なものに対して妥協がないからこそ、遊び心のあるスマートな部屋ができあがったのだ。
「インテリアも好きなんですけど、洋服も好きで。特に古着が好きなんです。小学生の時は、近所にあったセレクトショップに貯めたお年玉を握りしめて買いに行ってました。ラックにかけている緑のジャージは小学生の時に買ったもので、今でもお気に入りです」
そう言って見せてくれたジャージとともに、ラックにはこだわりの服が並んでいる。ピクチャーレールが設けられたコンクリートの白壁には、お気に入りだという服が飾られていた。
この一角だけ見ると、古着屋と見まごうほどのお洒落なつくり。デザインしたような配置のセンスとカラーバランスに脱帽してしまう。
「今は服を飾っているんですけど、住みはじめた頃はプロジェクターで映画を観ていました。でも、使っているうちにテレビでいいかなって思うようになって(笑)。友達にあげちゃいました」
日々進化する自分のこだわり。それを、すこぶる楽しんでいるのがよくわかる。その証拠に、物への愛着はあるけど決して執着をしていない。部屋の雰囲気に合うか、心がときめくかどうか。その想いは、子どもの頃からひとつも変わっていない。
シンプルな問いに常に素直に答えてきたからこそ、洗練された空間が創り上げられたのだろう。
Text: Tomomi Okudaira
Photograph: Hiroshi Yahata
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